翌日になって、俺達は帰宅の途を辿ることになっていた。
午前中は周りの人間へのお土産を買ったり、最後にもう一度海へ入りに行ったり…。
それぞれ自由な時間を過ごしながら、帰り支度を済ませた。
シロは勤めているケーキ屋関係にお土産を買うと張り切っていて、俺は付き合うつもりで行ったのに、またしてもシマにその座を取られてしまった。
仕方なく同じく残された水島と共に行動したのだが、やっぱり相手が相手だと面白くも何ともないということを改めて実感した。
シロと一緒にいる時はドキドキしたハラハラしたり…逆に安心して穏やかな気分になったりと、心が常に動いている。
それはもちろん水島もそうで、俺といる時は無愛想そのものだった。
「また船かよ…つぅか何で船なんだよ?」
「べ、別にいいじゃんか!いいんだよ、俺達はゆっくりで。」
島を発つ時になって、洋平と猫神は来た時同様また船で帰ると言い出した。
やっぱり理由は言わないし、結局誤魔化されてしまった。
「あぁーんリゼぇ~、もっといたいよ~!」
「うるせぇ!!国の行事すっぽかして来たクセに何言ってんだっ!」
「そうですよ、国王に何と言われることか…このファボルト今から覚悟をしております。」
「えー?お父様は怒ったりなんかしないよ~。っていうかファボルトに来てなんて頼んでないもんねーだ。」
「ロ、ロシュ…!お前は…っ。」
「お、王子っ!!もう少しご自分の立場というものに自覚を持ってですね…!それでは次期国王として…(以下略)」
結局ロシュ達は俺達と行動を共にし、ほぼ同時刻に国へと発つことになった。
島にいる間ロシュはこんな風にリゼやファボルトに怒られっ放しだったけれど、王子というものは立場を忘れて遊びたい時もあるのかもしれない。
ロシュの場合は常にそうだから怒られるのだろうけれど。
「俺達はあと一日いる予定なんだ。」
「へぇ、そうなのか。今回はありがとうな。」
「またいつでも来てくれ。」
「あ…あぁ…。」
遠野とその恋人は次の日に帰るらしく、俺達を見送りに来ていた。
いつでも来てくれというのは嬉しいけれど、またあんな…妙なお香でも仕込まれたりなんかされたら…。
遠野には何か裏があるような気がしてならないのは、旅行に来ても変わらなかった。
「何か言ったか?」
「えっ!な、なんにも言ってねぇよ!気のせいだ気のせい!」
まさかこいつは読心術とか…人の脳の中まで見えるあんんてことはないよな…?
変わり者というのは次のどんな言動や行動を取るのか本当にわからない。
その不安と期待が楽しくてこの恋人も一緒にいるのだろうか。
だとしたら物凄い度胸の持ち主に違いない。
「あぁそうだ、お土産だ。」
「え…?何?そんなもんまで…。悪ぃな、サンキュ。」
飛行機に乗り込む時になって、俺達はそれぞれ紙袋を渡された。
何が入っているのかはわからないが、結構な重さだ。
お土産と言えばお菓子や置物と言ったところだろうか…。
俺達は最後にもう一度遠野に礼を言って、東京目指して島を発った。
「亮平っ、亮平っ。」
「ん?どうした?」
行きはともかく帰りだけは、俺はシロの隣に座ることが出来て一安心だった。
その飛行中に俺の肩にもたれかかっていたシロが大きな目をくるくるさせている。
「これ、亮平にお土産だ!」
「え…?俺に?!」
シロは満面の笑顔で俺に小さな包みを寄越した。
シマと一緒に買いに行ったというのはそういうことだ。
俺を驚かそうとして、内緒にしたくてそれで…。
だけど一緒に行った相手にお土産を買うなんて、普通はしない。
その普通はしないことがいかにもシロらしくて、俺は思わず頬が緩んでしまった。
同じように後ろの席ではシマが水島にお土産を渡している。
「ん…?なんだこれ、ネックレスか…?」
「うんっ!魚の形で美味そうだと思って。」
それはいかにも女が好きそうな貝や真珠で出来たネックレスで、絶対に俺には似合うような物ではなかった。
こんな物をしている男がいたら俺だって気持ち悪いと言ってしまいそうだ。
だけど俺はシロにそれを言うことはしないで、黙って受け取った。
似合う似合わないは関係なく、このネックレスにはシロの気持ちが詰まっている。
「あとー、まんじゅうと、クッキーと…チョコとー…。あっ、これはなんごく?っていうフルーツケーキ!」
「ぷ…、そんなに買ったのか?」
シロの鞄から次々に出てくるお土産達に、俺は耐えられなくて吹き出してしまった。
一緒に行った奴にこんなにお土産買ってどうするんだよ…。
しかもお菓子ばっかりで、それはお前が食べたかったんじゃないのか?
こういうところは本当に変わらないんだよな…。
「うんっ!亮平と一緒に食べようと思って。」
「そっか…。」
「へっへー。あっ、りゅーのすけのおみやげ何だろ~?」
「シロ…。」
これが飛行機の中なんかじゃなかったら、今すぐにシロを抱いていただろう。
さすがの俺も少しの理性だけは残っていたのか、それは諦めてせめてキスだけでも… と、シロの身体を抱き寄せようとした時だった。
「亮平、これ何だ?漫画?」
「あ?」
遠野に渡された紙袋をごそごそと漁っていたシロが不思議そうに俺を見つめる。
その手には薄い本のような物が何冊か握られていた。
「うんと、俺のなんとかさんが描いた…?」
「何何?俺の義姉さんが描いた同人誌だ。今までの物を全部プレゼントする。これを読んでこれからも頑張ってくれだぁ~?」
「どういう漫画だろ~?俺漫画好きだぞ!シマのところにいっぱいあるんだ。」
「な、ななな何だこれ───っ!!シ、シロっ、読んじゃダメだっ!」
俺は同人誌なんてものは読んだことがなかったけれど、表紙からだいたい中身は想像が出来た。
開いたそれには男同士のセックスが生々しく描かれていて、俺は大きな叫び声を上げながらシロの手から奪い取る。
「えー!なんでだよ!せっかくりゅーのすけがくれたんだぞ!」
「ダ、ダメなもんはダメだっ!」
その本のような行為を実際にしている俺が言える立場でもないのはわかっている。
だけどこんなものを読んだりしたらシロの教育上よくない。
まったく、何てもんを寄越すんだあの坊ちゃんは…!
「じゃあ亮平は読んでもいいのか?そんなのずるいぞ!」
「とにかくこれは捨てる!!いいかっ、お前らも中身は見ずに捨てろ!!」
俺は周りの奴らにもそう叫んだけれど、時既に遅しというやつで、気になった皆はもう中身を開いてしまっていた。
叫び声とどよめきでいっぱいの飛行機の中で俺は頭を抱えながら、遠野がどこかでニヤリと笑うのが見えたような気がした。
END.