「約束」-21





「ん…ふ…っ、ん…っ。」

既に蒼の頭は草の上にしっかりと乗っていた。
上から跨る葵が仕掛けてくるキスに取り残されないように、置いて行かれないように懸命に応える。
それでも経験の差なのか、葵の激しさには叶わなくて、口の端から唾液がひとすじの線のように零れた。


「好きだ…、蒼…、好きだ…。」
「僕も…っ、好き…っ、葵ちゃん…っ、好き…っ。」

耳元で妖しく優しく囁く葵の声は、蒼の鼓膜の中までも溶かしてゆく。
繰り返される愛の言葉は、まるで何かの呪文みたいだと思った。
このままこんな時間が続けばいい。
いや、それが出来ないとわかっているからこそ、この短い時間の一瞬一瞬を夢中で過ごしているのかもしれない。
少しでも近いところに、少しでも葵の体温が感じられるようにと。


「ごめん、ここ痛ぇよな?」
「え…っ?」

キスの熱に浮かされながら、葵が握ったのは蒼の傷付いた手首だった。
赤く腫れ上がった跡を、葵の舌が丁寧になぞる。


「ひでぇことすりゃ俺のことも嫌いになるかと思ったんだ…。」
「そんなの…絶対無理だよ…っ。」

葵が何と言おうと何をしようと、嫌いになるなどと出来るわけがなかった。
嫌いになろうとも思わなかったし、それは蒼にとっては不可能なことだった。
笑いながら言って、一度離れた唇を再び何度も重ね合う。


「そうだな…、でも悪かった。」
「もういいよ…、んっ、あ…っ!」

蒼の唇を捉えていた葵の唇が、首筋をゆっくりと下りて行く。
今度は傷ではなくて、優しい跡を残すようにと、肌の奥をきつく吸いながら。
シャツのボタンが外されて、この後の行為をはっきりと認識した。
ここが寮でもホテルでもなく、あの丘だということも認識している。
それよりも葵が欲しくて堪らないという本能が勝ってしまっているのは言うまでもない。


「あ…っ、んんっ、ん…っ。」

いつの間にかボタンは全部外されて、剥き出しになった胸元を葵の唇が這う。
舌先でその先端の粒を転がすように弄られて、意識が遠退いて行きそうになる。


「やべぇ…、我慢…出来ねぇ…。」
「うん…っ、僕も……っ、あ…!」

辛そうな表情を浮かべた葵は、蒼の下半身に手を掛けた。
ほんの数分間の前戯で反応してしまった性器がすぐに葵の手によって外界に取り出される。
そこは角度を変えるだけでなく、しっかりと濡れてしまっていた。
こんなにも葵のことが好きだから。
こんなにも葵に触れられるのを待っていたから。
この身体は葵が欲しくて堪らないと叫んでいるみたいだ。
張り裂けそうなほど叫んで、涙を零して。
それが下半身の反応となって表れたのだ。


「脚、開けよ…。」
「や…っ、あ…っ。」
「今更だろ?全部見せろよ、なぁ?」
「う…っ、あ……、うぅ…っ。」

理性はほとんど残っていなくとも、さすがに蒼もそれには恥ずかしさを覚えた。
まだ昼の真っ只中、太陽だってこんなに明るく照っている。
葵の言う通りにしたら一番恥ずかしいところが丸見えになってしまう。
今更と言われても、男相手に好き好んで脚を開く男は稀だろうと思う。


「蒼、見せろ…っ。」
「あ……っ!!」

こんな時に名前を呼ぶなんてずるい。
そんな風に強く見つめられて、強く言われたら、逆らえるわけがない。
だって自分が好きなのは、強引な葵なのだから…。


「あぁ、よく見えるな…。いやらしいな、ヒクついてやがる。」
「やだ…ぁっ。」
「お前の中、すげぇぞ。」
「やあぁ…っ!」

膝をぐっと掴まれて、葵の顔が下半身に接近する。
それだけでもう達してしまいそうなほど興奮してしまった。
葵の言う通り、自分はいやらしいのかもしれない。


「う…っく…っ、ひぁ…っ、あっ、んん…っ!」

葵がすぐ近くで見ている。
葵と自分が繋がる箇所を、誰も見たことがない秘密の部分を舐めるように凝視している。
蒼はあまりの羞恥心で顔を逸らしながらも、大量の唾液で濡れた葵の指を受け入れた。


「もう…っ、もうダメかも…っ、僕もう…っ!」
「なんだよ、急かすなよ…。」
「でも…っ、おねが…っ、葵ちゃ…、お願い…来てぇ…っ!」
「ふ…、すげぇこと言うんだな…。」

それはお互い様だ。
蒼が求めれば葵は喜ぶ代わりに酷い言葉を投げ付ける。
その酷い言葉を受け取れば蒼は更に興奮する。
それを見た葵が今度は興奮する。
これは作られた劇でも何でもない。
二人が望む、最高の状態でのセックスなのだ。
誰が何と言おうと、これ以上のセックスはないとお互いに思っている限りは続く。


「おねが……あ……!」
「欲しいのか?」
「あ…、欲し…っ、欲しいよぉ…っ、葵ちゃんっ、欲しい…っ!」
「お前…、最高にエロいな…っ。」

その証拠に、葵は笑ってくれる。
笑いながら取り出したものが、夏の青空を目指して上を向いている。
蒼は早くそれが欲しくて堪らなくて、後孔に指を入れられたまま自ら脚を掲げた。


「あ───…っ!!あっ、はぁ…っ、んん───…っ!!」
「すっげぇ声…。」
「あっ、あぁ…んっ!やあぁっ、あぁ…っ!」
「ここもすげぇ…、すっげぇ締まってんぞ…っ。」

一気に挿入された葵自身が、容赦なく蒼の体内を突く。
先走り液は蒼の茎を流れて、後孔まで届きそうだ。


「やっ、イくっ、イっちゃう………っ!!!」
「まだ入れたばっかだぞ…っ。」

挿入してすぐ、いつもならまだ我慢出来たところだったが、蒼は一人で達してしまった。
葵はそれに気付いておきながら、なおも蒼を揺さ振り続ける。
その繋がった部分からは、蒼の精液によってぐちゅりぐちゅりと濡れた音が広い大地に響き渡っていた。


「あ…っ、ダメ…ぇっ!」
「またイきそうなのか…っ?淫乱だな…っ。」
「ごめ…っ、でもダメなの…っ、葵ちゃ…もうダメ…っ!」
「まぁ俺もダメだけどな…っ。」

すぐに二回目の絶頂が訪れた蒼を葵は罵ったけれど、その葵の方も限界が近付いていた。
目の前でよがって喘ぐ蒼の姿を見ながら自分がその中にいるのかと思うと、堪らなくなってしまったのだ。
蒼の脚を強く掴み直して、二人でその高いところへと上るように腰を激しく動かした。


「あっ、ダメぇっ、あっ、イくっ、イく───…っ!!」
「……ぅ……っ!」

程なくして蒼が達するとほぼ同時に、葵の顔が歪んだ。
自分の体内に熱い液体が放たれたのがわかると、蒼は嬉しさと安堵感で意識が途切れてしまった。






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