「薔薇色☆お姫様」-8
あぁ…不覚だ。
俺が騙されるなんて。
俺、もともと人間嫌いで、他人を信用なんかしてなかったのに。
いつの間に…こんなに…‥。
「もう諦めなよ。」
両手を紐で縛られて自由に身動きが出来ずにいる俺に、ロザは言う。
「ロシュが一人でなんか来れるわけないよ。無理無理。」
「ロシュは絶対来る。」
楽しそうにロザは笑う。
このガキ…綺麗な顔して中身は悪魔だな。
あいつが俺を見捨てるわけがない。
あいつは世間知らずで、一人じゃ何も出来ないバカだけど、俺のことをあんなに思ってくれるのは、あいつだけだ。
それに俺だってそんなロシュのことが…‥。
「すごい自信だけどさぁ、その前にリゼが汚されちゃったらどうする?」
「え…‥、っ!近づくな!!」
ロザが俺の耳元で囁く。
嫌だ、気持ち悪い!
近づくな、触るな!!
「ね、エッチしようよ。」
「やめ…‥!」
したくねぇよ!
誰がてめーなんかとするか!
俺に触っていいのはロシュだけだ。
俺が好きなのはロシュだけだ。
ロシュがいないのに今はっきり言えるなんて、俺の方が相当のバカだ。
「大丈夫だよ、いつもロシュとしてるみたいでいいから。」
「やめ…っ、───!!」
俺の服の釦が勢いよく飛んで、引き裂かれる。
ダメだヤられる!!
ちくしょ……‥!!
バァン!!
「リゼ!」
扉が壊れそうな程大きな音をたてて、開いた。
「え?あ…ロシュ…?」
ロシュが息を切らして飛び込んで来た。
「ロザ、リゼ返して。」
「やだよ。」
「我儘はダメなの!返して!リゼは僕のヒメなんだから!」
ロシュに我儘、とか言われても全然説得力ねぇけどな…。
ロザは我儘もだけど、またロシュとは違う…。
「ふーん。じゃあロシュも捕まってもらおうかな。」
「な、な、何っ!僕王子だよ?この国の次期国王だよ?」
ロザが机の上のボタンを押すと、まわりの扉が開いて、男達が入ってくる。
男達は慌てるロシュを取り囲む。
「王子が一人で街を歩いて来る筈はない。そんな格好もしない。貴様は偽物だ。」
「違うよ!僕本物だってば!わぁっ。」
「あはは。偽物王子捕まる、ってね。」
むっか…‥。
俺は、取り押さえられているロシュを見ているしか出来ないのか。
くそっ…。
手首を動かして解けない紐を解こうとあがく。
「わっ!痛…っ。」
え─────。
ロシュの頬に、薄らと鮮血が滲んだ。
ブチッ…。
「ロシュに触んなよ!!」
「え?あ、リゼ、どうしちゃったんだよ、急に…。わっ紐が…。」
動揺するロザを鋭く睨み付ける。
「てめぇも触るんじゃねぇ!」
「な…、この僕に触られて嬉しくないって言うの?」
「当たり前だ!ロシュと同じような顔してるけど、中身は全っ然似てねぇんだよ。てめぇみたいな奴に触られて嬉しいわけあるか、大馬鹿野郎!!」
自由になった身体で立ち上がると、ロザの耳元に、思い知れと言わんばかりの大声で言った。
「似てない…。」
「オラてめぇらもどけよっ!」
ロザが顔面蒼白でブツブツと呟いていた。
ロシュのまわりの男達を次々と殴り飛ばして、その腕を掴んだ。
「ロシュ!」
「わぁんリゼー!恐かったよー、僕喧嘩なんてしたことな…‥。」
「わああぁぁ〜ん!僕はロシュと同じことしたかっただけなのにぃ〜!」
俺も、俺に抱き付いてきたロシュも、ひときわ大きな泣き声に、固まる。
なんだそれ…。
「お、思い出した…、ロザ、僕になりたいとか言ってて、僕の真似するのが好きだったんだ…‥ぅ〜ん…。」
「んなくだらねぇ理由で…って、オイ、ロシュ!」
ぱったりと俺の膝の上にロシュは倒れた。
なんで今頃気失うんだよ。
俺が一番泣きてぇよ…。
「まったく、だらしねぇ…‥。」
文句を言いながら、気を失ったままのロシュを、俺は背中に乗せて歩いた。
俺を助けに来たクセに、俺に助けられやがって、これじゃどっちが姫だか…。
でも…‥。
「…好きだ…‥。」
ぼそりと呟いてみた。
「ロシュ、好きだ…‥。」
顔やら身体やら、みるみるうちに恥ずかしさで熱くなってしまう。
「いや、ダメだ!言えねぇ!好きだなんて!」
「今言ってくれたのに〜。」
俺の背中から、声。
「おま…っ、いつから…!」
俺は熱いのに、冷や汗がダラダラ流れた。
「えぇと、ロザのとこ出たぐらいから?かな?」
「ずっとじゃねえかよ!下りろ!下りろよ!」
うわー、俺、恥ずかしすぎるって。
好きだっての聞かれた!
「え〜、だってせっかくリゼがおんぶしてくれてるのに〜。」
「ふざけんな!下りろ!お前なんか大嫌いだ!!」
「今好きだって二回も言ってたのに〜!」
数えてんなよ。
それぐらいちゃんと聞いてたなら、確認することないだろ。
俺がお前を、多分とかじゃなくて、ちゃんと好きだ、って。
俺とロシュは言い争いながら城まで帰った。
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