「innocent baby」-2




「暑いー、クーラークーラーっと。」

夕方でもまだ蒸し暑い中を帰って来て、
家に入ると志摩はぱたぱたと走って、部屋の奥のエアコンのスイッチを入れる。
額に滲む汗を手の甲で拭いながら、スーパーの袋をキッチンの床に下ろした。
乗っている鍋からは湯気がまだ出ていて、何やら美味そうな匂いがする。
志摩はああ見えて料理が得意、とまではいかないが、
少なくとも俺よりはできるのが、結構意外だった。


「お風呂入ってこよー。」

独り言ではしゃぎながら、志摩はバスルームへと向かう。
こんなふうに俺が帰ってくるまで、いつも準備万端にしてあって、それもまた意外だ。
そこで俺に先に、って言わないで自分が、
っていうのが普通に考えると逆でちょっと笑えるけど。
以前の俺なら、そんなことされたら鬱陶しくて仕方なかった。
でも志摩がすることに対してはそんなことはなく、
逆になぜか嬉しくて幸せな気分にまでなってしまうことがある。
これじゃあまるで、本当に藤代さんの言った通り、
新婚ラブラブ状態だ、まったくもって恥ずかしいけど。


「隼人も入ってきなよ、ね?」
「あぁ、そうする。」

濡れた髪をタオルでゴシゴシ擦りながら、
志摩は台所で気に入っているエプロンをして料理をし始めた。
その後ろ姿を見ながら、その紐を解いて強引に自分のものにしたい、
さっきからそんなことしか思い浮かばない俺はどうかしている。
風呂上がりで上気した肌が僅かにピンク色に染まっていて、
思わず手を伸ばして触れたくなったのをなんとか我慢するのに精一杯で、バスルームへと向かった。

その後のバスルームでもその欲望は止まらなかった。
志摩の使った後の室内は蒸せるような湿気と温度で、
その中でシャンプーやら石鹸やらの匂いがまた俺の性欲に火を点けてしまって、
俺って奴はどこまでそっちしか考えれない男なんだろう。
なんだか自分が情けなく恥ずかしくなってしまった。


「みゅ〜…。」
「よし、こっちに来い、シマ。」

風呂から上がるとさっきよりもキッチンに食べ物の匂いが充満している。
床で寝ていた猫のシマが椅子に座った俺の足元に甘えて寄って来た。
そのシマに話しかけるっていうのも傍から見たら微妙な感じもする。
小さくて温かい身体を抱き上げ、胸の辺りでシマは擦り寄っている。


「あー!ずるいシマにゃんっ、俺も抱っこされた……痛っ!!」
「!志摩っ?!」

それを見ていた志摩が振り向いた途端、
顔をしかめて持っていた包丁をまな板の上にぼとりと落とした。


「指切ったぁ〜…。」
「バカ、よそ見してるからだ。」
「……っ、隼人っ、大丈夫だよ…そんな…っ。」
「大丈夫じゃない。」

すぐに猫のシマを椅子の上に置いて、志摩の切れた指を掴んで口に含んだ。
血の味なんか全然しないぐらい、志摩の怪我は大したことはなかった。
それでもそこから唇を離すことはできなかった。


「お前が怪我なんかしたら俺が大丈夫じゃない。」
「隼人…っ、んぅ…っ。」

こんな台詞が自分の口から出たこと事態驚きだ。
いつから俺はこんなに誰かのために心を乱すようになったのか。
誰かのため、なんて言葉も無縁だったのに。
真っ赤になってる志摩の頬にキスして、そのままその柔らかい唇を貪った。
志摩が指摘した通り、俺はその唇の端から端までを丁寧に舐め上げ、
零れる唾液を舌先ですくった。
大丈夫じゃないのは俺の理性のような気もした。


「んっ、隼人…っ、あっ、や…っ!」

エスカレートする行為を止めようとした志摩の手を、
振り払って、エプロンを取り去って、部屋着にしている服を捲った。
三日前に触れた時と同じ、胸の突起が膨らんで、そこも丁寧に舌で愛撫する。
何かの果実ではないかと錯覚するぐらいに、
弾力のあるそこを唇で優しく噛む度に、志摩の口から高い声が洩れる。


「触るだけだから…いい?」
「触るだけ…っ?…っ、隼人っ!」

予想通り志摩の反応は下半身にまで及んでいて、
穿いていた半パンツを下着ごと下ろすと、
初めて見るそれに釘付けになってしまった。
身体は小さいし、顔も名前も女みたいだし、声も男にしては高い方だけど、
平たい胸同様に性別を主張しているそれをどうしようもなく触りたかった。
舌をそのまま腰や下腹部を伝って下ろして、迷いもなく口に含むところだったが、
触るだけ、と言った以上、志摩を恐がらせたくなくて我慢した。


「舐めてないのに濡れてんだけど。」
「…やだっ、あっ、や…っ。」

僅かに先端から滲んだ先走りを掌に絡めて、志摩のそれをゆるゆると擦り上げる。
俺の手の動きに合わせるようにして志摩は喘いで、
先走りの量も増して濡れた音も大きくなる。
完全に勃ち上がったその先端を指先で捏ねるように撫でる。
びくびくと志摩の細い腰が揺れて、絶頂が近いことを悟った。


「俺に掴まれ、志摩。」
「うん…っ、あっ、あぁ…んっ!」

膝から崩れそうなぐらい志摩は震えていて、掴まれた俺の腕にも力が籠もる。
瞳には涙を溜めて必死になって感じる志摩が愛しくて、
もう一度優しくキスしながら、擦る手の速度を上げた。


「やっ、隼人っ、…くっ、いっちゃう………っ!!」

半分泣きながら志摩は俺の手の中にとくん、と白濁を放った。












その後志摩はいそいそと夕ご飯の準備をして、
俺はというと恥ずかしさのあまり何事もなかったように、
椅子に座って猫のシマと遊んでいたりした。
そうしないと志摩がもっと恥ずかしがると思ったから。


「何?なんだよ、人の顔じーっと見て。」

テーブルの上には温かい食事が乗って、
俺は引き続き無表情なまま、それらを食べ始めた。
志摩がぽやんとした顔で頬を染めながら俺を見つめていた。


「えっとその…あの…。」

何を言いたいんだか志摩はもごもごして、
箸からぼろぼろご飯粒やら何やらを零している。
どうしよう…なんて新鮮な反応するんだこいつは。
そんなの見てたら可愛くてどうしようもなくなるだろ。


「志摩、ついてる。」
「えっ、あっ、あの…っ。」

口元に付いたものを取ってやろうと手を伸ばす。
だけどやっぱり俺は我慢できなくなって、椅子から立ち上がった。
柔らかい志摩の頬を手で挟んで、綺麗に舐め取った。


「…びっくりした…。」
「何が。」
「隼人、こういうことするんだ…、さっきのも…。」
「するよ、お前が嫌ならしないけど。」

嫌じゃない、と言うようにして志摩はぶんぶんと首を振った。
恐いけど嫌ではないのを俺は知っている。
だからちょっとずつでいい、そういうことに慣れていけば。
俯いて真っ赤になっている志摩の髪を撫でると、
猫のシマはえさを食べ終わって満足そうな鳴き声を上げた。








back/next