「魔法がなくても」-4




「……‥っ。」


日はすっかり暮れて、暗い部屋の中で深い口づけをされた。
熱い舌が私の口内に割り込んで来て、中を隅々まで探られる。
眩暈は一層激しくなり、視界も歪む。


「んぅ……っ。」

こんなことになるとは思ってもみず、などと動揺しつつも、
私はしっかりとその背中に手を回して、口づけに応える。
本当は心の奥底ではこうなることを望んでいたようで、己のはしたなさに呆れる程だ。
それでも一度触れられると、止めることなど出来るわけもなく、共に床に崩れ落ちた。


「……あっ!」

服を捲られて、胸の先端にも口付けられる。
思わず私らしくもない甘い喘ぎが洩れて、羞恥心で堪らなくなり、口元を自ら塞いだ。
当たり前だ、私は雄で、神なのだ。
このような声など聞かれていい筈がない。


「ダメ。」

洋平は私の手を取り、その指を口に含み、
濡れた音をたてて、愛撫する。
私はもう逆らうことなど出来ずに、されるがまま、指をたっぷりと舐められて、それだけで達してしまいそうだ。
このような行為が久々だからとか、私が特別感じやすい身体だとかではない。
相手が洋平だからだ。
その人間に触れられて、こうならない筈はない。


「ん…っ、あ…!」

その主張とも言える下半身に手が伸ばされ、膨らんだそこに触れられると、びくり、と身体が跳ねた。
服は全て取り去られ、生まれた時と同じ状態になった。


「銀華は、本当に、綺麗だな。」

月明かりに照らされた私の身体は、髪と同じ色に反射して、洋平はそんなことを呟く。
綺麗なわけなどないのに。
この心は醜いのに。
此処に居る為にお前に魔法をかけて記憶を消して、騙して、嘘をついて。
綺麗なわけなどあるものか。
身体もそうだ。
私は過去に別の人間に脚を開いていた。
罪を犯して、二度と猫の姿には戻れなくなり、神の修業をしたのだ。
汚れているのだ。
そのように言ってもらえる資格など、皆無だ。


「あぁっ、あ…。」

ゆるゆるとその場所を洋平の掌が包んで撫でて、先端から蜜が溢れ出す。
なんと厭らしい身体なのだろう。


「ん…っ。」

蜜は量を増して雫のようにそこを伝う。
そこから洋平の手は後方へと移動し、私の腿を掴んで大きく開かせると、その秘密の場所へと指が当てられた。


「ひ……っ。」

もうどれだけそこに他人の身体の一部が入って来ていないだろう。
敏感なそこに指が挿入された瞬間、僅かに悲鳴のような声をあげる。
ゆっくりと確実に指は奥へと進み、先程私が零した蜜を絡めて、その体内で蠢く。


「凄い、もうこんな入ってる…。」
「…っ、言うな……っあ!」

指の数は増やされ、体内を掻き回され、いよいよ快感でおかしくなる。
はしたない欲望を堪えきれず、洋平の首に手を回して、願ってしまった。
この体内を、熱いもので穿って欲しいと。
お前が、欲しい、と…。


「――――――っっ!!」

洋平は軽く私の首筋に口付けて、私の願い通り、この身体の中に入って来た。
信じられない程の圧迫感に、涙が滲む。
私の体内で洋平のそれは質量を増して、熱をあげて、激しく揺さ振り続ける。


「あぁっ、や、ああっ。」

涙は頬を伝い、滲む視界に見えた洋平の表情は、 私と同じものに思えた。
はっきりとはわからないが、この熱さは、そのものだ。


「んんっ、もう…っ、もう…っ!」
「イく?」
「んっ、あ、ん…っ!」
「俺もイきたい…。」

体内を何度も突かれ、今度こそ本当に達しそうだ。
洋平の首に回された私の力は強まり、私の腿を支える洋平の力も強まって、互いに絶頂が近いことを悟る。


「銀……っ!」
「く……っ、ああぁ――っ!!」

程なくして、同時に達した。



好きだ、お前が好きだ。
本気で恋してしまった。
誰よりも好きなのだ。
私は今なら、神という立場も、己のプライドも、迷わず捨てられる。
もう二度とあの世界に戻れなくてもいい。
そこまで思った。



行為の最中に洋平は私の名前を囁いた。
それは昔恋したあの人間と同じ呼び方だった。
声も姿も似ていた。
それでも、違う人間だということがはっきりとわかった。
私は昔恋した人間の名前まで忘れてしまっていたのだから。
こんなに好きになってしまって、どうしたらいいのだ。
お前は、洋平は、私をどう思っている?
身体を繋げたからと言っても確証のない洋平の思いに、私は不安に駆られた。
私の過去や、正体を知ったら、なんと思うのか。
しかし汚れた欲望には勝てず、私は何度も洋平と繋がってしまった。
許されない、そして、確かでもない恋なのに。









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