「そらいろ-3rd period」-4
「ん…っん…、あきちゃ…。」
何度も繰り返されるキスは、深く激しいものになっていく。
俺の唾液と空の唾液が交じり合って、口の端からとろりと零れ落ちる。
「あ…っ。」
空の首筋を伝って胸の突起に辿り着くと、俺はそこにもキスをした。
丸く膨らんだそれを舐められる度に空は全身を揺らしている。
「気持ちいいか…?」
「う…うんっ、気持ちい…っ、気持ちいーの…っ。」
俺は空を膝の上に乗せたまま、そこを執拗に愛撫した。
空から漏れる溜め息混じりの喘ぎが、浴室中に響いて止まない。
離れていても俺の耳の奥にこびり付いて離れなかったその声が今、現実となっている。
俺はずっと、この日を待っていた。
空とこうして再会して、こんな風に抱き合うことを。
「あきちゃん…っ、僕…ホントは恐かったの…っ。」
「え……?」
涙を滲ませた空がぎゅっとしがみ付いて来て、俺の耳元で囁いた。
俺はその抱擁に応えるように抱き締め返してから再び行為に縺れ込もうと身体を離した。
その時視界に飛び込んで来たのは、目を閉じて震えている空だった。
「あきちゃんがもう好きじゃなかったらどうしようって…。」
「そんなわけ…。」
「僕…大きくなっちゃったから…。成長なんか止まればいいのにって思ってた…。」
「空…。」
空は手紙でも電話でも、寂しいと言うことはなかった。
たった一度だけ「ちょっと寂しいけど大丈夫」なんて書いてあった時があって、
その時は手紙を目の前に俺の方が寂しくて泣きそうになってしまった。
空は我儘だけど、我慢の出来る子だった。
それは俺がこの10年見てきたからわかる。
本当に辛い時は我慢をする子だということを、俺はちゃんと知っている。
だからこそその本心がわかった時には愛しさが込み上げて堪らなくなるんだ。
「そんなこと言ったら俺の方がそうだろ?おじさんになっててガッカリしなかったか?」
「あ、あきちゃんは全然おじさんじゃないよ…!」
「そうか?もうすぐ30だぞ俺。」
「うん…あのね…、前よりもっとカッコ良くなったよ…。ホントだよ?ホントにそう思ったの…。」
照れくさそうに言う空が、俺の好きな笑顔を見せてくれた。
さっきまで不安で仕方がなくてあんな風になっていたのが嘘みたいだ。
俺はこの、曇りのない眩しい空の笑顔が好きなんだ…。
「空も前よりもっと可愛く…あ、可愛いなんて嬉しくないか…。」
「ううん、嬉しい…。あきちゃん、嬉しい…っ。」
「それに大きくなった…。」
「うん……っ。ふ…ぁ…っ。」
空は可愛い。
たとえ大きくなろうと、俺の中でその形容詞はこの先も変わらないと思う。
小さい時からずっと可愛いと思っていたんだ。
それに可愛いというのは字の通り、愛がなければ言えないことだ。
俺は空が小さい時からずっと愛してきた。
だから他に空を喩える言葉なんて見つからない。
「ここも…、おっきくなったな…。」
「あ…あきちゃん…っ!あ…ぁんっ!」
硬い床にタオルを敷いて、空を寝かせた。
目に付いたのは下半身の成長で、それは俺が今までに見た時とは著しく違っていた。
幼稚園の時よりも、5年前最後に見た時よりも大人になった。
「ん…っ、あ…あ…っ。」
空の成長を目で思う存分確認した後、それを口に含んで自分の口でも確認した。
口内をそれが占める大きさが、5年前とはだいぶ違う。
「あきちゃ…っ、やぁ…っ。」
俺はそれを咥えながら、空の脚を高く持ち上げた。
5年振りに対面するのは、咥えているものだけではない。
俺と空が繋がるための、秘密の場所。
それはこの世で一番知られてはいけない秘密と同じぐらい、誰にも内緒の部分だ。
「あきちゃん───…っ!ん───…!」
俺は濡れた手で空のそこを押し開いて、指先を挿入した。
柔らかくて熱い空の体内を、今俺は肌で感じることが出来る。
出来るものなら、早くこの中に入りたい。
空と繋がって、二人で果てたいと思った。
「はぁ…っ、はぁ…っ。」
久し振りの感覚に、空は肩で息をしながら耐える。
指を数本入れるまでには相当時間がかかったけれど、空には出来るだけ痛い思いはさせたくなかった。
出来るだけ優しく、でも出来るだけ激しく…深く抱き合いたいと夢見ていた。
「あ…あぁ───…っ!」
その夢が叶う瞬間は、空と一緒に俺まで涙が出そうだった。
5年間待ち続けたこの感覚と快感が、夢ではないことが嬉しくて。
空が俺の名前を呼びながら繋がることが嬉しくて…。
最後の方はどうやって行為を終わったのか覚えていないぐらい、俺は夢中だった。
空の身体を抱くことが出来たという喜びだけでもう精一杯だったんだ…。
「空…大丈夫か…?」
「あきちゃん…。」
風呂から出ると、空は本当に逆上せる寸前だった。
濡らしたタオルを額に載せた空は、まるで風邪の時みたいだ。
目が赤くて頬も赤くて、熱が上がっている時みたいな表情を浮かべている。
でも今そうなっているのは俺のせいだ。
それが申し訳ないのに嬉しくて、俺の心の中は矛盾だらけだと思った。
「水…飲めるか?」
「うん…ありがとう、あきちゃん…。」
俺はふらふらする空を支えながらゆっくりと起こして、ペットボトルの水を差し出した。
俺に預ける空の身体の重みもだいぶ増した。
「タオル替えて来る…。」
「あきちゃん…っ。」
外したタオルをもう一度濡らすために立ち上がろうとすると、空が俺の腕を掴む。
せっかく泣き止んだのに今にも泣きそうな空の顔は、何も言わなくてもその心の中がわかった。
「うん…。大丈夫、どこにも行かないから…。」
「あきちゃん…。」
行かないで。
もうちょっとだけここにいて。
空と一緒にいて。
それは俺の好きな、空の我儘だ。
こんなに大きくなったのに、なんだかまだまだ子供に見えて仕方がない。
「あきちゃんー…。」
俺はタオルをテーブルの上に置くと、水を飲む空の肩を優しく抱いた。
どうかこの恋が壊れないように。
お願いだから、空と俺を離さないでくれ。
何も言わずに流れる静かな時間の中、俺はずっと祈り続けた。
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