「Lies and Magic」-7




「シマ…。」

あの公園の外灯の下に、ぼうっと人の影が見える。
立ち止まった俺はそれが誰かすぐにわかって、名前を呼んでみる。


「え…っ、隼人…。」
「みゅ〜…。」

いつも元気なシマの姿はそこになくて、コンビニで見た時の俯き加減の少年がそこにいた。
手に、あの猫、本物のシマを抱いて。


「あああの、俺、ごめんなさいっ、嘘言って本当にごめんなさいっ!」

猫を地面に置いて、シマは深々と頭を下げて、必死で謝る。


「隼人、ごめんなさい…。」

あの時寝言で聞いた言葉。
罪悪感でいっぱいだったんだろう。
俺に嘘吐いたこと。
既に真っ赤になっている瞳が潤んでいる。
出て行ってから、随分泣いたんだろう。
一人ぼっちで。


「お前、高校生だったのか…。」
「ハイ…そうです、ごめんなさい。」

それこそ近所の高校の制服をシマは着ていて、どうして今までこいつの存在に気付かなかったんだと思う。
どうしても何も、そんなのはわかってる。
俺は今まで本当に他人に興味のない人間だったからだ。
それでいいと思ってたけど…。
なんてつまらなくて、寂しい人生なんだ。
俺はやっとそのことがわかった気がする。


「隼人、俺がお菓子落とした時言ってくれた、下向いてるからだ、って。笑ってくれた。」

そうやって下向いてるから落とすんだ。
ちゃんと前見てな、そんなことを落としたお菓子を拾いながら言った。
シマがありがとうございます、とその時恥ずかしそうに笑ったのを、
さっきから急激に俺の脳内で記憶が蘇る。


「俺、自分が嫌いで、あそこにいるの嫌いだったから。」

だから下ばっかり見てたのか。
それを俺はなんの気なしに言ったのに、シマはそれをずっと大事にしてくれていた。
俺は本当に自分ばっかりの人間だった。
勝手なのはシマじゃなくて俺のほうだ。
気付いてやれなくて…ごめん。
その俺の言葉通りシマは明るく、元気な姿で俺の目の前に現れた。
それはどんなに勇気が要っただろうか。
きっと俺には計り知れないぐらいで、そんなシマがどうしようもなく愛しくなってしまった。


「この間隼人の後つけちゃって、そしたらこの公園に来たから。」

そこで俺は猫のシマがシロに可愛がられてるのを見ていた。
シロが会った桃と紅に俺は気付かなかったけど、シマは偶然気付いて、その、猫が人間になる話を聞いた。
桃と紅はまだ魔法が使えないし、修行中だから、 そんなことを猫神様は言っていたから、 シマが猫であることは決定的に否定された。
それでもいいと思った理由はやっぱりただ一つだった。


「シマ、帰って来い。」
「隼人…?」
「あの部屋に、戻って来いよ。」
「ありがとう…、でも俺…。」

シマがまた俯いてしまった。
それはシマが一週間であの家を出て行った、行かなければいけなかったからだ。
どこか子供ができない夫婦の家に世話になるのが決まっていて、その出発が明日だったからだ。
俺に二度と会えなくなるかもしれないから、最後に会いに来た。
優しそうなおじさんおばさんだったよ、シマは言う。
それならどうしてそんな、笑いながら泣きそうになってるんだ。


「お前も…、置いていくのか…。」

無意識のうちにそんな女々しいことを呟いていた。
俺とその猫のシマを置いて、行くのか。
俺はまた一人であの家にいなければならない。
そうなるなら、来て欲しくなかった。
こんなに俺の心を支配したまま、お前は俺を置いていくのか。


「でも隼人、いいの?俺のこと…。」
「好きじゃなかったら、必要じゃなかったら言わない。」

シマは暗闇で本当に泣いてしまった。
我慢してるけど、俺だって泣きたいぐらいだ。
お前がもう帰って来ないなら。
毎日でも泣いて過ごすような予感がする。


「お前が決めろ、シマ。どっちに行くか。」
「え…、俺、無理…っ。」
「もうお前は自分でできるはずだ、前だけ見ろ。」
「前だけ…。」

あの時の言葉を、今度は心を込めて言う。
ずっと好きだった俺を取るか、優しい新しい家族を取るか。
それは俺が決めることじゃない。
ちゃんとシマにはシマの意思があって、もう決められるはずだ。
本当は無理矢理にでも連れて帰りたいけど。
そこで素直に感情剥き出せるまではまだできなかった。


「明日まで、待ってるから。」

それだけ言って、俺は公園を去った。
シマはずっと瞼を擦りながら俺を見ていた。
猫のシマの鳴き声が聞こえて、それはまるでシマが泣いてるのと一緒だった。

待ってる、なんて確かでもない言葉を、俺は初めて言った気がする。








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