「トラワレ」-4:「試」
「あ…‥はやく…っ、挿れ‥っ、玲の…っ。」
先走りで濡れたペニスを一層激しく二つの手で擦る。
腰を突き出して、後孔にも指を挿れさせた。
「義兄さん…凄い、義兄さんのお尻の中、ぐちゃぐちゃだよ…。」
「玲に挿れられる…のっ、待ってた…から‥。」
玲の片方の手が挿れられた後孔はヒクついて待っている。
猛った玲のペニスが挿入されるのを、今か今かと。
「もっ、ダメ…っ、挿れてっ、挿れて下さいっ!玲っ、お願い挿れて…っ!」
「知らなかった。義兄さん、そんなこと言うんだ。」
そう、待っていた。
ずっと、待っていた。
いつから?
「命にかかわる傷じゃなくてよかったよ…。」
「でも…あの子、戻るのかしら…。」
「大丈夫だ、一時的なものだと今先生もおっしゃっただろう。」
父と義母、それと医者が、玲のことを話している向かいで、俺は放心状態のまま、一言も話すことは出来なかった。
玲は傷の手当を受けて、鎮静剤と睡眠薬で眠らされている。
「精神的ショックで、玲くんの中で時間が退行しています。」
精神的ショックなのは、玲だけじゃない。
今、玲を見ていることしか出来ない俺もだ。
玲の血が、まだ俺の服に染み付いていた。
鮮やかな、紅い、血液。
「その…最近あった出来事の記憶が抜けていると言いますか。ここ半年ほどのことが…。」
玲の脳内から、最近のことの記憶がなくなっている。
俺とのことも、忘れている。
「暫く入院して様子を見ましょう。…その、大変言いにくいんですが…。」
医者は咳払いをして、震えている知紀に視線を向けた。
知られた。
両親にも、この医者にも。
「玲くんは…その、性倒錯ということはあるんでしょうか…。」
性の「倒錯」。
間違いということ?
おかしいということ?
男同士だから。
血は繋がっていないけれど、兄弟だから。
その弟に犯されて自分がよがっているから。
頭の中を、ぐるぐると色んな思いが駆け巡る。
「実はこの子…。」
義母が涙を浮かべながら、重い口を開いた。
ハンカチを口元にあてて、今にも激しく泣き喚き出しそうだ。
「私は信じられなかったんです…。」
嗚咽しながら、義母は過去を全て告白した。
玲は、実の父親に性的虐待を受けていた。
義母のいない時を狙って連れてどこかへ行かれて、何度も犯されたと、一度泣き付いたという。
義母はそんな玲の言葉を、信じなかった。
もう一つ、そのことで驚くべき事実があったのだ。
自分に対する異常な執着心の理由が、今わかった。
「あの子の父親は、智樹といいました…。」
復讐…‥か?
自分と同じ名前の父親にされた、復讐をしているのか?
そう思う反面、思いたくない気持ちもある。
多分、思いたくない方が遥かに大きい。
玲は自分を愛しているのだと、思いたかった。
玩具にされても、本当は愛しているのだと思いたかったのかもしれない。
「私が信じてあげなかったから…。」
「ごめんなさい。全部、俺のせいだ…、俺がきっと物欲しそうな目で見てたんだよ。」
今頃になって責任を被ったりして、いい子振る自分が、醜いと思う。
玲を庇ったところで、玲の過去は消えないのに。
先程の現場も、両親の記憶からは消えないのに。
「知紀…。でもあの子、お兄さんが出来るって喜んでたのよ。本当に、素直に。」
素直。
最初に逢った時の玲はその表現そのものだった。
どっちだ。
本当の玲の気持ちはどっちだ。
でももうこんなのは御免だ。
「俺、玲にはもう会わないから。家も、出る。本当に、ごめんなさい…。」
逃れられる?
玲から、解放される?
この時を、待っていたんじゃないか。
なのに…。
なのにどうして、こんなに悲しいんだ。
俺は、涙が止まらなかった。
「ご家族の協力が大切です。」
医者に言われ、とりあえず俺は、まだ家にいた。
但し、両親が玲に会いに行く時、ついて行くことはなかった。
あれから一度も玲に会っていない。
玲は目覚めた時、どうして自分がここにいるのか、何をしたのかさえ憶えていなかった。
いつもの素直で、優しい、玲だったそうだ。
自分とセックスしていたことも憶えていないだろう。
嘘でも、『好きだ』と言ったことも。
嘘だったのか?
全部、夢だった?
玲が自分を触った手も。
囁いた、残虐な言葉も。
あんなに二人でセックスに溺れた日々も。
「い…やだ…。」
誰もいない家の、玲の部屋。
玲のいない部屋。
きっと玲の記憶の中に、自分はいない。
「玲…。」
ベッドに横たわると、微かに玲の香りが残っている。
いつも使っているシャンプーや石鹸や整髪剤の香りだ。
「…‥れ…い…‥っ。」
そして自分の身体にも。
玲が触れて、玲と繋がって、玲が体内に放って。
こんなに玲は、この身体に残しているのに。
玲そのものだけがいない。
「あ…っ、んっ、玲…っ。」
手は股間へと伸び、勃ち上がったペニスを擦る。
すぐに先端から透明な液が溢れ、濡れた音を鳴らす。
「ん…っあ!」
玲にされていたように自分の手で愛撫を施すと、身体が疼いて止まらなくなった。
目を閉じると、本当に玲に触れられているみたいだ。
「あっ、あ、玲…っ、玲…っ!」
夢中で自慰行為に没頭すると、暫く触られていなかったペニスはあっという間に射精してしまった。
それだけでは、治まらない。
「玲…挿れて…‥。玲のが欲し…っ、…んっ、あぁっ!」
いつものように、後孔を、玲に弄られて、玲にめちゃくちゃにされたい。
脚を思い切り開いてその孔へ指を挿れて自慰を続ける。
見せたい。
恥ずかしい格好の自分の姿を。
恥ずかしい身体の部分も全部。
忘れるなんて、させない。
俺は、両親が帰って来るまで長い間自分を慰めた。
玲の名前を、熱に浮かされながら、何度も何度も呼んで。
「玲、久し振り。」
「あ、義兄さん!」
玲と久し振りに再会した。
病院の庭で、玲が笑っている。
心から、嬉しそうに。
『義兄さんはどうしていつも来てくれないの?』
玲は両親に向かって寂しそうに呟いたらしい。
『義兄さんに、会いたいなぁ。』
もう俺とのことは完全に忘れていると判断した両親が、今度は連れて来ると約束した。
玲はその時も嬉しそうに笑ったという。
両親はきっと、俺とのことを忘れてくれてよかったと思っているんだろう。
「元気そうだな…。」
まだ腕に深い傷は残っていたけど、他にはいたって健康そうに見えた。
きっとその傷も、薄れていくんだろう。
俺のことを、忘れたみたいに。
「うん。ねぇ義兄さん、なんで僕はこんなところにいるんだろうね。」
本当だ。
今は許可が出て外に出ているけれど、普段は鉄格子に囲われたこんな病院にいるなんて。
玲は、どこも悪くなんかないのに可哀想だ。
可哀想…?
俺は、可哀想だと思っているのか。
それとももっと別の感情が存在するのか。
出してやりたい。
出してやったら俺はどうする…?
「俺、病院に言ってみるよ。」
「義兄さん?」
「家族の同意があれば玲は出られるんだろう?」
また、玲が家にいる。
そんな風景を頭の中で描いた。
今度こそ平和な家族になるのか。
でも…‥それでいいのか?
「だって玲はどこも悪くないんだ、頼んでやるよ。」
「ありがとう…、義兄さん!」
玲は笑顔で抱き付いてきた。
庭に咲いている花のいい香りがした。
それは今までの玲の香りとは違う。
まったく別の人間になってしまったみたいで、悲しくなった。
「僕、義兄さんと仲良くやっていけるよね。」
仲良く。
自分が玲に初めて言ったのと同じだ。
「前のこと思い出せないけど、これからよろしくね。」
なんだって…?
思い出せない?
やっぱり忘れている?
俺は、
忘れられた?
冗談じゃない。
俺だけお前に囚われて、お前は全部忘れただと?
「玲、病院に頼む代わりにして欲しいことがあるんだけど。」
「うん、何?義兄さん。」
そんなこと、させない。
絶対にさせない。
忘れるなんて、許さない。
「俺とセックスするんだよ。」
庭の人影のない茂みに、玲を連れて行く。
セックスしたら、この身体に触れたら思い出すかもしれない。
思い出してもらわないと困る。
「何言ってるの…?義兄さん…。」
「忘れたなら、俺が思い出させてやる。」
この身体で、思い出させてやるよ。
「ん…っ、んん…っ。」
ベンチに座って玲と抱き合いながら、キスをした。
多分初めてのキスだった。
初めてなのに舌を激しく絡ませ、唾液が溢れる。
「玲とキスしたら、俺のココ、もうこんなになっちゃったよ。」
膨らんだ股間に、玲の手を導く。
キスだけで勃起してしまったペニスに、直に触れさせた。
「に、義兄さん…そんなこと…、していいの…?」
「玲にして欲しいんだ。」
動揺する玲なんて初めて見た。
すっかり忘れているんだな。
向き合ったまま、玲の膝の上に乗り、手を取って、ペニスへの愛撫を促す。
「あ…‥はやく…っ、挿れ‥っ、玲の…っ。」
先走りで濡れたペニスを一層激しく二つの手で擦る。
腰を突き出して、後孔にも指を挿れさせた。
「義兄さん…凄い、義兄さんのお尻の中、ぐちゃぐちゃだよ…。」
「玲に挿れられる…のっ、待ってた…から‥。」
玲の片方の手が挿れられた後孔はヒクついて待っている。
猛った玲のペニスが挿入されるのを、今か今かと。
「もっ、ダメ…っ、挿れてっ、挿れて下さいっ!玲っ、お願い挿れて…っ!」
「知らなかった。義兄さん、そんなこと言うんだ。」
我慢が出来ず、俺は後ろ向きになって、腰を下ろした。
久々のあの感覚が蘇る。
玲の大きなペニスは俺の後孔にすっかり収まった。
「れ…いっ、んっ、動いて…っ、もっと揺らして…っ!玲っ、もっと…っ!」
「凄い、義兄さんの中、気持ちいいよ…。」
玲が下から激しく揺さ振る。
もっと俺をおかしくさせてくれ。
前みたいに、セックスに狂わせてくれ。
「玲っ!ああっ、あぁんっ、もっとっ!」
外だということも忘れて、俺は喘ぎ続けた。
「あ──っ、イっ、イくっ、出る…っ!」
「僕もイきそう…っ。」
玲と一緒にいきたい。
どこまでも。
何度でも。
「玲っ、出してっ!中に…っ、中に出してっ、玲のちょうだいっ、ああぁ───…っ!!」
「義兄さん───っ!」
時間が許す限り、二人で久々のセックスに溺れた。
玲…思い出してくれ…‥。
俺のことだけでいい、思い出してくれ…。
いつから、玲なしでは駄目になってしまったんだろう。
玲がいなければ、生きていけない。
玲にいて欲しい。
そう、ずっとだ。
「玲…、傍に、いてくれ。愛してるんだ、本当だよ。愛してる。」
偽りではないその言葉を初めて口にした。
愛してるんだ。
俺は玲を、愛している。
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義兄さん、ごめんね。
記憶なんかもう戻っていたのに。
義兄さんを試すような真似してごめんね。
でもどうしても知りたかったんだ。
義兄さんの心を。
僕を愛してるっていうことを、確かめたかったんだ。
だって僕は、義兄さんなしでは駄目だから。
ごめんね────。
ごめんね─────。
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