「薔薇色☆王子様」-9







『僕が幸せにするよ。』


あの風邪の日から、俺はおかしい。
だって、幸せなんて、誰かにもらえるものだなんて、思ってなかったし。
相変わらずロシュは俺にくっついて来る。
前から触って来たりはしてて、変わらないんだけど。
変わったのは、俺の意識の方で…‥。
なんだか、好きな男とは幸せになれないと自分で認めたら、諦めもつくっつーか、なんつーか…。
ロシュに言ったらまたなんか調子乗って誤解されそうだけど。


「…‥ゼ?リゼ?」
「んだよ。」

当たり前のように、今日も俺とロシュとファボルトは学校へ行き、家帰るとメシ食って、テレビ見て、俺は課題やったり。
そんな日が、気付けば一ヵ月。
なんだか、家族みたいな…‥。
いや、結婚はしねぇぞ!断じて!!
第一男同士で、国籍も身分も違って。
こんな奴でも見た目はいいんだから、女なんて腐る程寄ってくるだろうに。
なんで、俺みたいな…。
いや、これじゃ俺まで好きみたいじゃねぇか。
何流されてんだよ。


「ねぇリゼ、聞いてる?」
「あーハイハイ、何。」

ったく、課題の邪魔すんなよ。
ファボルトは意外というかなんというか、さすがお付きなだけあって、なんでも出来て、台所で夕飯の後片付けをしている。


「あのさ、僕、来週帰るんだけど。」
「あーハイハ…‥‥、は?どこに。」
「え?リーベヌ王国にだけど。」
「はあぁ??」

俺は持っていたボールペンをノートに落とした。
なんだなんだ、こいつは、寝呆けてんのか?
転んでどっか打ったとか?


「言ったでしょ。僕の20歳の誕生日までって。もうすぐなの。」

何を、言ってるんだ、こいつは。
俺は呆然とした。
そんなこと、すっかり忘れてた。
だってまだ一ヵ月…。


「お前は、たった一ヵ月で人の心が手に入ると思ったのか?」
「え…、うん。」

こいつはまったく。
世間知らずというか、ナメてるとしか。


「これだから金持ちって嫌いなんだよっ。金出しゃなんでもいいと思って。」
「俺の親戚だってみんなそうだ。面倒だから金だけ送りやがって。」

俺は、思い切り文句をぶつける。
止まらなくなる。
両親がいなくなったのも、親戚からの扱いも、別にロシュは関係ないのに。
悔しかったんだ。


「あのさ、リゼ。僕、お金はあるけど、別にリゼを買おうとか思ってないよ?」
「わかってるよっ。」

悔しかったんだ。
そんな風に扱われてる、ことよりも、そう思ってしまうひねくれた自分の性格が嫌で。
なのに。
こんな俺を、こいつは素直だ、とか言うから。
自分がわからなくなるんじゃねぇかよ。


「だから無理矢理連れて帰ろうなんて思わないし。」

ロシュは、いつものように、笑う。


「でも僕は、リゼが本当に好きだったよ。」

ちょっと待て…。 好き“だった”…‥?!
なんでそこが過去形になるんだよ。


「リゼのこと、幸せにする自信はあったんだけどなぁ。」

ロシュは、何も考えてなさそうに宙を見ている。


「‥…てよ。」
「え?」

きょとんとしたロシュの襟首を掴んだ。


「待てっつったんだよ。お前、いい加減にしろよ。」

俺はロシュを見下ろして、掴んだ手に力を込めた。


「お前なんなんだよ。いきなり人のこと好きになったから嫁になれ、とか言って、人の生活も心ん中もめちゃめちゃ荒らして。そんで何、誕生日だから帰るって?」

俺は仇のようにぶちまける。
ロシュの襟首をずっと強く掴んだまま。


「んな勝手な話あるかよ、人を振り回して。」
「え…と、リゼ、ごめん、怒らせた…?」

怯えるロシュなんて初めて見た。
気を遣うロシュなんて。


「男だったらちゃんと最後まで責任持てよっ!!」

俺はファボルトがいることも、ここが集合住宅ということも忘れて、叫んだ。
俺は…、俺ばっかりが振り回されて乱されたのが悔しくて…。


「────…‥っ!!」

キス、してしまった。
男と。 ロシュと。
一瞬なのに、凄いのを。


「フン、お前も振り回される気持ちがわかったか。」

俺はロシュから顔を離して、得意気に言った。
ざまぁみろ。 俺に迷惑かけた罰だ。


「いいよ。」

ロシュは、またにっこりと笑った。
今度は俺が掴まれる。
ロシュに、俺の手首が。


「振り回していいよ。」
「な…に、言って…。」

俺、なんか変だ。
掴まれた、場所から熱が上がったみたいで。


「振り回すのも、振り回されるのも、恋をしたら誰でもそうなると思うけど?」
「へ…恋…‥?」

ロシュは俺の手の甲に、初めて会った時みたいに、軽くキスをした。
そこからまた熱は上がって全身に広がっていく。


「知らなかった。リゼも僕を好きだったんだ。」
「───!」

うそだろ…‥?
まさか、そんなはずは。
あるわけない、と思うのに、身体はどんどん熱くなっていく。
俺が…ロシュを…好き??
食器拭きの布巾を持ったまま固まるファボルトの存在なんか目に入らないぐらい、俺は動揺した。

ロシュだけが見えた。





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