「そらいろ-3rd period」-9





「とりあえずママが心配してるだろうし…。」

俺は上着のポケットから携帯電話を取り出し、電話帳から空の家の電話番号を呼び出した。
普段はほとんど掛けることのないその番号を目の前にして、ボタンを押そうとする手が震える。


「あきちゃん…、僕…っ。」
「ここにいるって連絡するだけだから…ほら、多分大騒ぎしてるだろうし…。」
「あ……そ、そうだよね…そっかぁ…。」
「うん、それだけだから…な?」

いよいよ押す時になって、不安そうな顔で見つめる空が俺の腕を掴んだ。
無理矢理帰らせられるとでも思っていたのだろう。
バカだな…そんなことしないのに。
違う、しないんじゃなくて俺が出来ないんだ。
改めて空と心が通い合った今、このまま帰すなんてことはどう頑張っても出来そうにない。
それに家出の本来の理由は進路のことで、俺と空が喩えこういう関係でなかったとしても、俺を頼って来たかもしれない。
確かに家出なんてものは一時の強行手段かもしれないけれど、すぐに帰るならば初めから家出なんかしない方がいい。

予想通り電話の向こうの空の家では大騒ぎになっていて、近くで七海が泣く声が聞こえた。
姉まで一瞬泣きそうな声で電話に出た時はさすがに胸がちくりと痛んだけれど、決心したのを今更引き返すわけにもいかなかった。
俺は姉に八つ当たりのような罵声を浴びせられ、やっぱり最初は負けそうにはなった。
だけど今までの俺とは違う。
空の叔父として、空の恋人として、譲るわけにはいかなかった。
姉はすぐに帰って来いと言い続け、俺も俺で嫌だと言い続けた。
今帰って話しても同じだ、明日きちんと責任を持って連れて行くから今日だけは泊めてやりたい、空が落ち着くのを見守っていたい。
何も知らない人が聞けば、俺は甥っ子思いの、面倒見のいい叔父そのものだった。

姉弟喧嘩はそのままずっと平行線を辿るばかりで、最終的には姉との電話を半ば強制的に切ることで一旦は終わった。
明日どれだけ責められるかを考えると今から恐ろしくなってしまったが、場所だけでも言っておけばとりあえずは安心だろう。

俺と姉に申し訳ないと思っていたのか、空はその間ずっと下を向いていた。
それでも姉が電話に出てくれと言ったのを断固として拒否した。
空の決意の強さを感じたからこそ、俺はいつもみたいに姉の言われるがままにはならなかったのだ。
もちろん裏の理由…空と抱き合いたいから空を帰したくないという思いでも負けたくなかった。


「あ……っ、あきちゃ……っ。」

それから俺達は罪悪感も何もかも忘れ、ベッドへ直行した。
風呂に入ってからがいいという空に対して「どうせ汚れるから」と言うと、真っ赤になっていたのが可愛かった。
俺はそんな可愛い空を汚した。
だけど空はそれでいいと言う。
それならばもう迷うことなんて何もなかった。


「あ……ぁ…っ、やぁ…んっ!」

俺は急いで空の服をすべて脱がせて、胸への愛撫を施した。
舌先で胸の粒を転がす度に空の身体はビクビクと跳ねるように動いて、すぐに剥き出しになった下半身へも影響を及ぼしていた。
それは空が俺と同じ男であるという証拠でもあり、空の心の成長と共にずっと見てきた身体の成長を象徴した部分だ。


「ん…ふ…っ、あぁ…んっ、あきちゃ…っ、あきちゃ…ん…っ!」

初めてそれを口に含んだのは10年前で、空はこの行為の意味すらわからなかった。
ただ俺がすることに感じていただけで、熱を吐き出すことも出来なかった。
その後も何度か触れたことはあったけれど、初めてそこから白いものを放ったのはその5年後だった。
病気になったのではないかと泣きながら戸惑っていた空を、俺は今でも昨日のことのように思い出せる。
俺はそうやって、空の成長を見て来た。
大人になっていく空をずっと見て来たんだ。
誰に譲るものか…誰に渡すものか…。
俺がしたことなら、俺が最後まで責任を取ればいい。
他の誰にも触れさせることなんて絶対にしたくないし、絶対にさせない。
俺の中にははっきりと独占欲が芽生え、もう一生離したくないと心の底から思った。


「あきちゃん…僕…も……。」
「え……?」

一回目の射精を終えた後、空はまだ息の整わない声で呟きながら、俺の下半身に手を伸ばした。
今まではそんなことはしなくていい、そう断っていたかもしれない。
だけど真っ赤になって震えている空の勇気を無駄にしたくなかった。
俺は黙って空の行為を受け入れ、見守ることにした。


「あきちゃん……ん…っく…、ん…。」
「空……。」

空は小さな口で俺のものを頬張り、一生懸命になって初めての口淫をしてくれた。
それは拙くて不器用で、決して上手いと言えるものではなかったけれど、俺まで初めてのことのように感じてしまった。
苦しそうな表情や涙を滲ませた目がとても可愛くて、いやらしくて…。
俺は興奮するのを抑え切れなくて、空の髪を優しく掴んでその動きに応えた。


「ん…、ん…ふぅ…ん……っ、あきちゃ…っん…っく…。」
「空…そろそろ離し……っ…。」

俺は思ったよりも早く、限界を迎えようとしていた。
まさかこんなにすぐにイくだなんて…。
いつかこういうことをするかもしれないと想像をしてみなかったわけではないけれど、ここまで気持ちがいいとは思っていなかったのだ。


「ふぇ…?ひゃ……っ?!」
「離し………っ!」

ギリギリのところで無理矢理空の口から俺自身を出したけれど、俺の白濁液は空の顔めがけて放たれてしまっていた。
柔らかくて白い頬が、俺の汚れたものに塗れている。
その光景がこんなにも淫猥なものだということも、予想していなかった。


「空…えっちだな……。」

空は頭の中が真っ白になっていたのか、何も言わずに俺に顔を拭われていた。
俺は掌にべっとりと絡み付いた自分のそれをシーツに擦り付け、空をぎゅっと抱き締めた。


「ひゃぁん……っ!」

抱き締めたまま空を上に乗せ、後ろに手を伸ばす。
空はまるで一気に眠りが覚めたかのように高い声を上げて、俺の上でビクリと跳ねた。
思えば初めてのセックスの時の空は、この行為に驚いていた。
まさかそんなところに指なんかが入るとは思ってもいなかったのだ。
今はそれも知ってしまったけれど、反応の新鮮さだけはあの時とまったく変わらない。


「あ…はぁ……っ、あきちゃ…ひゃぅっ、はあ……ぁんっ!」

俺は濡れた指を空の後ろに滑り込ませ、ゆっくりと奥へと進めた。
異物感で顔を歪ませていた空も、時間をかけて指の数を増やすと、今度は時々訪れる快感の波に顔を歪ませた。


「あきちゃ…も…だめぇ……もう…っ、あぁんっ!!」

わざと濡れた音を立てて中を掻き回して、空の弱い場所を探る。
俺だけが触れることの出来る秘密の部分は、既に熱でとろとろに蕩けてしまいそうだ。
そしてこの先もずっと俺だけが出来ると思うと嬉しくて仕方がなくて、いつもより激しくしてしまった。


「あっ…あきちゃ…っ、あっ…あ!だめぇっ、あっ!あああぁ………んっ!!」

空はとうとう堪え切れずに、俺の身体に白濁を放った。
指でいじられて達してしまったのは初めてで、おそらくまた空は戸惑ってしまうだろう。
そんな空の戸惑いを安心させてやるのは俺だけだ。
空の「初めて」を見るのもするのも、俺だけなんだ…。


「…あ…きちゃんー……。」

空は声もまともに出ないぐらいぐったりとして、そのまま俺に向かって倒れ込で来た。
濡れた皮膚がぴたりとくっ付いて、なんて気持ちがいいんだろう。
早く身体ごと一緒になりたい…早く空の中に入りたい…。
俺は空をもう一度しっかりと上に乗せ、強く抱き締めながら小さな身体をゆっくりと下ろした。


「あ…っ、ふぁ……んんんん────…っ!!」

空は叫ぶように大きな声を上げて、俺を受け入れた。
痛みと圧迫感で涙を流しながらも細い腕はしっかりと俺にしがみ付いていて、まるで「もう離れない」と言っているかのようだ。


「あきちゃんっ、あっ、あっ、好き…っ、あきちゃんが好きなの…あ……ぁっ!!」
「空……っ、好きだよ…空……っ。」
「あきちゃん好きっ、あきちゃ……あっ!好きぃ…っ、あきちゃん大好きぃ…っ!」
「空……っ、好き……くっ…。」

空は掠れる声で何度も告白をしてくれた。
俺も空に何度も告白をし、上に乗った空を激しく揺さ振り続けた。


くーはあきちゃんがだいすき。
あきちゃんといっしょじゃなきゃやだ。
くーはあきちゃんといっしょがいいの。
空はあきちゃんがだいすきだよ。
空もあきちゃんが欲しいよ?
あきちゃん、こういうの恋って言うんでしょ?
あきちゃんと恋がしたいって思ってたの。
あきちゃん、空のことホントにずっとすき?
僕…あきちゃんが好き…大好きなの…。
あきちゃん、ずっと僕と一緒にいて…?ずっと好きだって言って…?

うん…ずっと一緒にいるよ、空。
ずっと好きだって言うからな。
だってあきちゃんは空が大好きなんだから…。


時々意識が飛びそうになりながら、俺は空がくれた数々の言葉を思い出していた。
言葉遣いが変わっても、空が自分のことを言う呼び名が変わっても、変わらないものがある。
「好き」という変わらない思いが今、一つになろうとしていた。


「あっあぁんっ!!あきちゃん…っ、あきちゃぁん……っ!」
「空…、空……っ!」
「あっ…も…っ、やあぁっ、あきちゃああぁ───…んっ!!」
「空………っ!!」

俺達はほぼ同時にその時を迎え、一番高いところへ到達して果てた。
空だけでなく俺までバタリとシーツの上に倒れ、暫く動くことさえ出来なかった。






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