「神様も恋をする」-11




交尾の後、予想通り歩けなくなったシマを、抱いて部屋まで運んだ。
後で桃や紅に文句を言われるだろうと思って、俺は風呂掃除をしている。
もちろん動けないシマはベッドに寝かせたままでだ。
たった数十分間だろうと思ったが、俺は寂しくて堪らなくなってしまった。
これほどまでに自分が温もりを求めていたなんて、シマがいなければ気付くこともなかった。

ベッドに寝かせた時、そこから離れようとする俺の腕をシマはぎゅっと掴んだ。
寂しいのは俺だけではないことに、とても深い幸せを感じた。
人間界に戻る前はシマまでこんなに甘える奴だとは思っていなかった。
何度か交尾を迫った時も、猫パンチで拒否されたからだ。
シマが俺を好きだと言ったことも信じられなかったのはそのせいだ。
「だってアオギ、好きって言ってなかったでしょ?」
疑問をシマにぶつけると、そう返って来た。
「僕をからかってそうしてるのかと思って。」
確かに俺は、シマに好きだと告げていなかった。
好きだと気付いたのも、シマがいなくなってからで。
交尾にはちゃんと好きだという思いが存在してからだとシマは思っていたのだろう。
やっぱり俺よりもシマの方が大人なのかもしれないと、改めて思うと同時に、俺も成長しなければと思った。


「は───…。」

久し振りに葉巻の煙を吸い込む。
シマをここに連れて来た時から、ほとんど葉巻にも手を付けていなかった。
それほど夢中だったのかと思うと、己の溺れ加減に笑いが漏れた。
風呂の湯を全部抜いて、中を洗浄して、再びお湯を張る。
銀華の奴がきちんと浄化システムまで作ったけれど、さすがに精の放たれた浴槽を洗わないわけにはいかなかったからだ。
待っている間中、考えるのもシマのことだ。
吸い込んだ煙を吐き出して空を見上げると、満天の星空が広がっている。
それはキラキラと果てしなく、シマの純粋さみたいに瞬くことを止めなかった。








「…ぎ、……ぎ…。」
「んあぁー…?」

あぁ…、温かい…。
やっぱり隣にに誰かがいるのはいいよなぁ…。
幸福感に満たされながら、ゆっくりと意識を覚ますことが出来る。


「…い、おいってば!青城!起きろってばよ!!」
「…んー?なんだよ紅かよー……。」
「朝だ!ご飯だ!起きろ!」
「えー…、やだー…。」

だってこんなに特別な朝なんだぜ?
なんだってこんな生意気な自分の弟子に起こされなきゃいけないんだよ…。
ブツブツと文句を呟きながら、ぴったりとくっついたままのシマに目をやる。
交尾のせいで泣いて腫れた瞼に、少しだけ罪悪感が募ったけれど、それはもう忘れよう。
シマがいいと言うなら、罪悪感なんてものは必要ないのだから。


「やだー、じゃない!さっきから何回起こしたと思ってるんだよ!」
「…チッ……仕方ねぇなぁ…。あれ…?桃はどうした?まだ飯作ってんのか?」

強引に腕を引っ張る紅に、舌打ちしながら起き上がる。
一緒に起こしに来る桃の姿がないのに、すぐに気付いた。
いつもなら二匹揃って、なかなか起きない俺に文句を言っているのだ。
一緒どころか、桃単品で来ることも多いのに…。


「も、桃は…、ぐ、具合が悪くて横になってる…。」
「へぇ、珍しいな…。」
「そ、そんなのいいんだよっ!早くそいつ…シマにゃんこも起こせよ!」
「へぇへぇ、わかったよ…ったく朝からうるせぇなぁ…。」

しかし俺という奴はこういう時の勘だけはいいのだ。
紅が桃のことを説明した時、顔が真っ赤になってどもっていたのを見逃すわけがない。
しかも具合が悪い、起きても来れない、その答えは一つしかない。


「今朝は俺が一人で作ったんだからな!あ、ありがたく食えよ!」
「へええぇ───…。」
「な…、なんだよっ!」
「いや、なんでもねぇ。よしっ、シマにゃんこ、起きろー朝でちゅよー?」

ここで紅だけに言っても面白味もない。
後で桃が起きて来たら二人まとめてからかってやろうと、この場は我慢した。
シマに対して嘘を吐くのは止められても、こいつらへのからかいは止められないらしい。
それも師匠の愛ってことで、言い訳にしようと思う。
本当に興味も可愛がる心もなければ、からかうことだってしないはずだから。


「んー、アオギーねむいのー…。」
「ちゅーしてやるから起きろ、な?シマにゃんにゃーん?」
「うん、起きるー。」
「よちよち、いい子だなーシマにゃんは。ほら、ちゅー?」

俺とシマがキスを交わしていると、居たたまれなくなった紅が目を逸らす。
多分昨夜も風呂場の入り口かどこかで、こうして俺達の交尾を見てしまったんだろう。
紅がそういう外部の刺激によって興奮する質な奴ということは知っている。
桃も桃で、恥ずかしいと言いながら受け入れる奴だということも。
俺とシマが交尾している間、こいつらも交尾していたのは間違いない。
しかも、俺が夢中になっていれば、遠慮をする必要もないわけだ。


「あ、青城さま…、おはようございます…。」
「も…桃っ、大丈夫なのか?」
「うん…、紅だけにやらせちゃ悪いもん…。」
「そ、そうか…。」

キスを続けていると、横になっているはずの桃が顔を出した。
心配した顔で紅が桃の手を取る現場を見て、何だか初々しくて可愛いと思った。
ぎこちない会話と、二匹揃って真っ赤になった顔が、その可愛さを増幅させる。
俺に向かって鼻の下が伸びてるだの散々なことを言うが、自分達だって十分惚気ていると思う。


「気にしなくていいぞ、桃。交尾の翌日は辛いだろー?ケケケ。」
「な…!あ、青城さま、何言ってるんですかっ!」
「ど、どこで見てたんだよ…!」
「見てなんかねぇよ。だけど見なくたってわかるぞ、お前らのすることぐらいはな。」
「べ、紅ってば何言ってるの!うわん、紅のバカぁー!!」
「ご、ごめん桃!ごめんってば!桃ー!」

紅が動揺して墓穴を掘るようなことを言って、桃に逃げられる。
いくら俺に対して生意気な紅でも、桃には敵わないのだ。
俺がシマに敵わないみたいに、溺れているんだろう。
桃を追いかける紅の後ろ姿を見ながら、悪いとは思いながらも吹き出してしまった。
大いに慌てる紅を、自分に重ねていたのだ。


「アオギ、桃ちゃんと紅ちゃん仲良しだね。」
「そうだなー。俺らももっともっと仲良くしようなー?」
「うん、するー!」
「んーそうそう。」

同じく二匹を見ていたシマが、俺の身体にしがみ付いて来る。
自分よりも温度の高いその小さな身体をぎゅっと抱き締めて、もう一度だけキスをした。





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