「ベジタブル・ラブバトル」-4






「最悪……。」
「気にすんな、俺もお前で抜いてるから。」
「またそうやって嘘…。」
「嘘じゃねぇって!」

そうやって期待させんなよ。
どうせ俺のこと好きでもないクセに。
なんて、俺は恋に悩む乙女かっつぅの。
自分で言ってて気色悪いぐらいだ。
ぐったりとベッドに倒れたまま、大樹に背中を向けた。


「彩、いいかよく聞け。」
「な、何すんだよっ。」

俺の肩が掴まれて、大樹と目が合った。
そんな真剣な目で見つめんなよ。
俺…お前のこと信じたくなるだろ。


「俺の初一人エッチのオカズはお前だ!初だけじゃねぇ、ずっとお前だ!お前でしかヌけねぇんだ!!」
「…このバカっ!変態っ!お前そんな目で俺見てたのかよっ。」
「そうだ、お前が好きだっつたろ、彩。」
「ひ、大樹…っ。」

瞬時に大樹の唇が俺の唇に重なって、俺はそれ以上何も言えなくなった。
息ができないぐらい激しく口内を舌が這って、唾液が絡まって、胸がドキドキし過ぎて苦しい。
こんなキス…すんなよ…。


「なぁ、お前は?もうわかってんだろ?自分の気持ち。」
「お、俺は…。」

ようやくそのキスから解放されて、息を切らせて俺は大樹を見つめた。
俺も…俺も好きなんだ…大樹のこと…!!
でも…でも俺は…!!


「彩?なんで黙る?」
「嫌だ…、言えない…。」
「なんでだよっ?!」
「だってお前んちと俺んち、商売敵だろっ?!」

そうだよ、ひいじいちゃんのあの言葉を俺は裏切れない。
俺はお前に負けるわけにはいかないんだ!


「うちはスーパーだってお前言ったろ?」
「だけど!」
「なんだよ、せっかく八百屋やめたのに。」
「…は?なんだそれ。」
「だから、お前と争いたくなかったから、父ちゃんうまいこと騙して…。」
「大樹…。」

お前…そこまでして。 本当にバカだな。
でも俺もそんなお前の気持ちに気付かなかったから同じ、いやそれ以上に大バカ者だ。
もう言ってしまえ、そう思った時だった。


「なぁ、なんでだ?」
「何が。」
「もう俺んとこ八百屋じゃねぇなら敵扱いする必要なくねぇ?お前の父ちゃんもじいちゃんもうちの野菜なんか野菜と思ってないんだろ?」
「あぁ…、そうだな…。」

せっかく人がこれから告白してやろうって時に、大樹が考え込んでしまった。
でも確かにおかしいよな…。
なんであれだけバカにしてて、敵扱いすんだ?
客層とかも全然違うし、争う意味ってあんのか??
なんで負けるな、っていつもいうんだ…??


「お前んちの母ちゃんとうちの母ちゃんって、旅行行くって出てったきり帰って来ないんだよな?」
「あぁそれはじいちゃんが八百屋嫌になったんだ、って…。」

俺んちも大樹んちも母親がいない。
正確には、俺らが小さい頃、旅行行くって出て行って、後から八百屋の嫁が嫌んなったってじいちゃんに電話がかかってきた。
それ以来帰ってきていないって聞いた。
俺はそれは仕方ないと思ったけど。
朝は早いし、冬は外で寒いし、じいちゃんにコキ使われただろうし。


「ちょっと俺、父ちゃんに聞いてみる。」
「聞いてどうすんだよ。」
「だって絶対反対されんだろ?」
「そうだろうな…、それでなくても男同士なんだし。」

大樹がまた真剣になってる。
こいつのこういう顔、さっきから見る度に俺、変だ。
カッコいいとか思ってたりして、俺…見惚れてんのかよ。
早速重症じゃねーかよ…。


「よし、じゃあハッキリしたら言えよ?」
「言えって…、何を。」
「お前の気持ちだって。」
「バッ…。」

言うつもりだったのにこんな風に言え、なんて命じられると言いたくなくなるのは、やっぱり敵意識が残ってるせいだろうか。
でも俺もできれば…、いや、ちゃんと言いたい。


「そんで反対されたら駆け落ちでもして八百屋やるか!」
「…バッカじゃねぇの!」

どっからそういう発想が出てくるんだよ。
そんなプロポーズみたいなこと平気なツラして言いやがって。
お前が軽く言ったつもりでもこっちはこんなドキドキしてんだよ。
俺のこと好きならそんぐらいわかれバカ野郎。


「んじゃな、後で電話するからよ。」
「…バカじゃん…。」

向かいに住んでて電話かよ。
しかもいつの間に俺の携帯番号調べたんだ。
携帯を片手に機嫌よく部屋を出ていく大樹の背中を見送った。

もう俺、負けてもいいかも…。
俺は熱いままの自分の身体を自分で抱き締めた。








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