「薔薇色☆王子様」-2
翌日の空港にて。
「きみがリゼ・ヒメキか。息子をよろしく頼むよ。」
俺は昨日会った変な王子の父親とかいうリー‥
なんとか王国の国王に挨拶され、頼まれてしまった。
「あ…、ハ、ハァ、わかりました…。」
なかなかの男前だ。
母親も美人だ。
さしずめこいつは母親似ってところか。
『じゃあ息子よ、私達はもう行くよ。元気で、愛してるよ──…。』
なんだか意味はわからないけど言うと父親と母親は息子に別れのキスをして、祖国へと帰ってしまった。
もちろん、特別便で。
「あーあ、行っちゃったな…。」
去ってゆくロシュの両親を見送りながら、俺は隣にいるロシュに呟く。
「うん…っ、お父様っ、お母様…っ、く…っ、え…っぐ…っ。」
「うわぁ!!あんた何泣いてんだよ?!」
隣でロシュは大粒の涙を流していた。
デカい図体して、いい歳の男が泣くなよ。
びっくりするやら、呆れるやら。
「そんなに泣く程お父様とお母様が好きなら、帰ればよかっただろ。」
俺はつい、嫌味ったらしくキツいことを言ってしまった。
いや、でも本当のことだし。
俺も出来れば付き纏われたくはないし。
「だって…っ、僕はお父様もお母様も愛してるけど、それ以上にリゼを愛してるから…っ。」
いかん。
墓穴掘ってしまった。
余計なこと言うんじゃなかった。
「あーもう!わかったからもう泣くなよ!」
俺は困って、ポケットからハンカチを出して、ロシュに差し出した。
「え?わかってくれたの?じゃあ結婚してくれる?」
イキナリ泣き止んで、ロシュの顔が明るくなる。
なんでそう自分の都合よくとるんだよ。
「それはわからない!」
「なぁーんだ。残念。」
ハンカチで頬の涙を拭いながら、拗ねたように口をとがらせている。
黙ってりゃ美形なのになぁ。
変な奴。
「じゃあもう行くぞ。」
「え?どこに?」
赤い瞳で、キョトンとしている。
「あんた、俺と生活すんだろ?決まってるだろ、家だよ。行かねぇのかよ?」
「行く!行きます!!行かせて下さい!!!」
俺の服は思い切り引っ張られる。
まったく…子供かよ。
こいつ本当に今年で20歳なんのか?
「わかったから!引っ張んなって!」
俺はその手を無理矢理払い除けた。
「へぇ〜、これがリゼのお城かぁ。」
俺のアパートを興味津々に見上げている。
しかも、城ってなんだよ、城って。
俺は鍵を差し込んで、中へと入れた。
「ねぇ、リゼ、正門はどこにあるの?部屋数はいくつぐらい?」
───は?なんだと?
今なんつった?
正門ってなんだよ、部屋数ってなんだよ。
「王子、ここはアパートという集合住宅でして、リゼ殿はこの中で暮らしておられるのですよ。」
───ちょ、ちょっと待てよ。
頭痛くなりそうだ、俺。
「あ、なんだいたの。ファボルト。」
「いたの、とはなんですか!あなたが残れっておっしゃったんでしょうが!」
俺の家の狭い玄関で、男3人が立ちすくんでいる。
「え?じゃあこの中にキッチンもバスルームもトイレも入ってるの?
スゴイ!早速お邪魔しまーす。」
ロシュは楽しそうに俺の家の中に入ってゆく。
「おい…靴は脱いで入ってくれよ…。」
俺はとりあえず、と湯を沸かし、パックのお茶を煎れて二人に出した。
「苦いぃ…、昨日飲んだやつがいい。」
「王子、我儘言わないで下さい。」
あぁ…、茶なんか飲んだことねぇのか。
だから無理だと思ったんだよ。
日本で暮らしていけるわけ…‥あれ?
あ…、日本語…‥。
「そういえば、なんであんたら日本語喋ってんの。」
俺は昨日気付かなかった疑問を、茶を啜りながら聞く。
「え?だってリーベヌ王国はリベラ語と日本語が共通語だもん。知らないの?日本と結構仲良しなんだけど。」
なんだその国…。
メチャクチャじゃねぇか。
さっきこいつとその父親が喋ってんの、聞いてたけど、全っ然わかんなかったぞ。
一つも似てる感じとかしなかったぞ?
「ねぇ、昨日飲んだオレンジ色のがいいんだけど。」
「王子っ、我儘も大概にして下さいよっ。日本を愛する心、これが和の味ですよ。これぐらい飲めなくてどうするんですか。」
ファボルトは熱いその茶を一気に飲み干す。
「すごーいファボルト!僕のもお願い。」
にこにこと笑いながら、差し出したロシュの手を、ファボルトは自分の手で制した。
「駄目です。王子の勉強になりませんから。ご自分のことぐらいちゃんとして頂かないと。
これでは継承者として…‥(以下略。)」
「ちぇー、ファボルトのケチ。」
茶を飲むのの何が勉強なんだよ。
誰だって出来んだろ。
あーあ…‥わけわかんねぇのと会っちゃったよ。
俺のこれからはどうなってくんだ…‥??
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