「LOVE MAGIC」-8




「う〜…っ、疲れた…。」

ケーキ屋さんで始めて仕事を終えた日、オレは玄関でぱったりと倒れた。
ケーキ屋さんって、こんな疲れるんだな…。
ちょっと甘くみてたかも。
ずっと立ちっぱなしだもんな、計算するから、頭も使うし。
こんなんでオレ、やってけるのかな…。
ダメだダメだ、そんなこと考えちゃ!


「シロ…、何お前そんなとこで寝てんだ?」

オレが倒れている玄関に、同じく仕事を終えた 亮平が帰ってきて、びっくりしてる。


「やっぱキツいだろ。」

あ…、亮平、心配してる…。
オレは働いたことなんかなかったから、働きたいって言い出した時もびっくりしてた。
これじゃあ役に立つどころか迷惑かけちゃう。
そんなことないって、迷惑じゃないって亮平が言うのわかってるけど、オレが嫌なんだ。


「最初だけだって、大丈夫!」
「そうかぁ?」

亮平に頭を撫でられて、その手の温度を感じる。
いつもオレを褒めたりする時そうしてくれる。
またしてくれるなら、それだけで頑張れる。
亮平の喜ぶ顔、見たい。


「ホントだよ、オレ、頑張るからな!」
「そっか。頑張れよ。」

オレはすぐに起き上がって、しゃがんでいた亮平の胸に顔を埋めた。
亮平の心臓の音、腕の強さ、手のひらの感触とか、 オレがここで生きてるすべてなんだ。
なんか嫌なことあっても、すぐ忘れちゃうような、優しい言葉とか。
オレって亮平に、魔法かけられたみたいだな…。














それから一ヶ月。
相変わらずまだ仕事には慣れていない。
多分人より覚え悪いよな、言い訳みたいだけど、猫だったわけだし。
それでもヨシフミさんは怒ることもしないで、オレに一生懸命教えてくれた。
実は亮平は、オレがその、猫だったってのを話してたらしい。
ついでに言うと、そういう関係ってことも。
すごい恥ずかしい人みたいじゃないかよ〜。
でもどうしよう、嬉しい…なんて、思っちゃってるし。
そして今日はいよいよ給料日ってやつだ。
オレが頑張ったことを評価してもらえる日。
亮平の役に立てる日だ。
もらって、それとちょっと計画があるんだ。
早く夕方にならないかなぁ〜。


「いらっしゃいま…せ…。」

そんな幸せ気分に浸っていると、店のドアが静かに開いた。
一ヶ月前と同じ、花束を持った美幸ちゃんのお母さん。
一瞬だけ、びっくりして言葉が詰まってしまった。


「あら?あなたこの間外にいた…?」
「あ…、う、ハイ、いらっしゃいませ!」
「店長いるかしら?」
「ハイ、今呼んできます!」

オレ、変じゃなかったかな…。
おどおどしてなかったかな。
大丈夫だよな、オレがあの雪丸ってこと、知らないんだし。
でもオレはそれでいいのか…?
オレのこともしかしたらまだ心配してるかもしれない。
もし探してたりとかしたら…。
オレ、元気だよ、ちゃんと食べてるよ。
いい人に拾われて…、違う、好きになってもらって、今、幸せだよ────…。


「あのっ!!」

考えてるうちに、口に出してしまっていた。
なんて言おう、とか全然思いつかないけど。


「雪丸は…、今、幸せだと思いますっ!」
「え…??」

うっわぁ!オレ、何言ってんだ!
全然話が通じないだろこれじゃ。
絶対変に思われる…!


「この子のお友達がね、雪丸くんと思われる子飼ってるんですよ。」
「そうなんですか…?」
「そうなんです!ヨシフミさんから話聞いてそれでオレその…。」

はあぁ───…。
た、助かった…??
ヨシフミさん、いいところで。
でももしそれで返してって言われたらどうしよう?
オレ、亮平の傍にいたいよ───。


「そうなの。元気でいるならよかったわ。」

美幸ちゃんのお母さん…ありがとう、ごめん…。
でもオレ、ホントに今、幸せなんだ。
美幸ちゃんのことも大好きだったけど、今一緒にいてくれるのは、亮平なんだ。


「じゃあそのお友達によろしくね。」

美幸ちゃんのお母さんはにっこり笑って、いつものケーキを買って店から出て行った。


「旦那さんが海外転勤だそうだよ。」
「え…それってあの…。」
「うん、今日で最後じゃないかな。」
「そうなんだ…もう来ないんですか…。」
「きみのこと、心残りにならなくてよかったじゃない。」
「ハイ…。」

遠くに行っちゃうんだ…、美幸ちゃんち。
また、会えるかな、お母さんとお父さんに。
生きてたらまた、会えるよな、うん…。


「そんな顔しないの、ケーキ台、準備できてるよ?」
「あっ、そうだ!今からやります!」

オレは計画のことを思い出して、 すぐにご機嫌に戻った。
そうだよ、今が大事だもんな。
その今が続いて、繋がって、ずっとになるんだ。
まずは目先のこと、やろっと。
今を一生懸命やれば、きっといいことあるよな。
鼻歌なんかも歌いながら、オレはケーキ台に向かった。







§§§


「あなた、いいの?本当はあのお客さん、全部知ってるんでしょ?」
「いいんだよ、言わなくていいこともある、って言うじゃない。」

それに、それを頼んだ本人にも、悪いしね。
本当にいい人に拾われたよ、シロくんは。
僕の知ってる亮平くんはそんなタイプじゃなかったんだけど。
シロくんもあんな一生懸命になって。
どっちが…いや、どっちもか。
相手のためにそれだけ変われるんだ、恋って凄いって、思う。
僕も奥さん大事にしないと…ね。


§§§









亮平…まだかなぁ…。
最近、一緒に帰る時があるけど、今日はオレのほうが早く帰ってきた。
びっくりするかな…楽しみだな…。
亮平…早く帰ってこーい…。


「シロ…、シロ?」
「うあっ、びっくりしたぁ!」
「床で寝るなよ、風邪ひくぞ。」
「あ…う、おかえり…。」

オレまたいつの間に寝ちゃってたんだ?
なんか部屋ん中あったかくて、そんで亮平のこと考えてたら、またぽや〜っとなっちゃって。


「ただいま。」

いつもの、あいさつ。
オレの好きな声。
ちょっとだけ笑うんだ。
その後時々オレのおでこにキスしてくれる。


「亮平、ハイこれ!」
「なんだ?ケーキか??俺誕生日まだ…。」
「そんなの知ってるって、いいから開けてみろよ!」
「??なんだぁ?」

へへん、亮平絶対びっくりして喜ぶぞ。
なんたってオレ、一週間前から考えてたんだからな。
それでさっき寝不足で眠くなっちゃったんだけど。

「ぷ…、ははは…!」

オレの期待とは違って、亮平は突然吹き出した。
ちょっと待てよ、なんで笑うんだよ…。
オレすっごい考えて、頑張ったんだぞ。
なんだよもうー。


「ごめん、拗ねるなよ…。」
「そう言いながら笑うなよ〜。」
「ハイ、わかりました、愛しています。」
「??ん…?」

オレに向かって礼なんかして、一体なんなんだ、と思って、亮平が持っているケーキの箱を除き込んだ。
ホワイトチョコレートの板に、オレが書いた文字を 指差して、亮平は声に出して読んだ。


『りょうへい ありがとう 愛して
。 シロ』


オレの…、バカ〜…。
最後丸めるの忘れたー!
なんでこういっつも肝心なところで間違うんだよ。
命令してどうするんだよ…もう…。
それでも前に手紙に書いた時はもっとひどかったから、
なんて慰めになってないよ、亮平…。


「んじゃ食おうぜ、な?」
「うん!」
「なんだやっぱり自分が食いたかったんだな…?」
「あ…う…、うん…。」

でもここは俺な、と、さっきの板を亮平がつまんだ。
口に入れた後、もう一度亮平は言う。
今度はちゃんと、愛してるって。





「うん、オレも愛してる。」





出会ってもうすぐ一年、亮平が魔法をかけてくれたこの恋は絶対に、「ずっと」になる。














HAPPY END.(and HAPPY FOREVER.)


"LOVE MAGIC"series 1st stage...All end.
Thank you,and see you next stage.

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