「神様も恋をする」-4




「アオギ、気持ちいいね。」
「そうだなぁー…。」

食事を終えて、俺はシマと風呂に入っていた。
銀華がいた頃からある、外の大きな風呂だ。
作ったのはその銀華本人らしい。
人間界で言うと露天風呂というやつで、なかなか贅沢な設備だと思った。
湯船に浸かりながら、シマは伸びをしたり泳いだりしている。
よっぽどこの風呂が気に入ったらしい。
素っ裸で風呂に二人きりだなんて交尾にはもってこいのシチュエーションなのに、
そんなムードにならないのは、シマが俺のことをまったく意識をしていないから。
交尾のことなんてもう忘れて、頭の中にもないのだろう。
こんな小さい奴に色気なんか求める方が間違っているとでも言うのか…?


「僕ね、前にお風呂に落ちたことあったの。」
「風呂に?」
「うん、志摩ちゃんが僕を忘れ………。」
「??どうした?」

シマは突然俯いて黙ってしまった。
今の今まで元気に話をしていたのに、一瞬何が起こったのかわからなかった。
湯気の中で、温まったシマの頬のピンク色が濃くなっていく。


「志摩ちゃん…、心配してるよね…。」
「あー…。」
「だってお風呂に落ちた時も泣きながら僕のこと探して……、志摩ちゃんー……。」
「うーん…。」

これはまずい。
もうホームシックかよ…。
下を向いたままのシマの目に涙が滲んでいるのはすぐに想像がつくことだ。
このままでいいから帰るなんて言われたら…。
いつもなら、また別の猫を探せばいいだけの話だった。
そんな簡単なことが出来なくなっている。
俺はどうしてもシマを帰したくなくなっているみたいだ。


「志摩ちゃん…、隼人くん……。」
「あー、大丈夫だ。心配するな。」
「アオギ…?」
「猫神様に頼めばその辺はなんとかなるから。」

咄嗟に思いついた説明だった。
普通ならこんな適当なことを言って納得してくれるはずがない。
こうなったら、向こうに帰った時に時間が経っていないようにするしかない。
あまり感心出来る魔法ではないが、仕方がないと思った。
俺はそこまでして、留めておきたいらしい。
シマに説明した「猫神様」はこの俺なもんだから、詳しく説明できないのがもどかしい。


「そうなの?大丈夫なの?」
「そーそー、だから猫神様が帰って来るまでいればいいんだ。」
「そっかー、そうだね、そうする。」
「おー、そうそう、そうしろ。」

シマの単純で無知なところに感謝した。
同時に、先程から時々出現する罪悪感にまた苛まれる。
ちゃぷん、と湯船が揺れて、水面が歪む。
まるで俺のいい加減で嘘吐きな性格を表しているようで、情けなくなった。


「じゃあもう寝るか。」
「うんっ。わーおっきいベッドだね。」

風呂から上がり、湯冷めがしないうちに自分の部屋に移動した。
大人二人は余裕で寝ることが出来る大きなベッドに、シマを抱き上げて置いた。
ふかふかの布団に包まって、シマは気持ちよさそうに頬を摺り寄せていた。


「アオギの布団、いい匂い。」
「匂い…?」
「お日様の匂い。志摩ちゃんの布団と同じ。いつも干してるんだね。」
「まぁ…、桃がやってくれてるけどな…。」

そんなことは、今まで気付いたことがなかった。
桃が布団を干すのはいつものことだった。
従猫が神様に対して世話をするのは当たり前のことだから。
眠くなったのか、目を閉じてしまったシマの頭を撫でる。
そんなシマからも、太陽の匂いがしそうな感じがした。
それはシマの単純で無知という真っ直ぐな心の眩しさからだったのかもしれない。










「シマ、おーいシマにゃんにゃん、朝だぞー。」

翌朝になって、隣で眠っているシマの身体を揺する。
口を大きく開けて、よだれなんか垂らして、時々寝言なんか呟いて。
着せた寝巻きは乱れ放題、髪もくしゃくしゃ。
マニアからしたら堪らない構図だ。


「んにゃー…、眠いのー…。」
「そんな可愛いこと言うのか?」
「んー?わかんにゃ…?」
「よーし、じゃあ起きるようなことしちゃおっかなー?」

布団を捲り上げて、シマの寝巻きも捲り上げる。
昨日見たばっかりの小さな性器が、目に飛び込んで来て朝から大興奮だ。
さて、どう味見してやろうかと、胸の辺りを撫でてみた。


「……ん!…アオギ……?」
「あぁ、可愛いおっぱいだなぁ。」
「んー、んー!アオギっ!何する……。」
「お前が起きないから起こしてるんだぞ?」

初めての感覚にシマが驚いて目を覚ます。
だけどそこで止めるわけなんかなくて、撫でていた胸の先端を口に含んだ。
小さくて、丸くて綺麗なピンク色のそれを、唾液で濡らしながら味わう。


「アオギ…っ!」

涙目になって可愛い声を上げるシマに、余計止まらなくなる。
こうなったらもう交尾してやる。
久し振りの交尾に胸を躍らせた。
案外早く出来ることになったな…と、半ば感動さえ覚えながら下半身に顔を埋める。


「青城さまっ!な、何やってるんですかっ!」
「襲ってる!桃、警察!!」
「なんだよ、見ればわかるだろ、交尾してるんだよ。」
「な、何てことしてるんですかっ!嫌がってるじゃないですか!」
「そうだ、離れろ、青城!」
「なんっだよ、邪魔すんなよ!バカやめろっ!」

せっかくのいいところで、桃と紅が部屋に入って来てしまった。
朝になって起こしに来ることも止めておくべきだった。
二匹にシマから剥がされて、仕方なく諦めるしかなかった。


「ったく邪魔すんなよな…。」
「邪魔ってなんですか!あ、あ、朝からあんな…!」

食卓について、俺は桃と紅に責められまくった。
シマはと言うと、あまり状況が掴めていないのか、きょとんとして座っている。
怒っているのに恥ずかしがっている桃が、口煩い母親みたいにして俺に怒鳴る。
言うだけでそんなに恥ずかしがってどうするんだ…。
まぁそれもそうか、こいつらもそんなに回数していないと見た。
それも俺が交尾はいかん、と日頃注意しているからだ。
そうか…、それがいけないのか…。


「あー、桃、お前らもこれからはどんどん交尾していいぞ。」
「な、何言ってるんですか!!」
「ん?俺もこいつとするから。だからお前らも好きなだけやれ。気にするな。」
「き、き、気にしますよ!もうっ、青城さまのバカぁ!!」

神様に向かってバカだと…。
せっかくいい案だと思ったのに…。
桃は真っ赤になって、台所へ走って逃げて行ってしまった。


「アオギ…、あの…。」
「ん?どうした?」
「後で…、聞きたいことがある…。」
「あぁ、うん、わかった…。」

よく見ると隣に座っているシマもほんのり頬が赤くなっている。
俯いて、もじもじ身体を動かして。
聞きたいこと…?
俺はシマの態度を疑問に思いながら、その日一度目の食事を済ませた。








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