次の日、俺は、聖くんの住むマンションの前にいた。
昨日携帯の番号とアドレスと住所を無理矢理聞いたのだ。
まずはあっくんアーンド聖くんラブラブ大作戦!!(略してラブラブ大作戦)の第一歩ってことろかな。
「それにしてもこのマンション…。」
すっごいすっごい豪華で立派なんですけど!!
どうしようすっごいお金持ちってやつ?!
だってエッチも、いや、キスもしたことないって言ってたもんな…。
どこかの大富豪の坊ちゃんだったりして。
そしたら俺、将来は社長夫人とかそういうやつ?!(よくはわかってない)
でも、なんで聖くんってばコインランドリーなんかに…。
っていうか俺目当てって感じ?!
こりゃラブラブになる日(=初エッチ)も近いぞ!
早く帰って来ないかなぁ〜…聖く〜ん…。
俺ってば今無職だから常に暇なんだよね…。
「篤紘さん…?」
「…うぅん、聖くんってばぁ、くすぐった…、やめないでぇ…。」
「あ、篤紘さんっ?!」
「…ん……?わわわ生聖くんっ!」
お、俺、いつの間にかこんなところで寝て…。
あーあ、よだれまで垂らしちゃってる。
聖くんとエッチする夢見ちゃったんだもんなぁ。
早くヤってくれないかな…。
「どうしたんですか?ブツブツ言って…。」
「や!なんでもないよん♪こっちの話っ。」
「あの、どうしたんですか?こんなところで寝たら風邪ひきますよ?」
「せ、聖くん…、俺のこと心配してくれるんだね…。」
こんな男、今までいなかったぞ!
俺が素っ裸で一晩中待ってても約束守らない男とか。
喧嘩して中入れてくれって言っても、ドア開けない男とか。
心配されたのなんか、初めてだよ…。
「それは心配ですよ、風邪は甘くみちゃいけないですし。」
「聖くーんっ!」
「あ、篤紘さん…っ?!」
「えへへ、あっくん幸せ〜。聖くん大好き!」
こうやって俺が抱き付いて真っ赤になってるところとかね。
キスしようとすると顔を逸らして拒否するところもね。(嫌がってるわけじゃないもん!)
純情少年じゃーん!
俺より背も体格も大きいのに、可愛いんだから、もうっ。
聖くんが硬直する中、俺はぎゅうっとその身体を抱き締める。
「篤紘さん、どこか旅行に行くんじゃないんですか?」
「え?なんで?」
「いや、その荷物…、海外でも行くのかなぁって。」
「違うよ、引っ越し。」
「近くなんですか?あっもしかして俺と同じマンションですか?」
「ううん、聖くんち。」
「…え?」
「聖くんと一緒に住もうと思って。アパート引き払ってきちゃった。」
そうです、俺の大作戦の第一歩。
それは、同棲────。
好き合った男女…いや男男が、共に同じ時を同じ空間で過ごす甘い生活…。
まずはこれだろ!!
そしたらいくら聖くんだってエッチしたくなるはず!!
俺って頭いい〜♪
「ダ、ダメですよっ!けけけ、婚前の男女がどどど、同棲だなんて…!!」
「大丈夫だよー男女じゃないし!」
「お、男でもダメですっ!!」
「えーでもどうせ結婚はできないよー?」
本っっ当に聖くんってば純情っていうか古いていうかカタブツっていうか…。
どこかのお坊ちゃまっての、案外本当なのかなぁ…。
俺、聖くんについていけるかなぁ…。
ううん!でもあっくん頑張る!!
こうなったら……必殺・奥の手!!
「そっかぁ…、じゃあ仕方ないね…。俺もう家ないからさ〜、どっかで野宿して、食べるものないから身体売って、
野宿してて知らない男にレイプとかされて、その知らない男の子供身籠って…。」
「お、男は多分妊娠はしないと思いますけど…。」
「そうじゃなくて!いいの?俺が他の男にレイプされて泣いても!!」
「……!!そ、それは……い、嫌です…っ!!篤紘さんっ、早く中へ!!」
奥の手、大成功!!
半分脅しって感じだけど…、でも仕方ないよ、聖くんにはこれぐらいしないと。
意気揚々と、聖くんに手を引かれてそのマンションへ入った。
「どっひゃあぁ〜、中もすっごい!!」
「?何がです??」
聖くんってば、こんな広い部屋に一人で住んでるんだ…。
これは正真正銘、お坊ちゃまだよね。
キッチンとダイニングだけで俺の住んでたアパート1部屋分はある。
システムキッチンに、オール電化、ジェットバスに、ペット用の玄関まで!!
数え切れない程の豪華な設備に、一瞬言葉を失ってしまう。
「篤紘さん、学校はもう終わってたんですね。」
「へ?俺学生じゃないよ?フリーター…っていうかプーだけど…。」
「えっ!!そ、そうだったんですか…。俺、てっきり高校生かと…。」
「ええぇっ!俺もう21なんだけど!!つか聖くんは?!俺より上だよね?!」
「えっ…、俺、今年大学に入ったばっかりで…。」
「ううう嘘おぉ───っ!!」
がーん、がーん、がーん…。
今年入ったってことは普通に行って19…(バカでもこういう計算はできるのだ)、年下だったんだ…。
どどどどうしよう…、俺…、どうしよう!!
俺って、年下はダメなんだよぅ!!
「あの…、篤紘さん…俺何か悪いこと…。」
「いやなんでもな……うああっ聖くんっ!!」
その瞳は───…、その瞳は犯罪だあぁっ!!
捨て犬系モロストライクな聖くんの瞳が、俺だけを見ている。
悪いことなんて何もしてないのに。
そんな瞳で見つめられたら俺────…。
が、我慢なんかできませんっ!!
「聖くんっ、お腹減ったでしょ?お風呂にするご飯だよね?!」
「あ、篤紘さ…、話が滅茶苦茶で…、篤紘さ…っ!」
「それとも…オ・レ?早く食べてえぇ───っ!!」
「お、落ち着いて下さい篤紘さんっ!」
ここまでしてもダメって…。
俺…もしかして迷惑ってこと…?
俺のこの思いも、この行動も、聖くんには迷惑で…。
そりゃあそうだよね…いきなり付き合ってくれって言ってエッチしてくれなんて。
俺、本当はわかってるんだ、こういう性格、嫌われるって。
でも、聖くんには、嫌われたくなかったな…。
「…っう、うっうっ…、ひっく…。」
「あ、篤紘さんっ、どうしたんですかっ?!」
「ごめん、俺、いつもこうなんだ…、男にうざがられてふられて。わかってるんだけど…。」
「篤紘さん…。」
急に涙がぼろぼろと零れた。
こういうところも、すぐ泣けばいいと思ってるとか言われるんだ。
でも悲しいんだ、誰とも恋してないのが。
四六時中好き好き言っていちゃいちゃしてたいんだ。
誰かが傍にいないとダメなんだ、俺…。
「…聖くん……っ??」
その時、俺の身体が温かいものに包み込まれた。
洗い立てみたいな聖くんのシャツの匂い…。
高級そうなシャンプーの匂いもする。
抱き締められたその胸は、思ったよりも広くて、ドキドキした。
「お、俺、頑張ります…!」
「えっ、あの…。」
「本当はその、ちょっと嬉しかったんです…。篤紘さんが来てくれて。」
「そ、そうなの…?」
「はい、あの、好きな人ですから。」
「せ、聖くん…っ!」
あぁ、俺、すっごい幸せ〜…。
もうこのままエッチしなくてもこうしてるだけで…よくはないけど…。(そこはやっぱり譲れない!!)
聖くんの今の精一杯はこうすることなんだろう。
その思いが、ちゃんと伝わってくるんだ。
「俺、頑張ります…!あ、あ、あ…。」
「…あ?あ、がどうかしたの?」
一度俺の身体を離した聖くんの手がぷるぷると震えている。
顔が真っ赤で、今にも燃えてしまうんじゃないかというぐらいだった。
「あ、あ、篤紘さんを、幸せにしますっ!!」
ぶっちゅ────っ!!
なんと俺、この聖くんからの初キスに、気絶してしまいました。
俺って案外純情だったんだなぁ…。
好きな人にキスされて気絶なんて。
これでエッチしたらどうなっちゃうんだろ…。
…ってことは、頑張るのは(別の意味だけど)、俺も同じ?!
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