「LOVE MAGIC」-4
オレって、ホントに友達いないんだなぁ。
ずっと亮平ばっかりだったから。
亮平に拾ってもらって、一緒にいてもらって、いっぱい触ってもらって…。
もう春だっていうのに、夜になった外は寒くて、これじゃあ野宿なんてできそうにない。
そう思いながら、ドアを叩いた。
「あの…、こんばんは…。」
「シロ…?」
猫神様は、びっくりしたようにドアを開けた。
オレの声が聞こえたみたいで、その部屋の奥から、洋平も玄関に出てきた。
オレがこんな時間に一人で来るなんてまずないから、なんかあったんじゃないか、って思うのは当たり前だ。
亮平は?って聞かれるのも当たり前だ。
「頬が少し紅いな、寒かったろう。」
「ちょっとだけ…、オレこれ一枚だから。」
オレはそう言って自分の着ていた服の裾をつまんだ。
亮平に、買ってもらったやつ。
オレ、身体小さいから、亮平のだとちょっと大きいんだ。
そしたら前に、買ってきてくれたんだっけ。
寒くて冷えた頬っぺたに猫神様の手が触れた。
でも…、でもオレ、なんも感じないよ…。
亮平に触られた時みたいに、ならない。
それってやっぱり…。
「まぁよい、入れ。」
「あ、ハイ、お邪魔しま~す。」
部屋の中はすごく綺麗に片付いていた。
きっと猫神様、綺麗好きでなんでもできるから、毎日掃除してるんだろうな。
あ…、なんかいい匂いする…。
─────ぐる…、ぎゅるる~…。
「なんだよシロ、メシ食ってねーの?」
「あー…、うん…。」
こんな時になんで鳴るんだよオレの腹!
恥ずかしいじゃないかよー。
「残り物ぐらいしかないが…。」
「あはは…、ありがとうございます。」
猫神様は台所に消えると、何やらあっためてるみたいだった。
なんか…、やっぱりいいなぁ、この二人。
会話少なくても、わかるみたい。
洋平の部屋だって、猫神様と知り合う前と全然違う。
なぁんか、二人で、って感じするよな。
う~…、よけいみじめになってきたぞ。
「で?どうした?慌ててないとこ見ると、兄貴が病気とかじゃないよな。」
「えっと…、家出してきた。」
「はぁ?マジかよ?」
「うん、ホント。」
そんなにびっくりすることかなぁ。
オレってそんなに亮平におんぶに抱っこに見えるのかな。
もうダメじゃんか、他の人にまでわかるんじゃ。
「へぇ~、お前らでも喧嘩すんだなー。」
「感心している場合ではなかろう。」
「いただきま~す。」
二人に囲まれて、湯気の出ているスープを口に運んだ。
あぁ~、あったまるなぁ…。
相変わらず猫神様、料理上手いんだもん。
あ…れ…、でもなんかちょっと…。
変な感じがするの、気のせいか?
オレはそれを食べながら、今日の家出までの
いきさつを全部話した。
猫神様も洋平も似たようなもんだから、オレの気持ち、わかってくれるハズだ。
二人とも優しいもんな。
なのに、そう思っていたオレとは逆の反応だった。
逆っていうかなんていうか、笑うことはないと思うんだけど。
「シロ~、お前ホントに鈍いなぁ。」
「まったくだな、今回はあの人間が正しい。」
「ええぇっ!!そんなぁ!」
オレ、鈍いって、バカってことだよな。
バカっていう自覚はあるけど。
だってオレ、猫だったんだ。
この世界のことなんて知らないし。
全部亮平が教えてくれたんだ…、あれ…。
亮平は、オレにこの世界のこと教えてくれたんだよな?
「俺、銀華が結局なんなのかなんて気にしてねーよ。」
あ…、そっか、そうだったんだ。
亮平はオレが猫だろうが人間だろうが、傍にいるって言ってくれたんだっけ。
オレがこの世に人間として存在してる証拠がなくても、いいってこと…か…、そう、だよな。
「私は洋平に、飼われているつもりなどない。わかるか。」
「あ…、ハイ…。」
あぁ、オレって、ホントにバカだなぁ。
亮平はオレのこと、飼ってるつもりなんかなかったのに。
いつもなんかしてもらってばっかりだったから、そんな気になっちゃってたよ。
そういえばオレが前に家出した時、言ってたのに。
『あのな、人間が交尾するのはその、あ、愛してる証拠だから。』
なんで忘れちゃってたんだろ。
なんだかオレ一人でいじけて、何やってんだろうな。
触ってくれてたのは、愛してくれてたからなのに。
これじゃあ亮平、呆れてるよな…。
このことでオレのこと、嫌いになったら…。
────ドクッ、ドクッ…。
オレの心臓、なんだこれ…。
今までこんなのない。
壊れそうだよ、すごい早くて、すごい振動で。
そうだ、さっきの、なんか変なの、この夜ご飯。
オレ今まで亮平と一緒じゃなかったこと、ない。
それだけオレ、亮平が全部だったんだ。
「どうしよう…、オレ、帰りたいけど、もう嫌われたよ…。」
うあ、なんだよこの心臓、おさまれー!
身体まで震えてきたし。
寒気までしてきたし。
「あのさぁ、兄貴ほどお前を好きな奴はいないと思うぜ?」
「え…、なんでわかる…?」
「しょっちゅう電話してくんだよ、シロがさ~、シロがさ~って。エッチのことまで自慢してくんの、勘弁して欲しいんだけど。」
「ええぇっ!!そんな…!!」
うわー、うわー、恥ずかしいよ!!
亮平、何話してるんだよー。
洋平まで恥ずかしそうに笑いながら言うと、猫神様はやっぱり呆れていた。
「それにさ、あの兄貴が昼の仕事なんて、考えられねーんだけど。」
「え…、でもそれは勉強が…。」
「違うって。シロといっぱいいたいから、って言ってたんだよ。」
「そ…、そうだったのか…。」
オレ、すっごい愛されてる…。
なんで気付かなかったんだろ。
亮平のこと好きなのにいっぱいいっぱいで、亮平のことまで頭が回らなかった。
でも亮平はそういうの、わかってたんだな。
猫だった時に言ってくれた亮平の言葉、
オレ今ならわかるよ。
お前だけだよ、俺のことわかってくれるのは、って。
そう言ってオレを抱いてくれて、好きになったんだ。
きっかけはエサだったかもしれないけど、オレはそんな亮平だから好きになったんだ。
どうしよう、亮平に会いたいよ…。
「それと、シロ。」
猫神様がオレを手招きして、オレを呼んだ。
亮平に会いたい気持ちでいっぱいになりながら窓際に向かった。
洋平が住んでるアパートの外に、人影が見える。
暗くて、あんまりよく見えないけど。
月のぼんやりした明かりの中で、反射するような明るい髪と、
空へ昇って行く煙で、
オレにはそれが誰だってことがすぐにわかった。
「オレっ、帰る!ありがとう!」
オレはたまらず、そこから走った。
§§§
「すっげー短い家出だよな。」
まったく人騒がせなカップルだよな。
片方自分の血縁者だけど。
どう見たって兄貴がシロに夢中なのわかるじゃんかよ。
俺、今まであんな兄貴は見たことない。
いや、いい意味でだけど。
「シロもこれであの人間の恋人とわかっただろう。」
お前はやっぱり優しいな。
シロのこと、心配だったんだな。
ホントは兄貴のこともちゃんと認めてたんだよな。
シロに自分でわからせるために、兄貴のこと認めない振りしてたのか。
わざわざ反対のこと言わなくてもなぁ…。
でも大丈夫、俺はそんなお前をわかってるよ。
俺も時々不安になったりするけど、そういうの乗り越えて行きたいと思ってるし、兄貴とシロにもそうなってもらいたい。
その第一歩だった家出をしてきたシロは、兄貴の名前を呼んだ頃だろうな。
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