「薔薇色☆王子様」-6
俺には、わからない。
「えーと、ここがこうで…。押さえると…。」
なんで…。
なんでこいつ普通に弾けてんだよ!!
「へーぇ、あんたなかなかやるな、外人。」
「あ、ありがと〜。」
友人達までロシュにちやほやしてる。
なんか俺、情けな…。
俺なんか物心ついた時からピアノやって来たのに。
おまけに、俺が片思いしてるってことまでバレて。
「リゼ?どうしたの?」
「うっわ!いきなり顔近付けんな!」
下を俯いてた俺をロシュが覗き込んで来た。
何焦ってんだ、俺。
心臓バクバクいわせて、冷や汗まで出して。
「もう授業終わったけど…。」
「あ、あぁ、悪ぃ…。」
気が付くと生徒は誰もいない。
俺は、何をやってるんだ?
プレーヤーとしても、恋愛するにしても、中途半端だ。
意地ばっかり張って、素直にもなれなくて。
出来ないこと、出来ないっても言えない。
好きな奴に、好きだっても言えない。
もっと上手く生きられればいいのに。もっと自由に。
ロシュ…みたいに。
「リゼ?」
え…、今、俺なんて?
「どうしたの?」
「うわぁっ!だから、近付くなって!」
おかしい。
変だぞ、俺。
そう、変なのはロシュで、その変だって思ってる奴に憧れるなんて。
「もしかして、僕に見惚れてた、とか?」
「バカ言うな。誰がお前なんかに。」
ロシュは照れながらヘラヘラ笑っている。
そうだよ、俺が好きなのは別の男なんだよ。
「えー、残念。」
そんな残念がるなよ。
なんか、俺が悪いことしてるみたいじゃんか。
「お前さー、なんかこう、もっとしゃんと出来ねぇの?」
「え?何が?」
わかんねぇのかよ。
世話ばっかりかけやがって。
「だからその、もっと男らしくっつーか…。とりあえず、指くわえんの、やめてくれよ。」
なーんか、乙女ちっくなんだよ、こいつ。
男のクセして。
仮にも、王子、で。
俺より背もデカいし、身体もデカいし。
身体…‥。
「うわ…あわわわ…。」
お、思い出してしまった!
昨日、見ちゃったんだ、俺…こいつの、あれ。
いや、見ただけじゃなくて、触って…‥。
「リゼ、顔、真っ赤だけど…。」
落ち着け!
思い出すな!!
忘れろ!!!
あれはただ、手伝っただけで、別に恋愛感情とかは…。
「熱でもあるのかなぁ?」
「ない!ないない!」
そう言ってロシュは俺の額に手を充てる。
俺は慌てて頭をブンブンと振る。
慌てる必要もないんだけど。
「あれ?あるかも…。」
「何が。」
「え?熱が、あるかも。」
そ、そういえばさっきから身体が熱いのに寒気が…。
頭もボーッとするかも。
さっきの冷や汗もか?
あれ?本当にあるのか?
「ファボルト!帰るよ!」
急に俺の身体が宙に浮いた。
「な、な、何すんだ?!」
「いいから、リゼは黙ってて。」
だからそう簡単に俺の顔に触るなって。
俺、ロシュに持ち上げられてるし。
しかも、これって…。
「下ろせ!下ろせってば!」
俺はロシュの腕の中で暴れる。
だってこれってばさ…。
「えへへ、一度やってみたかったんだよねー、お姫さま抱っこ。ヒメに相応しいでしょ?」
「バカなことすんな、下ろせってば。」
笑うなー。
何がお姫さま抱っこだ。
俺は女でも姫でもねぇっつーの。
女扱いされる覚えはねぇ。
「王子!無理すると…。」
「大丈夫。ファボルトは救急車呼んで。」
「かしこまりました!」
あ…れ…‥。
なんか今のロシュ、男らしいかも。
さっき、いや、今まであんなだったせいもあるけど。
初めて見た…か?
そうか救急車…。
え?救急車??
救急車って言ったか、今!
「王子、救急の電話番号まで調べておりませんでした!このファボルト、とんだ失態を…。」
「何やってんのファボルト、110番だよ、早く!」
違うだろ!
そりゃ警察だって。
警察呼んでどうすんだよバカたれ!
いや、問題そこじゃねぇ。
「ロシュ…、これぐらいで救急車も警察も呼ばなくていいんだってばよ…。」
「え?そ、そうなの?」
あ…やべ…‥。
ロシュとファボルトがあたふたしている。
「リゼ?あれ?リゼ…?」
俺はロシュの腕の中で、抱えられたまま、意識がなくなっていた。
「リゼー!死んじゃやだー!!」
ロシュの絶叫が、ずっと聞こえた気がしたけど。
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