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「素直になれなくて」1

人間自体が嫌いだった。
人間は好きなだけ私達の身体を弄んで、簡単に捨てる。
だから嫌いなのだ。
特に、普段からいい加減なことばかりを言う様な人間は。


「猫神様~、具合でも悪いんですか?」

シロが心配そうに、濡れた大きな瞳で私を見上げる。
私のことを今も神様と呼んでいるのは、此のシロだけだ。
何時まで経っても、シロは可愛い。
私のことを慕ってくれている。


「洋平が帰ってこねぇから苛々してんだろ。」
「そうなんですか?」
「そうそう、俺達は俺達でイチャイチャしようぜ、なぁシロ。」
「りょ、亮平~、恥ずかしいってば!」

しかしその隣にいる此の人間…。
認めたくはないが、シロの恋人であり、洋平の兄でもある人間だ。
此の人間だけはどうしても私は気が合わないのだ。
いい加減で、好きなことばかりして、自信過剰で。
洋平に出会う前から知っているが、シロが何故この人間を選んだのか、どうにもこうにも解せないのだ。


「お前は…、私のことを馬鹿にしているのだな。」
「あ?んなこたねぇよ、馬鹿にしてんのはお前だろ。」
「お前にお前などと呼ばれる覚えは無い。」
「お前だって呼んでんだろうが。」
「あーもうっ!亮平っ、猫神様も!すぐ喧嘩する~!」

一度会話が始まると何時もこうだ。
いや、会話としても成り立っていないと思う。
シロがこうして止めてくれるから、直ぐに終わるのだが…。
放って置いたら、延々続けてしまうだろう。


「ごめんごめん、シロ。怒るなよシロ~。」
「だって…。」
「こっち向けよシロたん、ほら、な?」
「亮平~…。もう喧嘩しちゃダメだぞ。」
「んー、わかったわかった。」

人前で口づけなどして。
恥ずかしいなどと思う心が無いのだろうか。
顔も声も、血が繋がっていあるだけあって、洋平とはよく似ているのに。
どうしてこんなにも違うのだ…。
今まではその様なことしか思っていなかった。
其れが変化したのは、数ヶ月前のとある日だった。

其の日、私は何時もの様に洋平を待っていた。
台所で飯の支度をしていると、玄関の呼び鈴が鳴ったのだ。
声だけで、其の人間が誰なのか、直ぐにわかった。


「何か用か?」
「あー、洋平まだ帰ってねぇのか?」
「そうだが。」
「んじゃ中で待ってていいか?」

家の中に入れない程私は心の狭い人間ではない。
それに、此処自体、洋平の家で、此の人間は洋平の兄だ。
そう思って、扉を開けたのだが…。


「よぉ。」
「久し…振りではないか…。」
「何?俺に会いたかったのか?」
「な…、馬鹿なことを…。」

口を開くとそうやって私を馬鹿にする。
しかし馬鹿なのは私の方だ。
何故なら、此の人間の言う通り、私は待っていたからだ。


「いい加減に素直になれよ、猫神。」
「呼び捨てに…するな…。」
「じゃあ銀華?それでいいのかよ?」
「あ……。」

似ている。
洋平と声がよく似ている。
私は何時からか、洋平に似たこの人間に、恋をしてしまっていたのだ。
其れを此処で見破られるとは…。


「興奮してんのか?」
「お前は…っ。」
「俺が気付いてないと思ったのか?」
「離れろ…っ。」

洋平とは違う、肌の匂い。
それとは逆に、似ている声に、眩暈を覚えながら、その身体にしがみ付いた。
離れろと言ったのは己なのに、矛盾している。


「銀華…、好きだって言えよ…。」
「…あ……、洋平…。」
「洋平じゃねぇよ、亮平だ…。銀華…。」
「…亮平っ、好きだ……。」

告白と同時に、その唇を貪った。


<つづく>

亮平:「…有り得ねぇ……。」(鳥肌)
銀華:「私も御免だ。勘弁してくれぬか。」
亮平:「は?続くのかよこれ?!やめてくれよ!」
銀華:「其れは私の台詞だ!」

<以後、延々と喧嘩>

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