「LOVE MAGIC」-2
「成程…。」
オレはなんだか一人でいるのが不安になって、猫神様のところへ行った。
だって猫神様も元猫だし、好きな相手が人間だし、オレの気持ちちょっとはわかるかな、って思ったから。
「オレ、なんかこう、亮平が好きで仕方なくって…。
亮平にいっぱい触って欲しくて、ずっと一緒にいたくて…。」
オレは恥ずかしげもなく、自分の気持ちを言ってしまっていた。
そうなんだ、オレ、亮平のことになると、もう他はどうでもいいっていうか…。
自分でもどうすることもできなくて、止まらないんだ。
これってやっぱり変だよな…。
さっきの笑われたのじゃないけど、
オレ自分でも時々おかしいって思うんだ。
なんにも知らなすぎて、一つのことしかできなくて。
「亮平のこと好き過ぎて、どうしたらいいんだろ…。」
オレが全部言い終わると、猫神様はハァ、と溜め息をついた。
そしてフワリ、と笑った。
「お前は此処に惚気に来たのか。」
「えっ!オレそんなんじゃ…。」
オレは今頃になって恥ずかしくなって、テーブルの上のドーナツを口に放り込んだ。
猫神様はなんでもできてすごい。
これも作ったみたいだ。
まわりに振りかけられた砂糖が、
オレの口の中でシュワ…、と溶けた。
「いや、ノロケにしか聞こえねーよ、シロ。」
「洋平!」
オレと猫神様が話しているところに、猫神様の相手の洋平が帰って来た。
洋平はオレの大好きな人の弟だ。
声がよく亮平と似ていて、髪も伸ばして、茶色くしたら、結構見た目も似てるかも。
でも中身っていうか、性格とか全然違うけど。
優しいところは一緒かな。
あ…、そういえばオレ、前に洋平に、俺じゃ代わりにならないのか、って冗談で言われたことあったな。
すぐにダメだ、って、亮平がいい、って答えたんだっけ。
なんでオレ、亮平じゃなきゃダメなんだろ…。
なんで……。
「今日は早いな。」
「あ〜うん、もう特別な注文とか配達とかなかったからな。」
…あ〜。
いいな〜、なんかこの二人。
亮平が前言ってたけど、夫婦みたいだなぁ。
不安なんて、ないのかなぁ。
オレもそうなりたいなぁ…。
う〜、羨ましい。
仕事から帰って来た旦那だよな、洋平の奴。
あ…、仕事…。
「シロ、どうした。」
「あっ、オレ行かなきゃいけないとこあったんだ!」
オレがぽやん、と見ていたことに、猫神様は気付いたみたいだ。
いくらなんでも見過ぎたかも。
お邪魔かな、っていうのもあったけど、
ホントのことだもんな。
働けるところ、探さなきゃいけなかったの、ちょっと忘れちゃってたよ。
早く見つけて、亮平に言いたいな〜。
なんか楽しくなってきたぞ、オレって調子いいな。
さっきの人間とか猫とかの証明の話なんて、すっかり忘れてる。
「どこに行くんだ?」
「へっへ〜、それは秘密だな。」
亮平に一番最初に教えたい。
そんでオレを見直した、って言ってもらいたい。
そしたらもっとオレのこと好きになってくれるハズだ。
今は誰にも教えないでおこうっと。
「兄貴に心配かけんなよ。」
「わかってるよ。…あ!猫神様、コレもらってっていい?」
「あぁ、持っていけ。」
「ありがと!じゃあ!」
オレはさっきみたいにウキウキしながら、猫神様と洋平の家を走って出た。
亮平へのお土産のドーナツを持って。
「うぅ〜…美味そう…。」
オレは仕事を探しに来たハズなのに、商店街の中のケーキ屋さんの前で立ち止まっていた。
でっかい窓から、クリームとかチョコとかいっぱいの
ケーキが見えて、思わず見入ってしまっていた。
でもオレ金持ってないしなぁ。
亮平に買って、って言うのもいつも悪いと思ってるんだ。
「…あ。」
オレでも読める、バイト、って字。
赤い太い字で書いてある。
そこの窓に紙が張っていた。
他はよくわかんないけど、これって募集してます、って張り紙だな?多分。
うーん、でもどうしたらいいんだろ…。
「君、ケーキ好きなの?」
「…あ、あ、えっと、ハイっ!」
中から店に人が出てきて、オレに声を掛けた。
うわ、オレなんか怪しい奴だと思われてないか?
に、逃げたほうがいいのかな…。
でも逃げたらよけい怪しいよな、うん。
よし、聞いてみよう。
「あの、これって…。」
オレはその張り紙を指差して、なんて言おうか考えていた。
「バイト?君、働きたいの?」
「あ、ハイっ!」
優しそうな人は、オレに色々説明してくれた。
白い服着てるから、あのケーキ作ってる人だな、きっと。
いいなぁ、ココで働いてたら、ケーキ食えるのかな、期限あるとかで余ったやつとか。
ヤバい、オレまた食い意地張ってる。
あーでもホントにいいな、この人いい人そうだし。
オレの周りは、みんないい人でよかった。
「こんにちは、店長。」
「あぁ、お久し振りです。」
────え……っ。
「またいつもの、頂ける?」
「えぇ、準備してありますよ、どうぞ中へ。」
なんで今まで考えなかったんだろう。
オレはそんなに遠くまで来てなかったこと。
亮平と一緒にいるようになって、忘れたわけじゃないけど。
ちょっとは可能性があるって、考えるべきだった。
そしたら心の準備もできてたかもしれないのに。
「あの子、あのケーキが大好きだったから。」
こんなところで、オレの元飼い主、美幸ちゃんの
お母さんに会うってことを。
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