「ベジタブル・ラブバトル」-3








『お前なんか好きでも好きって言わないからな!』


とんでもないことを言ってしまった気がする。
これじゃあ好きだけど、って前提みたいじゃないか。
そんなことあるわけないとか思うのに、じゃあなんでこんなに俺はこのことで悩んでるんだ。


「いつもお綺麗ですね、池田さん。」
「あらぁ〜、やっだぁ大樹くんたらうまいんだからぁ。」
「本当のことじゃないですか。」
「やだもう〜、おばさん本気にするじゃない。」

なんなんだあいつはっ!!
お前は商店街の向こうにあるホストクラブのホストか!!
俺にはあんなエラそうな態度とるくせに、近所の主婦にはいい顔しやがって!!
俺のこと…、好きって言ったクセに…。
次の日の日曜の朝から、俺はずっとモヤモヤしていた。
店番のじいちゃんに品出しを言われても全然頭に入らないぐらい。


「彩、そこのキャベツとキュウリ取ってくれんか。」
「あーうん…、……───っ!!」
「ん?どうしたんだ。」
「…おっ、俺ちょっと休憩っ、腹減ったから!!」

じいちゃんが変な顔をしながら返事するのはほとんど聞かないで、店の奥から家の中へ上がり込んで急いで自分の部屋を目指す。


『お前のここは店のキュウリとかより美味そうだな。』

バ、バカだ俺っ!昨日のこと思い出して野菜に欲情するなんて!!
俺は八百屋の息子失格だぁ───っ!!
あぁ、許してくれ、野菜の神様…!!頼む…!!







何もかも全部大樹が悪い。
俺はずっとお前が大嫌いだったのに。
お前が突然あんなこと言うから。


『好きだ。』『彩が好きだつったの!』

そう言ったクセに…。
今日になったらすっかり忘れてやがる。
俺にそんなに勝ちたいのかよ…。
くっそー、これじゃあ俺がバカみたいじゃないか。
あんなこと一方的にされて、あんななって…。


『嘘じゃねぇよ、証拠見せてやる。』 『いいから、見てろよ。』

そう言って大樹の口に含まれた場所が急に熱くなる。
あいつの舌の感覚とか、濡れた音とか。
ずっとあいつのことは知ってるけど、そんなことするところなんか想像したこともなかった。
当たり前だけど。


「……っ。」

俺は自分の部屋に入ってドアを閉めた途端、自然にそこに手を伸ばしていた。
悔しい、なんで俺こんなことまで…。
そう思うと瞼の奥がじわりと熱くなった。
本当にこんなことまでしてる俺ってバカそのものだ。
あいつが見たらさぞかし笑うんだろうな。
笑いたきゃ笑えよもう…。


「…ん…っ。」

形が変わってしまったそこを自ら手で扱いて快感を与える。
昨日の大樹の台詞が何度も脳内で駆け巡って離れない。


「ふーん、彩ってそういうふうにやるんだな。」

そう、そんな風に俺のこと舐めるように見て。
え…、見て??


「な、な、な、おま…っ、なん…っ!!」

み、み、見られた───…!!
俺、部屋に鍵…いや、うちに店のシャッター以外鍵なんかなかったんだ!
慌てて自分ちの構造まで忘れてしまう。


「彩がさ、店先で野菜見つめながら真っ赤んなってるから。」
「……っ!!」
「ちょっと心配なってな。お前んちのじいちゃん客の相手してたし。」
「な…っ!」

じ、じいちゃんのバカ───!!
あれほどよそ見すんなって言ってるのに、わしはちゃんと見てる、なんて嘘ぶっこきやがって。
関係ないじいちゃんに責任転嫁してしまう。


「で、心配した通りだったわけ。」
「バカ言ってんな!」
「そうか?バカか?」
「そうだっ、お前のせいで俺は…。」

もう嫌だ、こんなの。
昨日までこんな意識してなかったのに、それどころか大嫌いだったのに、
なんで俺はここまで振り回されなきゃいけないんだ。


「泣くなよ。」
「誰が泣くか!よく見てみろよ俺の目!どこに涙出てんだ!」
「あぁ悪ぃ、それは俺に惚れてる情熱的な目だな。」
「はぁっ??お前勘違いもいい加減に…、さ、触んな…っ。」

俺はすっかり喧嘩に夢中になってそこのことを忘れていた。
我ながら、本当にバカだと思う。


「気持ち悪ぃから触んな…っ、…あっ!」
「嘘つけ、気持ち悪くてそんな声出るか。」
「いいから放せ…っ、んんっ。」
「へぇ、じゃあ彩は俺に見せてくれんのか?一人ですんの。」

大樹はああ言えばこう言う状態で、
俺は何も言えなくなって、その行為に身を任せた。
大樹の手が俺のそれを包んで、濡れた音をたてながら扱く。
悔しいのは、またこんなことされて気持ちよくなってること。
俺はやっぱり、こいつが好きなのかもしれない。
いや、多分…好きなんだ…。


「ぅん…っ、ん…、もう…っ。」

熱に浮かされながら、大樹の服の袖をぎゅっと掴んだ。
昔、遊ぼうとして、俺よりデカかった大樹に置いていかれないようにその服の袖を掴んでたみたいに。
そうだ、俺はこの服の袖を、大樹自身を本当はずっと掴んでたかったんだ。


「や…っ、んん────…!!」

その大樹の手によって、俺は昨日と同じくあっさりイってしまった。
好きじゃなかったら、こんなになるもんか。







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