「LOVE MAGIC」-3
オレ、何やってんだろ…。
いくらオレが人間の姿になったの、美幸ちゃんのお母さんは知らないからって、こんなことしてどうするんだよ。
「早かったな。」
「えぇ、店長さんが準備してくれてたのよ。」
美幸ちゃんのお父さん…。
あんまりオレ、一緒にいなかったけど、変わってないな、お父さんも。
そりゃあそうだよな、まだそんなに経ってないか。
オレが、あの家から勝手にいなくなってから。
「美幸、暖かくなったね。」
オレは見つからないように、その後をついて行くと、見たことのある場所へとたどり着いた。
寂しい、場所。
音もなくて、色もないような。
美幸ちゃんは、ここで眠っている。
美幸ちゃんのお母さんは、さっきケーキ屋さんで買った、白い箱をそこに供えた。
お父さんは、手に抱えていた花束を。
オレ、覚えてる、そのケーキの箱も、その花の色も匂いも。
美幸ちゃんがちょっと元気な時、お母さんがよく買って来てくれてたやつだ。
それでその花は、よく部屋に飾ってた。
オレ、ちょっとだけ忘れてたよ、あんなに好きだった美幸ちゃんのこと。
美幸ちゃんの好きだったものも。
オレって…、最低だな…。
「ごめんね美幸、雪丸やっぱりどこにもいないの。」
「あぁ、やっぱり見つからないのか…。」
─────…‥!!
オレの前の名前…!!
オレ、やっぱり最低だ。
勝手にいなくなって、後のこと考えもしてなかった。
ここに連れて来られて、美幸ちゃんがいなくなった、ってハッキリ見せられて、それが辛くって、
オレ…、逃げたクセに。
なのに亮平に夢中になって、それでよくなってた。
ダメじゃないか、そんなの。
バカだよ、オレ…。
「ちゃんと食べてるかしら。」
「まだ小さかったからな。」
「───…っ。」
ダメだ…、もうこれ以上ここにいたら、もっと思い出して、もっと辛くなる。
早く行かなきゃ…。
ここから、いなくならなきゃ…。
オレは、また逃げる…?
でもオレ、ちゃんと食べてるよ、生きてるよ。
どうやって、それ知らせたらいい…??
「あら?」
「なんだ、どうかしたのか?」
「今、誰か…。」
「?誰もいないぞ、気のせいじゃないか。」
亮平…、どうしよう…。
オレ、これからどうしたらいい?
オレは、どこにいればいい?
だってオレ、もう猫には戻れないし、でもこのまま人間の姿でいても、オレは人間じゃなくって。
わけわかんなくなってきた。
オレは全速力でそこから走って逃げた。
「シロっ?」
「え…、あ、亮平…。」
いつの間にか、元いた商店街に戻っていたオレは、仕事が終わった亮平とバッタリ会った。
亮平もこの時間にオレが街をうろうろしてるなんて思わなかったんだろう、ビックリしている。
いつもはオレは家で待ってたから。
「何やってんだ?」
「えーと、これから帰るとこ。」
「そりゃ見ればわかるって。」
「そうだけど…。」
当たり前のことを言ったオレに、亮平はぷ…、っと笑った。
あの女子高生に笑われた時はなんか嫌な気分になったけど、亮平に笑われるのは、そうならない。
いや、むしろ嬉しいぐらいで。
「んじゃ帰るか、な?」
「うん…。」
返事をするのにも、いつもの元気が出ない。
亮平、気付いてなきゃいいけど。
美幸ちゃんの話するとあんまりいい顔しないし。
オレはなんとか明るくしようとしながら、亮平と家に向かった。
「あのさ!りれきしょ、ってやつ、書きたいんだけど。」
「はぁ??履歴書〜??」
家に着いた頃にはすっかり元気になって、オレはあのケーキ屋さんのことを思い出した。
店長、って呼ばれてた人が、言ってたやつ。
りれきしょ、っての持って来て、って。
書き方とかあんまりよくわかんなかったから、適当に返事しといたんだ。
「あの、オレ、働こうと思って。」
「お前が?どこで。」
そんなに驚くことないのにな〜。
オレだってやればできるんだからな。
喜んでくれないのか…?
「えっと、商店街の中のケーキ屋さん!」
「ケーキ屋って…、あぁ、もしかして…。」
へっへーん、オレ頑張ったもんな。
ちゃんと探して、店長らしき人に話してきたし。
もうちょっとで働けるってとこだ。
「それでさぁ〜…、そこのケーキが美味そ…‥。」
「お前食うこと考えて…‥、シロ?」
しまった、あそこで働いてたら、
オレ美幸ちゃんのお母さんとお父さんに会っちゃうってことになるじゃないか。
そうだよ、今日って、美幸ちゃんの月命日とかいう日だ。
そしたらもしかしたら、毎月会うかも…??
「シロ?どうした?」
「…‥なんでもない。」
「お前さっきどこ行ってた?」
「それはその…。」
亮平はなんか気付いてる。
オレが元気なかったことも、どっか行ってたこともだ。
でも嘘つくの、やだな…。
亮平、許してくれるかな…。
「あの、オレ、美幸ちゃんのお母さんとお父さんに会って。」
「うん、それで?」
「オレのこと、心配してるみたいで…。」
「うん。」
亮平、黙って聞いてくれてるけど、
なんか恐いよ。
オレの心の中まで見てるみたいで。
「オレ考えたんだけど、一回だけ猫に戻れないかなーとか。」
そしたらオレが生きてる、ってわかる。
前よりは大きくなってるハズだし、どっかの猫と一緒に行けば、楽しく暮らしてる、って思うかも。
亮平とか人間と行けば、返して、って言われるかも
しれないからな、猫との方がいいかも。
それとか…えーっと…。
「戻って?それで?」
「オレを見てもらって、魔法でなんとかするとか!」
わかってもらえなかったら記憶を変えてもらうとか。
ちょっといい案かなーなんて…。
でも亮平…、さっきより、笑顔消えた…。
「お前、何がしたいんだ?戻りてぇのか?」
「違うよ…。」
「じゃあ何、魔法で人の記憶いじるって?」
「そ、そんな言い方ないだろ。」
なんだよ、オレのことわかってくれないのかよ。
オレが猫に戻っても、好きだ、って言ったクセに。
飼ってやる、って言ったのに。
だからオレ、人間の姿のまま、飼われてるんじゃないか。
亮平だって飼い主ならわかるハズなのに。
でも飼われる気持ちなんてわからないのか…?
なんだよ…、なんだよ…。
「亮平にはわかんないよ、オレの、猫の気持ちなんて。」
もうその時は口から出てしまっていた。
後からどんなに悔やむってことなんかわからずに。
「あぁ、わかんねぇなそんなん。」
「わかんないなら、一緒にはいられないよな。」
勢いがついてしまったオレは、そんな暴言みたいなことを
吐いて、後ろも振り向かずに、家を飛び出していた。
その時はオレ、気付かなかったんだ。
亮平の気持ちなんて。
オレの気持ちわかれ、って言ったクセに、亮平の気持ち、わかんなかった。
ごめんな、オレ、ホントにバカで。
亮平、ごめん。
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