「薔薇色☆お姫様」-2









ロシュの様子が変だ。
朝メシ食ってる時からなんだよな。
ロザ?とかいうイトコが来る、って聞いてから。
いつもみたいにヘラヘラしてねぇんだよなぁ。


「なぁロシュ。」
「な、なぁに…?」
「何そんなビビってんだよ。そんな恐いのか?そいつ。」
「恐いっていうか…逆らえないんだ。」

このロシュが逆らえない、
なんて自信なくす程なんて一体どんなやつだよ。


「だってさ、自分の思い通りにならないと泣くし、もーうとにかくすっごい我儘なの!」
「いや…それ、お前もだから…。」
「結婚の約束だって無理矢理だよ?ロザと結婚なんかしたら苦労するに決まってるよ!」
「そこまでわかってんなら俺のことも考えろよ。」

笑うのも疲れる。
まぁ俺は結果的には自分の意志で決めたわけだけど…多分。


「リゼ〜!どうしよう〜!僕どうしたらいい?」

ロシュが俺にまとわり付いて、俺に泣き付いた。
こんなの、初めて見た。
俺の知ってるロシュは、それこそ我儘で、世間知らずで、自分が世界一、世は自分のためにある、みたいなやつだったのに。
こんなロシュは、知らない。


「おいロシュっ!!」

俺はロシュの頬に手を充てて、顔を挟んだ。
こんなロシュは嫌だ。


「お前らしくねんだよっ!いつもみたいにしてろよ、男だろ?」

弱々しいロシュに喝を入れてやった。


「うん、僕、夫だよ、頑張るね、リゼ!」
「違う!夫、じゃなくて男、だ!!」

俺の手を強く握るロシュの手を払い除けようと力を入れた。


「やっほー、ロシュー!」

バタン、と扉が開いて、元気な声が掛けられた。
金髪の、ロシュに似ている人間が立っている。


「ロザ…!」

こいつがロザ? こりゃまた綺麗な顔してんな。
なんか血の繋がりを目で確かめてる気分だ。


「げ、元気だった?」

ロシュは愛想よく笑ってるつもりだろうけど、目が笑ってない。


「元気なわけないよ!ロシュにフラれて僕、ハワイに傷心旅行に行ってたんだから〜。」

ハワイなんてんな賑やかなところに傷心って…合わないだろ。
ん?待てよ、僕? 僕、って言ったか、今。


「僕超ショック〜!ロシュがお嫁さんになってくれるの楽しみにしてたのにさぁ。」

お、男…!
俺も人のことは言えないかもしれないけど、喋った声も男っぽくないし。
ロシュが嫁かよ。
しかも超、なんてなんだその言葉遣い。
ホントに外人かよ。
様々な疑問と戸惑いを抱いて、俺はロシュとロザを見ていた。


「ねぇロシュ、この人さぁ…。」

ロザの深碧の瞳が俺を見付けると、視線が合った。
ロザは指先をくわえて、俺をジーッ、と見続ける。


「僕と結婚しようよ!」
「はあぁっ?!」
「今一目惚れしちゃった!ロシュがダメなら君がいい!」
「いや、その…、ロシュは俺とけ…結婚したんだぜ?」

イキナリ俺の手を握り締めて、唐突にそんなことを言った。
認めたくないけど、これ以上こんな
わけわかんねぇやつに振り回されるのはごめんだ。
ロシュだってわけわかんねぇっつーのに。


「大丈夫だよー。」

何がだ! どこにその根拠と自信があるんだよ。


「ダメー!!リゼは僕のお嫁さんなの!」

俺とロザの間にロシュは割って入り、触れていた手を離させた。


「でもまだ正式には結婚出来てないでしょ?」

え───?
今、なんて言ったんだ?


「男同士の結婚を認める法が施行されるのはロシュの20歳の誕生日からだよ?まだじゃない。」
「嘘…‥!」

俺とロシュは顔を見合わせた。


「あれー?知らなかったの?」
「……‥‥‥。」
「ロシュってば相変わらずおバカさんだね〜。」

キャハハッ、と、まるで今時の若い女のようにロザは笑った。


「じゃあ僕、おじさまとおばさまに挨拶してくるね。」

鼻歌を歌って、足取りはまるでスキップでもしてるかのようにロザは部屋を後にした。
呆然とする俺たちを残して。


「お、おいロシュ…。」
「リ、リゼ…、ど、どうしよう…!」

固まっているロシュの顔を覗き込んだ。
青ざめた顔で、俺の肩を掴むロシュの手は僅かに震えている。


「どうしようも何も、気にしなきゃいいだろ、あんなガキの言うこと。どうせすぐ諦めんだろ。」
「ううん、ロザはそんな甘くないよ。言ったでしょ、我儘だ、って。
ロザは自分の欲しいものは何がなんでも手に入れる性格なの。」

ロシュが引き攣った顔で俺を見つめた。
あのロシュがこんな言うぐらいだから相当なのか?


「思い通りにならないと泣き落としするんだもん。だから苦手なんだよー。」

ロシュは困り果てたように俺にしがみ付いた。
あーあ…。 仮にも男が、俺より身体デカいくせに、しかもこれも認めたくないけど夫が、こんな弱くてどうすんだよ。


「おい泣くなよ、ロシュ。泣くなってばよ…。」

俺は、普段なら死んでもやらない、と思ったけど、勇気を振り絞って、ロシュの顔を自分に向けて、その唇に自分の唇を近付けた。


「リゼ…!」
「も、もうやらないからな!」

きっと俺は真っ赤だ。
当たり前だ、自分からキスなんて、んな恥ずかしいこと。
二度とするかよ。


「ありがとうリゼ!僕頑張る!愛してる〜!!」
「だから!んなするな!離れろっ。」


俺はくっついてやたらとキスしてくるロシュを振りほどいた。
大丈夫、だろ…。







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