「All of you」-16
「ギリギリセーフ…?でもないか…。」
「はぁ……っ、はぁ……っ。」
「志摩にバレてたら大変だっ……ぎ、銀華っ?!」
「お…お前…っ、わ、私に何の恨みがあっ……っく…っ。う……っく…。」
信じられないことが起きて動揺している子供のように、私は涙を流ししゃくり上げてしまっていた。
痛みや快感で涙を流すことはあっても、このようなことで涙を流すのは初めてだった。
病院へ着いた時と言い、私は何時からこれ程涙脆くなってしまったのだ…。
これも全て洋平のせい…いや、そんな洋平を好きな自分のせいなのかと思うと悔しくて、余計涙が溢れて止まらなかった。
「ちょ…、マジで泣いてんのか…?」
「う…五月蝿い…っ!私だって泣きたくて泣いているわけではない…っ!お前がそのようなことをするから…っ!お前のせいだ…!お前は最低だ…っ!!」
「うわ…ご、ごめん…!まさか泣くなんて…!」
「ば…かものっ!謝るぐらいなら最初からやるなと言っている…っ!」
お前は馬鹿だ。
私も馬鹿だが、このようなことをするお前はもっと馬鹿だ。
それともむきになって歯向かっていながらも感じてしまった私は、もっともっと馬鹿だと言うのか…?
「うん…ごめん…。」
「よ…良いからもう…っ!もう良いだろう…っ!」
「え…?何?いいの?許してくれるってことか…?」
「そうではないっ!良いから早く抜けと言っているのだ…っ!!この大馬鹿者…っ!!あ………!」
惚けたことを言いながら今だ入ったままの指がずるりと引き抜かれ、その妙な感覚に私は顔を歪めた。
抜かれたというのにまだ入っているような気がしてならないのは、なぜだ。
私はなぜこんなにも感じてしまっているのだ…。
これでは洋平の思う通りではないか。
そして洋平の思い通りになってもいい、そう思ってしまうのはなぜだ…。
「銀華…ごめんな?」
「お…まえは…ずるい…。」
「うん…ごめん…。」
「私を…っ、私をこんな風にして…っ!責任を取ってもらうからな…っ!」
己の決意も自尊心も何もかもどうでも良くなる程、私の中に入り込んで来て…。
洋平というたった一人の人間に、私はこんなにも夢中になってしまった。
過去を理由に心を揺らし家出をしていたことも馬鹿らしいと思える程、私が好きなのは洋平だけなのだ。
他の誰かが入り込むことなど出来ない程、心の奥底から愛し、欲している。
その心も身体も、洋平の全てが欲しいのだ。
「うん…わかってる…。」
「わ…かって…いるなら…っ。」
「うん…?」
「わかっているなら…っ、は…やくしろ…っ!」
早くお前のその熱い塊で私を突いてくれないか。
現実の中の細かな悩みやもどかしさなどを忘れてしまえるような、深く熱い契りを交わしたい。
何処か別の場所へ飛んで行けるようなあの快感を私にくれ…。
「でもさっき抜けって…。」
「屁理屈を言うな…っ!わかっているくせに…っ!」
「うん…だから?」
「だからお前の…っ、お前の……でっ、私を…っ、早くそれを…い…れ……ああああぁっ!!」
私の望み通り洋平の熱いものが一気に挿入され、衝撃に目が眩む。
唾液で濡れたそこは洋平のものが動いて擦れる度に厭らしい音を鳴らし、部屋中に響いている。
「す…ご…っ、銀華…っ。」
「う……はあぁっ!あ…ああ……!!」
口の端から唾液が零れてしまうのも、脚を思い切り広げてしまっていることも、どうでもよかった。
繋がった場所が伸縮して洋平のものを締め付け、そのきつさに洋平が呻き声を洩らす。
汗やら何やらで濡れた身体が擦れ合って熱を上げていく。
ただそのことが嬉しかったのだ。
今私は愛する者とこうして身体を繋げることが出来るということが、本当に幸せだと思った。
「は……も…イきそ……。」
「あ…はぁっ、ふ……ああぁっ!」
「銀華…っ、すげ…イイ…っ。」
「あ…私……もだっ!あ…もう……っ、あ…あぁッ!!」
湿った布団の上で、私達は激しく絡まりながら全身の力を振り絞って動いた。
掴んだ洋平の髪が抜けてしまう程、私の掌に込められた力は強かった。
その後も時々口付けを交わしながら動き続けると、すぐに絶頂はやって来た。
「……う……っく……は…!」
「ああぁッ!!ひ……あああぁ───…っ!!」
私と洋平はほぼ同時に達し、繋がったままぱたりと布団に倒れ込んだ。
自分の体内で洋平が達してしまった感覚はすぐにわかった。
勢いよく洋平自身が引き出されると、そこからは放たれたものがとろりと零れ出て来てしまった。
「うわ…えろい…。」
「あ……や…っ、やめ……はあぁっ!」
洋平は再び自らの指をそこへ挿入すると、中に溜まっているそれを掻き出す。
脚を開いたままの格好で布団の上に白濁液が零れ落ちて行く恥ずかしさで、私はどうにかなってしまいそうだった。
「すご…熱い……。」
「も…もうやめ……あっ!!」
「ここ…?ここ…イイのか…?また感じちゃった…?」
「ふ…あぁ…いい加減に……ああぁっ!はぁ…んっ!!」
「銀華…まずいよ…。まずいって…っ。」
「な…にが……え…?あ…?あ……!!や…ああぁ───…!」
洋平は私をうつ伏せにさせて腰を高く持ち上げると、再び自分のものを挿入してしまった。
それも弄っていた指まで一緒に入って来たのには、正直言って信じられなかった。
余りに突然のことに抵抗する暇もなくて、私はその衝撃にがくりと身体を落とした。
「も…無理…っ、もっとしたい…っ、ごめん…入れさせて……っ。」
「ば…かもの…っ!遅い……!」
「ごめん、でも…好きなんだ…っ。」
「あぁっ!動く…な…あぁ…っ!」
敷布を掴む私の手は痛みと衝撃のせいで、がたがたと震えてしまっていた。
ただでさえ交わる時は相当の痛みを伴うと言うのに、指一本分が足された私のそこは、裂けてしまうのではないかと思った。
耳元で囁く洋平の台詞にも上手く意識が向かない。
「好きなんだよ…っ、すっげー好きなんだって…っ。」
「う……く…はぁっ、あ…あ……!」
「俺のことで…いっぱいになればいいのに…っ。」
「ふ…あぁ…!あ……、あ……!」
もう何も考えられない。
洋平のことしか考えられない。
このようなことをしなくても、わかっているのではないのか…?
「俺のこと…信じてくれよな……っ?」
「わか……っ、あぁっ!」
「ホントに好きなんだよ…っ、銀華……好きだ……っ。」
「あぁ…っ、…しも……っ、わ…たしもだ……っ!!」
わかっていても、それでも不安になるから、こうして身体を繋げるのだ。
私だけではない、洋平もそうだったのだ。
何度わかったと言っても信じてくれと言って来るのがいい証拠だ。
こんなにも洋平は不安だったのかと思うと、せつなくて愛しくて堪らなくなる。
何をされてもどのようなことをされても、それが愛するが故だと思うと嬉しくて堪らなくなってしまうのだ。
「洋平……っ、…っと……、もっと……っ!!」
お前のその不安も何もかも、私は受け止める。
だからお前も私にそれを与えてくれぬか。
お前の嫌なところもすべて愛している。
だからお前にも私のすべてを愛して欲しい。
そうしてお互いを思い求め続けることが、洋平の言っていた永遠になるのだと思う。
洋平だけが与えるのでは駄目なのだ。
私だけが与えるのでは駄目なのだ。
今まで私には足りな過ぎた。
素直になることも言いたいことを言うのも、必要なことだった。
あの時の洋平はそれを教えたくて、私を叩いてくれたのだ。
これからは洋平をもっと愛していきたいと思う。
そして私はこの恋を永遠に終わらないものとしたい。
そんな思いが頭の中を駆け巡って、私達は一晩中お互いを求め続けた。
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