「All of you」-15




お前がいなくなって、何もかも出来ていなかった…洋平は誤魔化し笑いを浮かべながら言った。
何時もならだらしが無いと怒るはずの私も、この時ばかりは布団が敷きっ放しだったことを手間が省けて良かったのかもしれない…などと思ってしまった。


「ん……ふ…っ、はあぁ…っ。」

懐かしい匂いのする布団に寝かされ、胸の辺りを洋平の手が撫で回すように触れる。
赤く腫れ上がった突起を何度も舐めては、舌先で転がして遊んで楽しんでいるようにも見える。
私はただ洋平の髪に手を伸ばし、時々くしゃりと掴みながらその快感に酔っていた。


「あ……はぁ…やぁっんっ、───…!!」
「何…今の…。」

下りて来た舌が腰周りに到達して執拗に舐められると、今までに出たことのないような妙な声が漏れた。
まるで女子かと思われるようなその声が己の耳に飛び込んで来た瞬間、思わず口に手を当てようとしたが、それより先に洋平に掴まれてしまった。


「何でもな……っあ…!」
「誤魔化すなよ…。」
「あ…ふぁ……ふ…っくぁ…っ!」
「何…?ここも…?」

今度は強く掴まれた指を執拗に舐められ、またしても妙な声が漏れる。
爪の先から指の股までをなぞる洋平の舌のざらざらした感じが、くすぐったいのに気持ちが良い。
手の甲に至るまで丁寧に舐められ続けると、私の手は洋平の唾液でびしょびしょに濡れてしまった。


「こんなに感じやすかったっけ…?」
「う…五月蝿い…っ、ん……!」
「俺のも舐めてくれよ…。な…?」
「う……!んっふ…っ、ふぅ…っん…!」

私の真正面まで身体をずらして来た洋平が、今度は私の口の中に自分の指を突っ込んだ。
思わず咽そうになってしまったが、それは一瞬のことだった。
骨ばっているのにしなやかなその指には、毎日触れている花の匂いが滲み付いているような気がした。
強い甘さの中に少しだけ草の渋味が混じっているような…私の好きな匂いだ。
洋平は何時も服や肌にこの匂いを纏って、仕事場から帰って来るのだ。
舐めてみるとその匂いそのままの味までしている気がしてならない。


「なんか…甘える猫みたいだな…。」
「ん…っく…、ふぅ…んっ。」

私は洋平がしたように、爪の間から指の股、手の甲までを丁寧に舐めてやった。
毎日のように水仕事をしていて荒れている肌も、この時ばかりはそのざらつき具合が気持ちが良かった。


「ホントに猫みてー…。」
「わ…たしは猫だ…からな…っ。」
「じゃあさ、にゃーって鳴いてみて?」
「ば…っ、馬鹿なことを言うな…っ!!んっく…っ、ふ…。」
「だって今言っただろ?私は猫だって。ほら、早く…。」
「い…やだ…っ!嫌だ…っ!お前…っ、お前は酷い…っ。酷い…!!」

単純を武器にした洋平に、私は敵うわけがなかった。
どう頑張ってみても、私はこのような時の洋平には勝てないのだ。
しかしさすがにそれだけは出来なかった。
私は余りの羞恥心に涙を滲ませながら、指をがりりと齧って抵抗した。


「痛…っ!」
「も、もう良い…っ、もう…っ。」
「ごめん、今のは無しだよな…。」
「わ、わかっているなら最初から言うな…っ!」
「ごめんって…。時々あるんだよな…すっげー意地悪とかして泣かせたい…とか…。」
「だからと言ってそれは…っ!」

私は口内から洋平の指を吐き出し、自分の顔を手で覆った。
恥ずかしくて堪らなくて、顔が異常な程熱くなっているのがわかる。
洋平が謝りながらもその手を外そうとするのを必死で抗って、私は顔を隠し続けた。


「怒った…?」
「あ…当たり前だっ!このようなことは…!ん…!んうっ!」
「でも怒っても可愛いだけだから無駄だと思うけど…。」
「ん…ふっ、あ…や……やめ……っ!」

わざとらしく大きな音をたてて頬に口付けをされた後、洋平の手は下半身へ伸びていた。
既に先走り液で濡れているそれを通り越し、指が後ろへ向かっている。
何時もならもっと時間をかけてからそこへ到達するのが、この時の洋平は焦っていたのだろうか…。
私の脚を大きく開いて、その入り口をじろじろと見つめている。


「やめたくない…。」
「馬鹿者…っ、我儘を言……ひぁ!」
「大丈夫…ちゃんと慣らすから……。」
「あ…や……やめ…っ、嫌だ…っ、あ…!ああぁっ!ひあぁ……!」

散々恥ずかしいことを言った挙げ句、洋平は行動まで激化していた。
私はそこに息を吹きかけられてびくりと身体が震え、嫌な予感がした時にはもう遅かった。
その窄まりに洋平の生温かい舌が入り込んでいたのだ。


「い…やだ…っ!あぁっ!ひ……っ!」

しかし私の言うことなど既に聞く耳を持っていない洋平は、舌と共に容赦なく指を挿入して来た。
濡れた入り口に滑り込むようにして入って来た洋平の指は、先程己が舐めたものだと思うとより一層興奮を覚えてしまう。
嫌だ嫌だと喚きながらもそのような反応をしていたのでは、まったくもって説得力というものが無い。


「あ…や……はあぁっ、あ…う…っ。は……っ?」
「あ……。」

更に指が奥を目指して進もうかとしている時、布団の近くに置いてあった洋平の鞄の中で電子音が鳴った。
それは聞き慣れた電話機の音で、まさかこのような時に鳴るとは思ってもいなかった。
それだけではない、何時もなら絶対にそのようなことをしない洋平が、鞄の中からそれを取り出し、出ようとしているのだ。
何とかそれだけはと思って阻止しようとしたが、このような状態で洋平を止めることなど出来なかった。


「…………っ!」
「あぁ、うん…。うん、いるよ…。うん、ごめんな…。」

声だけでも聞こえないようにしていれば大丈夫かもしれない。
相手は私の知っている者かどうかは知らないが、声さえ聞こえなければおそらく大丈夫だ。
私は洋平が電話に出たのとほぼ同時に自分の手で口を塞ぎ、声が漏れるのを必死で堪えた。


「───…っ。」
「うん、ちょっと待ってくれるか?銀華…、志摩から。心配してるみたいだから。」
「────…!!」
「兄貴の奴、電話するとか言ってしなかったみたいで…そんでお前の携帯も繋がらないって俺にかけて来たんだけど…ほら…。」
「……っ、………っ!」
「ほら…銀華……。」

今この状態で電話に出るなど出来るものか…!
一体洋平は何を考えているのだ…!
私を辱めて何が楽しいと言うのだ…!
このようなことをして…許さぬ…。
私を馬鹿にしているのか…!
言いたいことは山程あったが、それを言おうとすれば電話の向こうの志摩にわかってしまう。


「志…摩か…?私だ…。」
『あっ、猫神様ぁー!俺ずっと心配だったのに亮平くん電話くれないんだもんー!』
「そうか…っ。」
『俺の方から掛けたら留守電だったし…猫神様も電話切ってたでしょ?それで洋平くんに掛けてみたのー!』
「す…まぬ……。」
『あの…じゃああの…!仲直りしたってことですか?猫神様、洋平くんと一緒にいるですね?』

志摩には心配と迷惑をかけた。
あの時シロの恋人が私を連れて行って、志摩は止める暇もなかったのだ。
後で電話をすると言ってしなかったあの人間が悪いのか、ここで電話に出させた洋平が悪いのか。
それともこの問題を起こした私が悪いのか…。
それすらも考えられない程、私には余裕の欠片もなかった。
自分の中に容赦なく進んで来る洋平の指と舌に気を取られ、いつ大きな声を上げてしまうのかと思うと恐かった。
志摩の話すことなどまったく耳に入って来ないも同然だった。


『猫神様?どーしたのですか?具合悪いですか?』
「いや…だいじょ……!志摩…、すまぬ…明日…っ、明日またこちらから連絡をするから…っ!」
『あ!忙しかったのですかー!うんとごめんなさいっ!じゃあ俺明日待って…。』
「すまぬ
……、────…ッ!!」

限界が近くなってしまった私は、志摩からの電話を会話が終わる寸前で切ってしまった。
その勢いで思わず電話機を壁に向かって投げ、がたんと言う音をたててぶつかった瞬間、私は洋平の顔めがけて白濁を放ってしまっていた。





back/next