『そんなの断るに決まってんだろ!冗談だろ、からかってたんだよ。』
本当にそう思ったんだ、何かの冗談かからかい半分だって。
なのに…、なのにこの麗華さんの俺に仕掛けてくるラブアタックはなんだ?!
朝の校門で待ち伏せされて、そこで捕まってしまった。
「名取くん、お昼は中庭でどうかしら?」
「あ…ハ、ハイ…でも俺…。」
いつも昼(に限らずだけど)を共にしている遠野の視線が痛い。
しかも何も言わないから尚更罪悪感に苛まれてるみたいだ。
くそー、なんで俺、ハッキリ断れねぇんだ!
「そちらのお友達もどう?ご一緒に。」
「はい、是非。」
やっべぇ、遠野の奴、微妙に笑ってるけど、いや、笑ってるから逆に恐ぇ!!
お友達、なんて本当は違うんだけど。
でもこんなお嬢様に俺はこいつとデキているホモです、なんて言えるわけがない。
「じゃあ、お昼休みにね。」
「は、はぁ…。」
にっこりと笑顔で手を振って去っていく麗華さんを俺は見送りながら、横目で遠野をちらりと見た。
いつも何考えてるかわかんないと思うお前でも、さすがに怒ってるのは俺わかるぞ。
なのになんで何も言わないんだ、遠野…。
「あ…、と、遠野…。」
「なんだ?」
「いや、そのーごめん…。」
「何か謝るようなことしたのか?」
そんな平然と言われて、それ以上何も言えなくなってしまう。
そんな涼しい顔で、何も思ってないみたいに。
「もう授業始まる。」
遠野が目線も合わせずに俺の制服の袖を軽く引っ張って、そんな態度に本当に俺は何も言えなくなって、そのまま教室へと向かった。
「名取くん、これ私が作ったの、食べて。」
「あー麗華様ったらずるーい、私もぉー。」
「あ、ありがとうございます…。」
な、なんなんだこの俺のモテっぷりは!!
こんなん生まれて初めてだぞ。
いいのか、いやよくねぇよな、だって俺は…。
麗華さんとその取り巻きが作ってきたという弁当を口の中に放りながら、向かいに座った遠野を見る。
さっきから何も言わないし、自分で買ってきたパンを無言で食うだけだ。
「どう?美味しい?」
「はい、うまいっす。」
確かに美味い、不味くは絶対ない、けど…。
でも俺、遠野が作ったもんのほうが好きだな…。
それはやっぱり俺が遠野を好きだってことだよな。
玉子焼きを噛んで味わいながら、いつだったか遠野が、休日の昼に作ってくれた同じものを思い出す。
玉子といやぁ、前に目玉焼きで何かけるか喧嘩したこともあったっけ…。
「お友達さんもどう?」
「俺はあるからいいです。」
麗華さんがそう言って弁当のおかずを差し出したけど、遠野はやんわりと断って、黙々とパンを食べているだけだった。
そしてどうなっているのか、その状態が一週間も続いてしまっていた。
相変わらず麗華さんは俺と遠野と昼を共にして、取り巻きも一緒で、
休み時間は時間があると教室まで訪ねて来たり、
遠野と二人になれるのは寮にいる時ぐらいで。
「なぁ、遠野…。」
「なんだ?」
その寮にいる時も遠野とは前ほどラブラブじゃないっつーか、
前も決してラブラブとは言い難いけど、なんだか気まずい。
「そのー、なんだ、あのな…。」
このままでは俺は遠野に捨てられる??
そう危機感を感じた俺は、
一週間目のその日、意を決してベッドにいる遠野に近付いた。
こういう時、仲直りの方法っていったらあれだ、あれしかないだろ!
我ながらなんて方法だとは思うけど…。
「その、し、しませんでしょうか…。」
そんな誘うなんてこと恥ずかしくて、いつもに増して変な言葉遣いで俺はつまりその、エッチを誘ってみた。
「何をだ?」
「え…と、だからエッチみたいな…。」
アホか俺は、エッチみたいな、ってなんだよ。
何も言わずに強引に、とかやてみろよ。
そんぐらいもできねぇでどうすんだよ。
まぁでもこのままいけばそのうち遠野のほうが誘ってくるだろうし、俺が誘ったらきっと笑って……。
「しない、もう寝る時間だから。」
────え………。
「じゃあ、おやすみ、名取。」
────ちょっと待て、俺…。
俺、俺…今、遠野にエッチ断られた───…??
嘘だろ、誰か嘘だって言ってくれ。
でも心は否定したくても、実際の遠野は布団を被って本当に寝てしまった。
ヤバいなんてもんじゃない、俺ら今別れの危機か…??
そして俺は、ショックで泣きたくなってしまった。
実はちょっとだけ涙も出て来てたり…。
そんなところは遠野に見せられるわけがない。
超カッコ悪いじゃんか、俺…。
「遠野…。」
寝息もたてずに眠っている遠野に触れようとした手を引っ込めた。
俺は、俺たちはこんなことで終わってしまうんだろうか…?
その夜は暫く眠ることができなかったのは言うまでもない。
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