「トラワレ」-2:「玩」
「い…たぁ…っ、痛い…っ。」
「こういう時はなんて言えばいいか、もうわかるよね?義兄さん。」
後孔をぐりぐりと捻るように弄られ、涙が零れる。
毎日のように繰り返される、屈辱的な行為。
なのにこの身体は慣らされて、快感さえ求めてしまう。
「…っ、指…っ、抜いて…っ。」
恥ずかしい。
こんなこと。
悔しい、こんなことをされて。
こんなことをされて感じている、この汚れた身体が。
「抜くだけ?」
「抜いて、玲の…っ、挿れて…っ!」
男同士で、血が繋がっていないとは言え、兄弟でこんなこと…。
決して許されることではない。
「義兄さんは、物分かりがいいね。」
「あれ?君、秋山の義弟さんでしょ?」
「はい、義兄を呼んでもらえますか?ちょっと用があるんです。」
3年の教室の廊下で、玲が待っていた。
玲の穏やかな態度に騙された同級生は、俺をすぐに呼びに来た。
こういう時は、何かされる。
他人は騙せても、自分だけにはわかるのだ。
玲の瞳の奥の、冷たくて暗くて鋭い光。
「どうしたの、義兄さん、そんなにびくびくして。」
玲は同様に自分にも穏やかに微笑う。
その微笑が、何より恐い。
「用って…、なんだ?」
「ここじゃなんだから、来てくれる?」
やっぱりそうだ…。
行きたくない。
行きたくないのに、逆らったら何をされるかわからない。
まだあの時の撮られたデータも何もかもが玲の手にあるのだ。
だから、ついて行くしかなかった。
「な…にする…。」
「何って?聞かなくてもわかるよね。」
視聴覚室に連れ込まれ、いきなり制服のズボンを下ろされる。
下着まで一緒に膝まで下ろされて、ペニスをギュッと強く握られる。
「‥あっ、や…っだ…っ。」
「嫌?ふふ、嘘吐いちゃ駄目だよ義兄さん、もう勃ってるのに?」
この数秒間で既に勃起してしまったペニスを、玲の手が器用に扱く。
長細い指が、先端をそろりとなぞる。
「こんな…っ、学校で…っ、いや…だ…っ。」
羞恥心が込み上げ、手で顔を隠す。
いつ、誰が来るかもわからないのに。
もし誰かにこんなところを見られたら…。
もしかして、玲はそれをも狙っているのか。
「おねが…っ、帰ったら、言う通りにするか…あ…っ!」
「もうココからエッチな液出して何言ってるの?大丈夫、誰も気付かないよ。」
なぞられた先端の孔から先走りが滲み出し、玲の手が濡れている。
暗い視聴覚室で、そこがその液体によって光っている。
「義兄さんが、声、堪えられたらだけど。」
耳元で、玲が妖しく笑いながら囁く。
吐息を吹きかけられ、ぞくりと背筋が凍る。
玲の指が口に突っ込まれた後、跪いてペニスを口に含まれた。
「…んぐ…‥っ、ふぁ…っ。」
その感覚に震えながら、屈んだ姿勢になり、玲の指は口内で不気味に動く。
苦しくて、涙が滲んで、口の端から唾液が零れる。
なのに身体は、快感でどうにかなりそうだ。
「あ…んっ、ふ…っ。」
「義兄さん、そんなに嬉しそうに喘がれたら、余計やめれないよ?」
「んん…っ!ぅ…うんっ…。」
「我慢しなくていいよ。出してよ。義兄さんのは美味しくて好きなんだ。」
淫猥な音をたてて、徹底的にペニスをしゃぶられる。
亀頭を玲の口によって強く刺激されて、快感が頂点に達しそうになる。
ニヤリと笑った玲がここぞとばかりに刺激を繰り返し、もうダメだと観念した。
「や…ぁ、あ……‥!」
「凄いね、こんなに出ちゃったんだ。」
全身を震わせて、勢いよく玲の口内に射精した。
口から玲の指はズルリと引き抜かれ、その手で口元を拭っている。
「こっちはどうなってるかな。」
「やめ…‥っ!」
自分を後ろに向かせて、どろどろに濡れた手が、後孔に触れる。
唇を噛みながら、壁に手をついて、爪を立てて抵抗する。
こんなところで、セックスさせられるなんて…。
続きの行為を予測して、ぎゅっと目を閉じた。
「ここではしないよ、安心しなよ、義兄さん。」
玲が手を取って、傷付いた指先と口の端を優しく舐める。
壁には僅かながら、自分が引っ掻いた跡が見える。
「ただね、他の人間とそういうことしないようにしないと。」
予測が外れて安心したのも束の間、玲はポケットから何かを出して、俺の後孔にそれを近付けた。
近付いてくる何かに、それをしようとする玲に、恐怖でまた涙が滲む。
「蓋をしてあげるね。」
「…‥っ!…った‥!」
「駄目だよ、義兄さんは狙われやすいから。ちゃんとお尻に蓋しておこうよ。」
「な…んで…っ、こんな…っ。」
指でも、玲のものでもない何か冷たく濡れた異物が、俺の後孔に挿れられた。
耳を甘噛みしながら玲は言葉の通り、その何かで蓋をした。
歯を食い縛って挿入の痛みに耐える。
本当に理由がわからない。
「朝も、さっきも、他の男と仲良くしてたよね?」
それで…?
それだけで…?
ただ、普通に挨拶して、他愛もない世間話をしただけで…‥?
何?
玲にとって、俺は何?
ぐるぐると、答えの出ないその疑問が、頭の中を駆け巡る。
「義兄さんは授業中、耐えられるかな。」
玲はそう言い放つと、ドアを閉めて行ってしまった。
情けない。
自分がいい様に玲に扱われて、こんなことをされて。
なのに、どうして逃げることが出来ないのか。
まだ囚われたまま…。
悔し涙を流しながら、制服を整えて、授業に戻ろうと視聴覚室を後にした。
変だ。
何かが、変だ。
異物が挿れられた、その部分が熱く、疼く。
痺れるような、おかしな感覚。
もっと、弄られて、穿たれて、めちゃくちゃにいじめて欲しい。
こんなことを思うなんて、ついに自分も狂ってしまったのか…?
駄目だ、我慢出来ない…。
熱い。
後孔から、全身へ広がるように。
「ふふっ、やっぱり耐えられなかったね、義兄さん。」
学校を早退してしまった。
しかも、自宅に着いてすぐに、誰もいないのをいいことに、自慰行為をしていたところ、玲が現れた。
「玲…なんで…?」
顔を紅潮させて、ペニスを自ら擦っていた手をなんとかして離した。
視界がぼやけて、玲の表情がよく見えない。
「続けてよ。義兄さんがオナニーしてるところ見るの、好きなんだ。」
「…いや…っだ…‥、あっ!」
「我慢出来ないよね?義兄さん…。」
「…‥っ、んっ!」
無理矢理その手を玲に掴まれて股間に戻される。
身体は火照り、熱に浮かされたように自分のペニスを慰める。
「あ、あぁ…っ、いや…ぁっ。」
玲に見られているとわかると、余計火が点いてしまったのか、自慰行為はエスカレートしていく。
「ふぅ…んっ、あっ、あぁ…っ。」
「凄い格好だね。お尻の中も丸見えだよ?こんなところ、誰かに見られたらどうするの?」
玲は俺の下半身の至近距離でジッと見て笑いながら囁いた。
脚を大きく開いて、自分で自分のものを弄りまくっている姿なんて、誰にも見せられるわけがない。
玲なら、いいっていうのか…?
また頭が混乱しながらも、自慰行為は一向に止まらない。
「…れ‥いにだけだ…っ、こんなとこ…っ、見せ…、…っあ!」
「当たり前だよ。義兄さん、僕以外に見せたら許さないよ?」
玲の強い言葉と視線が突き刺さる。
手の動きが速度を上げて、激しくなる。
「あっ、やっ、も…、だめ…ぇっ!」
「やっぱり義兄さん早いよ。僕に見られて興奮しちゃったんだ?さっきより凄いよ。」
違う。
そうじゃなくて。
そうじゃないんだ、玲。
「んんっ、も、イ…っ。」
先走りですっかり濡れたペニスの先端が、射精を今かと待っている。
「あぁ、それとも、コレのせいかな?」
「な…っにそ…‥、っあ、…あぁっ!!」
玲がチューブ状の何かをちらつかせたのを見ると同時に、手の中に白濁液を勢いよく放っていた。
放った、のに。
放ったはずなのに、疼きは、止まらない。
「気持ちいい?気持ちいいはずだよね?義兄さんと使ってみたかったんだ。」
玲がその中身を自分の手に取り、知紀のペニスに塗りたくる。
おかしな匂いが、鼻を掠めて、全身が疼いて、身を捩った。
仕込んでいたんだ、あの時、異物を挿入した時に。
「あ…玲、玲…っ。」
うわごとのように名前を呼ぶ。
「ちゃんと言わなきゃわからないよ?」
熱い。
身体が。
心も…?
「この、お尻に入ってるの…早く抜いて…。」
「抜くだけ?」
「抜いて、玲の…っ、玲のおちんちん…っ、挿れてくださ…っ。」
泣きながら懇願すると、玲はすぐにその栓を抜いて、自分のペニスを取り出して、後孔から挿入した。
「ゃ…‥っあ!あ、あぁ…‥っ!!」
「凄い…義兄さん、凄く熱いよ、義兄さんの中…っ。」
今までにないぐらいの快感に夢中で喘いで腰を振る。
そんな自分に玲も合わせて、激しい律動を与えた。
「んっ、あっ!あ、あ…っ!」
挿れられて、揺さ振られて、なのに、疼きは止まない。
止まる気配もないぐらいに、そこが熱くて、玲を求めている。
「あ…っ、玲…っ、…‥っと…。」
「何?聞こえないよ?」
耳の中に舌を入れられ、羞恥心も理性も何もかもがぶっ飛んだ。
玲が欲しい、もっと奥深くまで、この身体を支配して欲しい。
「もっと…っ、もっと…っ!!」
「あ…、あははははっ!もっと、なんだ?義兄さん、淫乱だね。義兄さんは可愛いね…ふふふっ。」
身体が痙攣したかのように痺れて、震えが止まらない。
耳許で声高に嘲笑うような玲の声がした。
「ふふっ、義兄さんは、調教しがいがあって面白いよ…。」
「…‥あっ!イ…っ、あ、ああぁ…‥っ!!」
快感で薄れて行く脳内に強く残った言葉。
消そうとしても、絶対に消すことなんかできない残虐な言葉。
「調教」
俺は、玩具だ。
玲にとって都合のいい玩具。
真新しいから、楽しいだけ。
いつかは、飽きる。
捨てられる。
傷付く。
傷付くのは、俺だけだ。
「玲…っ、れ…いっ!玲っ、んっ、玲───!」
どうせそうされるなら、俺の方から離れる。
離れて、玲が苦しめばいいのに。
「玲、今日もして欲しいんだけど…。」
俺は別れを決意しながら、毎晩脚を開く。
お前のことなんか、これっぽっちも愛してもいないよ。
どうせ俺は玩具なんだ、お前だって愛してなんかないんだろう?
「玲…愛してる…‥。」
偽りの愛の言葉を、俺は玲に言い続ける。
そうすることで、俺を愛させて、手酷く別れてやりたかった。
玲が傷付くことで、惨めな自分が報われるような気がしたから。
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