「薔薇色☆王子様」-1
「ファボルトー、まだ歩くの?」
日本、東京。
時は午後3:30。
「まったくなんです王子っ。まだ30秒も歩いてないですよ!しかもあなた、大使館からホテルまで、目と鼻の先じゃないですか!
それもあなたがホテルじゃなきゃ嫌だっておっしゃるからですね…。」
お付きのファボルトってば、いつも小言ばっかり。
だってさ。
僕、歩いたのなんか、お城の中ぐらいしかないし。
送迎車ぐらい用意してくれたっていいじゃないか。
日本て、ケチだなぁ〜。
「だぁってさぁ〜。」
「だっても何もありません。王子は少し我慢というものを知るべきです。」
歩いたら、疲れるんだもん。
それにしても、ここは大都会なだけあって、自然が少ないなぁ。
木もわざと植えたっぽいし、花ぐらいないのかな。
我が国とは大違いだ。
何かこう、美しいものはないのかな…。
「ん…?」
美しいもの。
「ファボルト、ちょっと待って、止まって。」
「は?何をおっしゃるんです?」
見つけた。
大都会、東京の片隅に咲く、花。
「なんなんですか、まったく…。」
漆黒の髪と、同じ色の瞳。
白いうなじ。
白い肌が、太陽の光に照らされて、眩しい。
「ちょっと先に帰ってて!」
僕はその小柄な日本人に、駆け寄った。
「帰ってて、ってあなた、ご自分一人じゃ帰れないでしょうに…。」
ファボルトが困ったように呟いたのは、聞かずに。
「探してたよ、僕の姫!」
その日本人の肩を掴んだ。
「──え?」
振り向いて、至近距離で見たその顔も姿も、やっぱり美しい。
その大きな瞳が、僕を見つめる。
「きみの名前は?」
「え…‥媛木‥璃瀬…だけど、あんた、誰?」
ヒメ…!相応しい名だ!
そんなに見つめられたら、クラクラしちゃうよ。
「僕はロシュ。ロシュ・ファルベ。きみに一目惚れしたんだ。つきましては僕の花嫁として迎えたい。」
やった!言ったぞ、ロシュ。
僕って男らしい。
これで僕の姫、リゼはもう僕のトリコだね。
「あんた…どっかおかしいんじゃねぇ?」
はい、もう、きみを一目見た時から胸がドキドキ、バクバク…心臓は破裂しそうです!
「王子ーーっ!な、なにをおっしゃってるんですかっ?!」
息を切らして、ファボルトも駆け寄って来る。
「その御方は男性ではないですかっ!」
「それがどうかしたの?」
だって、好きになっちゃったら、そんなの関係ないよ。
僕はリゼが好きなんだ。
「どうもこうも…あのですね、結婚というものは、女性とするものだと、我が国では決まってるんですよ?」
「ふーん、じゃあお父様に言って法を変えてもらおーっと♪」
僕のお父様は、我が国リーベヌ王国の国王なんだから、それぐらい、簡単だもんね。
「なーにを馬鹿なことをおっしゃるんですか。いいですか、あなたはいずれ王位を継承して国を治める…‥(以下略。)」
「もーう、どうしてカタイのそんなにっ!僕のことは僕が決めるんだってば!」
ファボルトのお説教は始まると長い。
僕これ大嫌いなんだよね。
「どうしてあなたはそう我儘なんですかっ。」
「もう放っといて!僕、リゼと駆落ちする。ってことで、後はよろしく。」
そう言って僕はリゼの肩を抱いて歩き去ろうとした。
「あのさ…、俺の意見は聞く気ねぇのかよ?」
リゼが思い切り睨んでいた。
「で?あんたはその、なんとかって国の王子で、日本に視察に来た、と。」
「そうでーす。」
僕とリゼ(とついでにファボルト)は、近くのカフェ?みたいな所に来た。
「それで?今年の20歳の誕生日までに花嫁を見つける、と。」
「そう。あ、リゼはいくつ?えーと、16?ぐらいかな?
あ、でも大丈夫。いくつだろうと、結婚出来るようにするから。」
これもお父様に言って変えてもらおう。
僕は頼んだ果実の絞り汁を飲んだ。
「俺は20歳だよっ!立派に結婚出来る!
でもあんたとはしねぇよ。第一、男じゃねぇかよ、俺もあんたも。」
「あ、うん、でもそれも変えるから。」
きみと結婚するためなら、なんでもするよ。
すると、リゼの瞳の色が変わった。
「俺さ、あんたみたいに、なんでも思い通りになると思ってる奴、大嫌いなんだよな。王子だかなんだか知らねぇけど。」
「ちょっとあなた、王子に向かって口が過ぎますよ。」
横からファボルトが、口を挟む。
「視察ったって、一部のお偉い日本人しか見てねぇだろ?俺ら一般市民の生活とか知らねぇだろ?」
そうか…僕、ちゃんとリゼのこと、見てないのか。
わかってないのか。
これじゃあ好きになんかなってもらえないよね。
リゼのこと、知りたい、わかりたい…。
「あ、あのさ、僕、リゼと生活してみていい?」
「は?何言ってんだ?」
これぞ名案。僕ってやっぱり頭がキレる。
「ちゃんと日本のこと、知りたいから。僕、日本に残るよ。ね、いいでしょ?」
「あんたに…出来るわけねぇだろ、一般市民の生活なんか。」
僕は訝しげに見つめる、リゼの手を取った。
ちょっとひんやりとする、白い綺麗な手。
「やってみなきゃ、わからないよ。よろしく、僕のヒメ。」
お近付きの挨拶。
その手の甲に、チュッ、とキスをした。
リゼはびくん、と震えた。
「なっ、にする…!」
「あ、足りないなら、口にもしてあげるよ?」
その唇に、触れてみたくて、僕はリゼの頬に手を寄せた。
「いらない!やめろ!」
真っ赤になって怒ってるリゼもまた、可愛い。
「あ、ファボルトも一緒だからね、もちろん。」
「王子…あなたは本当にもう…‥。」
ファボルトは頭を抱え、リゼはやっぱり怒ったままだけど、
僕はこの先の日本での生活が楽しみで仕方なくて、笑顔が崩れなかった。
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