「DARLING」番外編1「HONEY」…夜編-2




「シロ、家まで送って行くから…。」
「え〜?オレ大丈夫だぞ!」

その会も無事に終わって、時計は既に夜の9時を過ぎていた。
志季は隣だからいいとして、シロ一人を歩いて帰らせるわけにはいかなかった。
シロがいいと言っても、何もなかったとしても、恋人の藤代さんに何を言われるかわからない。
シロだって男だから大丈夫かもしれないけれど、万が一何かあったりしたら俺は藤代さんに殺されかねない。


「でももう夜だし…。」
「ううん、いいんだ〜。亮平に迎えに来てもらうから。」
「そうか…?それならいいけど…。」
「だってなんか〜、シマとミズシマ見てたら俺も早く亮平に会いたくなって〜へへっ。」
「え…。」
「亮平バイト終わった頃だからさっき電話したんだ〜。そしたら真っ直ぐ迎えに来るって!」

シロはとても幸せそうに笑う。
俺と志摩を見ていたら…なんて言いながら。
それは今まで俺がシロと藤代さんを見ていて思うことだったのに、今の俺達は同じように見えたのだろうか。
だとしたら志摩もきっと喜んでくれるだろう。

志季は隣の家に戻り、シロも藤代さんと一緒に帰って行った。
いつもは二人しかいないこの家が久し振りに賑やかだったせいか、なんだかがらんとして見える。
志摩ははしゃぎ疲れたのか、ソファでぐったりとして全身を預けている。


「あー、隼人ー。」

俺は志摩の隣に腰を下ろして、柔らかい髪を撫でようと手を伸ばした。
だけどそれより先に志摩の腕が俺の身体に絡み付いて来た。


「えへへー。」

志摩は前よりも泣き虫になった。
志摩は前よりも度が過ぎる程甘ったれになった。
それが果たして周りから見ていいことなのかはわからない。
でも俺はそれでいいと思っている。
だって前よりも志摩が笑うようになったから。
だからいいんだ…。


「あっ、そうだ!俺プレゼントがあるのー!」
「え…?」

まさか付き合った1周年に会まで開かれた上、プレゼントまで渡されるだなんて思ってもいなかった。
本当に志摩という人間は色々と俺を驚かせてくれる奴だ。
しがみ付いていた志摩の腕が一度離れて、ソファの端から何かを取り出す。


「これ…もらって下さい!」
「うん…。」

志摩のことだから、ぬいぐるみだとか自分の好きな物を送りそうだと思った。
それとも何かの食べ物だろうか。
それはお前の欲しいものだろう、と俺は突っ込むことまで予想出来ていた。
俺は可笑しくて堪らなくなって、吹き出すのを必死で堪えながら包装紙を剥がした。


「志摩…、何だこれ…?」

しかしその中身は俺の予想を裏切る物だった。
なぜか赤い首輪が入っていて、一瞬これはどういう意味だと真剣に考えてしまった。
すぐにその意味はわかったけれど、俺はそこでつい意地悪をしたくなってしまった。


「あっ!それは…!」
「俺を繋げて置く気か?」
「ちっ、違いますっ!それ間違ったの…!それ虎太郎のだった!!」
「志摩、本当に間違ったのか?」

すぐに逃げようとする志摩の腕を掴む。
わざと間違うなんて器用なことが志摩は出来ないのを知っておきながら責めるようなことを言って。
そんな志摩の隙を俺はいつでも狙っているんだ…。


「ほ、ホントですっ!ひゃ…っ、隼人これっ、こっちなの…っ!!」

不自由になってしまった志摩の片腕をぐっと引き寄せる。
小さくて柔らかい手を掴んで、指先を口に含んだ。
さっき食べたケーキの生クリームが指にまで滲みているみたいに甘い皮膚の味がした。
俺が口の中で舌を動かす度に志摩の身体はびくびくと動いている。


「こっ、これです…っ!ひゃぅっ!」

志摩の指を咥えながら、俺はさっきと同じ包装紙の箱を受け取った。
多分同じデパートの中で買った物だったから間違ってしまったのだろう。


「これ…。」
「あのねっ、前に指輪もらったから俺もあげようと…。」
「でも志摩…これ…。」
「あーー!!なんでー?なんで入らないのー?!」

箱を開けると、そこにあったのはどう見ても俺には入らないサイズの指輪だった。
志摩の前で嵌めようとしたけれど入らないものは入らない。
おそらく志摩のことだから、自分の指で嵌めてみたのだろう。
しかもよく見たら小さな石の付いている物で、俺には到底似合わないようなデザインだった。
何をやっても失敗ばかりするのがもう可笑しくて、とうとう俺は我慢が出来なくなってしまった。
おまけにそのことに今も気付いていない志摩の頭の悪さ加減が可愛くて仕方がない。


「これは志摩にやるよ。」
「えー…、そんなの意味ないよー。」
「俺の代わりにしてればいい。」
「そっかー!でも俺隼人にあげるものなくなっちゃったー…。」

俺はずるい。
先を読んで志摩がこう言うことを待っていたんだから。
単純な志摩が俺の言葉の罠にかかるのは簡単で、なんだか可哀想なぐらいだ。
それでも止められないのは、好きだから。
志摩のことが好きで、その心だけでなく身体も自分のものにしたいと思っているから。


「じゃあ志摩がいい。」
「…ほぇ?」
「志摩が欲しいって言ってるんだよ。」
「え…?!あのっ、あの…!わ…っ!」

確かに俺は純粋な志摩も好きだ。
だけど俺の下で涙目になっている志摩も好きだ。
今まで我慢したんだ、今度は俺に付き合って欲しい。
シロや志季には見せない、俺だけが知っているあの顔を見せて欲しい。


「お前を俺にくれよ…。」
「ひゃあ…っ。」

志摩の腕を思い切り引っ張って、腕の中にその身体をすっぽりと収めた。
真っ赤になった顔と期待通りの涙目が、俺の欲望に火を点ける。
服の中に乱暴に手を突っ込んで胸の辺りを撫で回すと、ぎゅっと目を閉じて志摩が快感に耐えている。


「志摩、ちょうだい…。」
「やぁっ、隼人待って…っ、ちょっと待って下さ…っ。待って下さい…っ。」
「嫌だ。待てません。」
「わぁっ、ダっ、ダメです…っ!」

こんな風にに焦らすのも、天然だと言うのだから凄い。
こんなに興奮を覚えたことも、こんなにセックスが楽しいものだと思ったことも、誰とした時でもなかった。
俺の奥底に眠る性欲を目覚めさせたのは志摩だ。


「なんで?ダメ?」
「あ……う……。」

やっぱり俺はずるいのだと思う。
どう言えば志摩が頷くか、どうすれば黙って身体を預けてくれるのか知っているからだ。
志摩が嫌だと言えないところに追い込んで、その身体を貪りたいと思っている。


「ダメ…じゃないです…。」

思った通り志摩が頷いたのと同時に、俺は志摩に激しいキスをした。
まるで止まることを知らないみたいに、志摩が意識を失うまでその身体を食べ尽くした。





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「…んにゃ…隼人…。」

何度目かの放熱を終えて、志摩は今夢の中だ。
幸せそうな寝顔で、俺の腕に頭を預けて眠っている。
さっきまでの行為が嘘みたいに、その寝顔は純粋な子供みたいだった。


「志摩…。」

志摩、好きだ。
俺は我儘でひねくれ者だけど、ずっと傍にいて欲しいんだ。
ずっと俺の隣でその寝顔やあの笑顔を見せてくれ。
お前にならさっきの首輪に繋がれてもいいと思ってる。
それぐらい俺はお前を好きで好きで堪らないんだ…。
志摩の髪を撫でながら、
言葉にならない思いを胸の中で祈るように繰り返した。


「……うんー…?」

聞こえているはずもないのに志摩は返事のような寝言を言って、俺の腕に顔を擦り付けている。
その志摩の指には、俺にあげようとしていた小さな指輪が光っていた。






END.





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