「LOVE MAGIC」-7




「シロ、おはよう。」
「ん〜…。」

いつもの朝。
亮平がオレの隣にいて、名前を呼んで。
最近はオレのほうが早く起きてたけど、今日は亮平が早く起きて、オレの耳元で囁いて起こしてくれた。


「おはよう。」
「…おはよ。」

オレが目を擦りながら亮平に挨拶すると、 おでこにキスをくれる。
それもいつものことで、そんな当たり前のことが すごくすごく嬉しい。
亮平の、長い後ろの髪がちょっとだけ 寝グセついてたり、パジャマにしわが寄ってたり、オレしか見れない特権だもんな。


「あーあ、ヨダレのあと。」
「えっ、わっ、オレごめん!」
「ぷ…、なんか食いもんの夢でも見てたのか?」
「ううん、亮平の夢見てた。」

ずっと亮平と一緒にいる夢。
多分正夢になる。
オレには自信あるよ。 ずっと好きでいる自信。
ボーっとその夢を思い出してたら、亮平の唇がオレの頬っぺたに触れた。
くすぐったくて、目を閉じる。
すぐにその唇は下りてきて、オレの唇に重なった。
ヨダレのあと…ちょっと嫌だなぁ。


「あんまり可愛いこと言うなよ、身体に悪ぃ。」
「え…、身体って…んっ。」

朝からこんなキス、反則だ。
ずるいよ亮平、オレだって唇から 全身が蕩けそうなっちゃうじゃないか。
亮平もそうだってわかるから、よけいだよ。


「くっそ…、仕事休みならよかった…。」

離れた亮平の唇は、悔しそうにそんなことを呟いた。
オレもできればこうしてたいけど、亮平は仕事放ったりすることしないし、そういう責任感強いとこ、オレ大好きなんだ。
それにいつだってできるし、いつだって一緒にいられる。


「…あ!亮平!りれきしょってやつ!」
「ん…?あぁ、あれか。」

すっかり忘れてたけど、ケーキ屋さんのこと。
あの店長さんみたいな人、持って来て、って言ってた。
実はヨダレ垂らしてたのは、ちょっとケーキの夢も 見てたからだったりする。


「んー、履歴書はいらねぇだろ、多分な。」
「え?どういうことだ??」

そりゃ確かにオレはまだちゃんと字も書けないし、何書くのかも知らないけど。
いらないってどういうことだろ??


「まぁ行けばわかるって。」
「??うーん、そうなのか?」
「そう、な、メシにしようぜ、俺腹減ったんだよ。」
「うん!食う!」

オレが元気にそう答えると、亮平は思い切り笑った。













今日は夕方5時に終わるから、店まで来い、と言われて、オレは今コンビニの前だ。
コンビニの外で、この間会った猫と遊びながら、亮平の働く姿を見ていた。
半袖から見える腕とか、出会った時より伸びた髪とか、時間が経ったのを目で感じる。
相変わらず、カッコいいから、見てるとぽやんとしちゃうんだよなぁ…。
ホントは色んな人に自慢して歩きたいぐらいだ。
あの人がオレの恋人だ、って。


「なんだ外で待ってたのか、お前。」
「あっ、亮平〜。」

その亮平が出てきたのはそれから10分後ぐらいで、さっきの制服を着替えて、家を出る時の格好になっていた。
遊んでいた猫がオレの腕からするりと抜けて、コンビニを後にして、ケーキ屋さんに向かった。

大きな窓からは美味しそうなケーキがずらりと並んでいるのが見えて、外までいい匂いもしてくる。
まだ昨日の今日だから、あの紙も貼ってある。
けど、行けばわかるって、なんだろ?


「亮平、オレわかんない、なんでりれきしょってのいらないんだ?」
「あぁ、これ、読めねぇかお前。」

窓の上の看板には、何やら飾りつけられた横文字が書いてある。
日本語だってわかんないのに、英語とかそういうの、オレわかるハズないんだけど…。
なんて書いてんのかなぁ?


「まぁ行こうぜ、ほら。」
「あ、うん。」

亮平に腕を引かれて、その店の中に入った。
中はもっと甘い匂いがして、なんか腹減るよな。
帰りに一個だけでいいから、買ってって頼んでみようかな。


「いらっしゃい、待ってたよ。」
「おう、久し振り。」
「こ、こんにちは!」

うわー、緊張するなぁ…。
なんたってオレ、働くの初めてだもんな!
頑張ってここで雇ってもらえるようにしなきゃ。
そしたら亮平の役に立てる。
ん…?亮平、知り合いか…??


「パティスリーシバサキのオーナーの柴崎佳史です。」
「ぱ…ぱて…?えっと…、ん?シバサキ??」
「あぁ、この人、あの柴崎の兄貴だから。嫁さんと店やってんだよ。」
「ええぇっ!!そ、そうなのか??」

だから必要ないって言ったのか。
知り合いだから、亮平から話してくれるってことか。
なんか昨日この人も優しいくていい人そうだなぁ、とか思ったら、あのシバサキのお兄さんかぁ…。
ちょっと顔も似てる、かな…。
じゃあさっきの看板には店の名前書いてあったんだな。


「亮平くんからちょっと話は聞いたんだ。」
「あ…ハイ…。」
「きみ、働きたいんだよね?」
「あっ、ハイ!働きたいです!オレ、字もあんまりわかんないですけど…。」
「ケーキ、好きなんだって?」
「大好きです!」

ちょ、ちょっと張り切り過ぎかな、オレの答え方…。
やっぱり知り合いっていってもダメだよな。
字も書けないなんて…。
世の中そんなに甘くないってやつで。


「じゃあ明日から、来てくれる?」
「…え?オレ、働いていいんですか?」
「うん、よろしくね、シロくん。」
「よ、よろしくお願いします!!」

こんなにあっさり決まっていいんだろうか…。
オレ、ホントに何もできないんだけど。
うん、でも頑張るけどな。




「お前のキラキラした瞳が、印象的だったんだと。」
「え…??」
「窓からじーっとケーキ見てたんだろ?」
「う…っ、そうだけど…。」

そんなじーっと見てたのか、オレ…。
そん時もヨダレ垂らしてなきゃいいけど。
食い意地ばっかりで恥ずかしいなぁ…。
亮平は昨日のオレの話を聞いて、すぐに電話しようとしたらしいけど、オレが勝手に家出てったから、朝電話してくれたらしい。
何から何まで、亮平にはお世話になりっぱなしだ。
オレは働いて、それと傍にいることでお返ししたい。


「お前の甘いもん好きが役に立ったな。」
「へへっ、そっかぁ。あ、でも亮平のほうが好きだからな!」

オレが明るく言うと亮平はちょっと困ったように笑って、オレの手をぎゅっ、と握った。
夕焼けが眩しくて、空気が生暖かい。
もうすぐ夏が来ることが、日に日に昼が長くなるのでわかる。
初めて亮平と一緒に過ごす夏はどんなんだろう。
その前に、明日からのことを考えながら、二人で並んで家に帰った。









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