「ス ト イ シ ズ ム」【4】
「マ グ ネ テ ィ ズ ム」シリーズ 「…先生……っ?!ふ……ぅ…んっ。」

何か言おうと、抵抗しようとする五十嵐の唇に隙を与えないようにして塞いだ。
とろりとした生温かい唾液をその口内に一気に注ぎ込む。
突然だったせいか、五十嵐は全てを受け入れられずに唇の端からはその唾液が零れ落ちた。
カーテンを閉めて薄暗くなった保健室で、頬を伝って流れて行く唾液が、銀糸のように光っていた。


「どうした?キスだけでこんなになってどうする?」

涙目になって自分の胸ぐらを掴む五十嵐は、やっと高校生らしい表情を見せた。
潤んだ瞳と真っ赤になった目元と頬で、激しく動揺してしまっているのがわかる。
「抱いてくれ」そう言ったのにこの段階でこんなになるとはこちらとしても思ってもいなかった。
だけどそこで止めようと思わなかったのは、これ以上こちらにちょっかいを出させないためだった。
恐い思いをすれば、もう関わりたくないと思うのは当然のことだと思ったから。
決してこの時の五十嵐に欲情したわけではない。


「先生……ぇっ、あ、や、先生……っ!」

キスを繰り返しながら、五十嵐の下半身に手を伸ばした。
細かいチェック柄の制服のズボンの上から触れて、そこが変化しているかを確かめる。
僅かに質量と角度の変わったそれに直に触れようとジッパーを下ろして下着の中に手を突っ込むと、
熱くなったその先端からは、既に先走りが滲み始めていた。


「さすがは若いだけある。もう濡れているな。」
「待って下さ……っ!はぁ…っ!」
「待て?何をだ?胸でも弄って欲しかったのか?必要ないだろう?」
「でも…、あっ、待って下さ……っ!や…やだ…っ!」
「嫌?君が言ったんじゃないのか?抱いてくれ、突っ込むだけでいい、って。」
「先生…、あ、あぁ……っ!」

耳元で責めるような台詞を囁くと、手の中の五十嵐のものがまた変化した。
こんなことだけで感じている五十嵐を、もっと虐めてやりたくなった。
柔らかい耳朶を唇で噛みながら、下着ごと制服を膝まで下ろすと、露になったそれが完全に天井を向いてしまっている。
それが自らの視界にも入って来てしまった五十嵐が、思わず顔を隠した。


「恥ずかしいのか?そんなわけはないだろう?君が言い出したことなんだ。」
「あ……あ…!」
「しっかり見ておきなさい、自分が抱かれるところを。」
「や、先生…っ、あ…っ。」

五十嵐の顔を覆った手を、無理矢理剥がす。
このまま行為を続けたら五十嵐は泣いてしまうのではないか、そんな心配が少しだけ脳裏を過ぎった。
俺のせいか…?違うだろう、五十嵐のほうが先に誘って来たんだ。
大人をからかうもんじゃない、それを教えてやろうと思っただけだ。
そんな自問自答を繰り返していた。


「あぁ…っ、やあぁっ、先生っ、あ…っ!」

普段より随分と高くて、思っていたよりも甘くて、艶のある喘ぎ声だった。
耳の奥までその声が届くと、まるで鼓膜を刺激しているみたいだ。
まずいと思った。
先程の五十嵐のことは言えないぐらい、その声に興奮を覚えてしまっている自分がいた。


「静かにしなさい、聞こえたらどうするつもりだ。」
「…んぐ……っ、ンン───…ッ!」

下半身を弄る手とは反対の手を、五十嵐の口元に当てた。
ここで自分まで夢中になってしまったら、五十嵐の思う壺だ。
仕掛けた罠には嵌らない。
嵌ってたまるものか…。
そんな悔しさなのか怒りなのかわけのわからぬ感情を込めて、一層激しく五十嵐のものを擦り上げた。


「ん──…、ん───…っ!」
「ふ…イきそうなのか?早いな…。」

明らかに表情を変えた五十嵐が、塞がれた声で訴える。
ぼろぼろと涙が零れ落ちて、いよいよその瞬間を迎えようとしていた。


「せんせー?いないのー?井上先生ー?」
「絆創膏欲しいんですけどー?先生ー?」

突然保健室のドアを開ける音と、女生徒の声が飛び込んで来た。
カーテンの向こうに足が二人分見えて、一瞬焦ってしまった。
この現場を見られたらどうなるか。
自分も五十嵐もただでは済まされないだろう。
ぴたりと喘ぐのを止めた五十嵐の顔が、青ざめていくのが見えた。


「せんせー?ベッドのほうかなぁ?」
「あぁ、絆創膏なら棚の引き出しあるから。今具合の悪い生徒がいて出れないんだ。」
「そうなのー?んじゃ勝手に貰ってくね。」
「あ、あったよここ!絆創膏って書いてある。」

カーテンの向こうではがさがさと棚の引き出しを漁る音がした。
入っているものをラベルにして貼っておいてよかったと思う。
整理整頓は一通りできる人間に育ててくれた両親に、こんな時になってなぜか感謝をしてしまった。


「予備に2、3枚もらっちゃおーっと。」
「うん、そうだね、あたしもー。」

薄いカーテン一枚を隔てた場所でまさかこんなことが起きているなんて、女生徒達は思ってもいないだろう。
距離にして2、3メートルのところだ。
男同士のセックスなんて、今時の女子高生でも決して見慣れたものではない。
そう焦る気持ちとは逆に、この状態に興奮している自分もいた。
ここで五十嵐をイかせてみたい、酷いことをしてみたい、と…。


「せんせ、お邪魔しましたー。」
「失礼しましたー。」
「あぁ、すまない、出られなくて…。」
「─────…ッ!!!」

何もない振りをして女生徒達と挨拶を交わしながら、擦る手の速度を急激に上げた。
先走りの溢れる先端を指先で強く押しては引っ掻くように刺激する。
そして女生徒達が立ち去ろうと足の向きを変えた瞬間、自分の手の中に五十嵐が白濁液を放っていた。






「感想は?」
「………。」

女生徒達のいなくなった保健室で、五十嵐の激しい呼吸が聞こえる。
露出した下半身をなんとか隠そうとズボンを上げようとしているけれど、手が震えてうまく動かないらしい。
汚れてしまったそれを近くにあったティッシュペーパーで拭く姿までぎこちなくて、その顔は今にも泣きそうだった。
本当に最後までしてしまったら終わりだと思った。
五十嵐がどうなってしまうのか、予想もつかない。
自分がどうなってしまうのかも、予想がつかなかった。
もしかしたら恐いと言えば恐いのかもしれない。
だけどそんなことは五十嵐には絶対に言えない。
だから先程のところで行為はやめた。
それにもう、これだけでも五十嵐には効果覿面に思えたからだ。


「だから言ったんだ、馬鹿なことを言うな、と。」
「……馬鹿なことじゃないです。」
「セックスもしたことのない子供が粋がるんじゃない。」
「………!!」

その分だとキスも初めてだったのではないかと思うぐらい、五十嵐は慣れてはいなかった。
キスはともかくとしてセックスのことはどうやら図星らしいのか、真っ赤になっている。
そうやってすぐに表情に出るのが子供だ。
大きなことを言っても、大したことがないところが子供だ。
大人の自分に比べたらそこが全然出来ていない。
そんな子供には興味などない。
元々男に特別興味があるわけでもないのだから。


「わかったら具合が悪い以外でもうここには来るな。馬鹿なことも言わないことだな。」
「………。」

さすがにもう歯向かえなくなったのか、五十嵐は無言でベッドを降りた。
制服を整え、丸めたティッシュペーパーをゴミ箱に投げると、そのまま黙って保健室を後にした。

これでいい。
これで五十嵐のことは片付いた。
もういちいち気にしなくてよくなる。
あの生意気な言動や意味不明な行動に振り回されることもない。
自分は間違っていない。
自分で自分に確認をした。

本当のところは確認するかのように、自分に言い聞かせるしかなかったのかもしれない。
back/index/next only sweetest. Copyright(C)2007 Hizuru.Sakisaka,All rights reserved.