志摩には「女の子」だとか「乙女」なんて言葉が良く似合う。
昔は悪い意味で、いじめられていた要因にもなったことだ。
でも今は逆に良い意味で、その言葉が似合うと思ってはいる。
思ってはいるのだが…。
「すっごーい!隼人ー見て見てー!」
旅行に来て一日目。
夜になって用意されたのは豪華ホテルのスイートルームだ。
それもどの部屋もデザインやテーマが違うというもので、皆で相談して部屋を決めた。
そんな中俺達が選んだのは、お姫様をテーマにした部屋だった。
もちろん俺が選んだわけではない。
どれがいいのか聞こうとする前に、志摩の視線はその部屋の写真に釘付けになっていたのだ。
「じゅうたんふかふかー♪ベッドもふかふかだよー♪」
入る前からわかってはいたけれど、実際部屋を目の前にして、俺は頭を抱えてしまった。
ピンク色を基調としたその部屋は、毛足の長い絨毯に、丸い形のベッドがある。
シーツやカバーはなんだかテカテカした布地だし、カーテンにはレースまで…。
いくら志摩が乙女みたいだからと言っても、一緒にいる俺までそうなわけではないのだ。
まさかこんな部屋に泊まることになろうとは、思ってもみなかった。
「ふー…、お腹いっぱいー…。」
志摩はごろんとベッドの上に転がると、満足気に横たわっている。
パーティーの途中ではなんだかコーラで酔っていたみたいだが、それも今は醒めたようだ。
「隼人?どうしたの?あ、もしかして食べ過ぎたの?俺もなんだー。」
無言でソファに腰掛けようとしていた俺を志摩が不思議そうに見つめている。
家を出てから半日以上経って、今やっと大きな目が俺だけを見ている。
「志摩…。」
「実はさっきからお腹苦しくってー…。」
「それなら志摩…。」
「わ…、びっくりした…!」
俺はソファには座らずに、志摩が寝ているベッドへ向かった。
勝手に喋っていた志摩は、ギシリというベッドの音が鳴るまで気付かなかったらしい。
「これ、脱いだらいいんじゃないか?」
「え…あ……はい…。あのでも一人で…。」
「何?」
「な、なんでもないで……。」
パーティーの時に履いていた半ズボンは、俺が無理矢理履かせたものだ。
準備されていた着替えの中にリゾートで着る花柄の服を見つけた時、嫌な予感がした。
可愛いと言って手にしたそれは、いわゆるワンピースのような服だったのだ。
志摩に女装癖があるわけではないのは知っている。
確かに可愛いとも思うし、見たいとも思う。
だけど俺以外の奴の前ではして欲しくない。
それを俺はクリスマスの時に教えたつもりでいたのに、志摩はすっかり忘れているみたいだった。
とりあえずで持って来ていた半ズボンを無理矢理履かせてその場は収めたけれど、その後パーティーの途中で藤代さんにそのことを突っ込まれた。
俺の趣味で志摩にそういう格好をさせているんじゃないかという疑いをかけられたのだ。
それは当たらずも遠からずだったけれど、志摩にはきちんと言わなければいけないと思っていた。
部屋に着いたら叱ってやろうと、俺はパーティーの間中そればかり考えていたのだ。
「どうした?」
「あのっ、隼人…っ?あ…っ。」
俺はスカートの中にまで手を突っ込み、ズボンを引っ張った。
もう脱げているのにもかかわらず柔らかな腿に触れると、その皮膚は緊張したように強張って志摩の口からは甘い声が小さく漏れた。
「何?」
「あ…、あっ!そうだ!!お風呂入ろーっと!お風呂、お風呂っ!お風呂に入りますっ!」
志摩にしては珍しく早いうちに俺がしようとしている行為に気付いたのか、するりと抜けてしまった。
ベッドから慌てて降りると、タオルを持ってバスルームへと急ぐ。
「志摩。」
俺は志摩の手を掴んで、それを止めた。
掴まれた志摩の細い手首は、急に温度を上げる。
タオルがばさりと床に落ちて、俺を見つめる志摩の目が潤んでいる。
「一緒に入っていいか?」
俺は志摩が頼みごとをすると断れないとわかっていて、わざとそんな言い方をした。
志摩が嫌だと言えないことをわかっていて、志摩が内心困っているのをわかっていて意地悪をしたのだ。
「あ……う……うん…はい…。」
風呂に行くともちろんそこもお姫様仕様だった。
真っ白のバスタブには花弁が浮かび、花柄の壁、タイルは薄いピンク色だ。
柔らかい明かりを放つ丸い照明はまるで真珠みたいだと思った。
「あ、あのお魚美味しかったねー。」
服を脱いで風呂場に入ると、志摩を座らせてめいっぱいの泡で背中を洗ってやった。
気まずいのをなんとかしようとして話し掛ける志摩の身体は、小刻みに震えていた。
「志摩、もっとこっちに来たらどうだ?」
「え…!あのでもここ広いし…。」
「そうかな…。」
「そ、そうだよ…あっ。」
バスタブは家の二倍はあろうかというぐらい大きい。
いつもはくっ付いてくる志摩も、そんな言い訳をして俺から離れている。
俺は困惑している志摩の腕を引っ張って、無理矢理自分の方に引き寄せた。
濡れた肌がここのタイルの色みたいに、ほんのりピンク色に染まっているのが何とも言えない程可愛い。
襟足にかかる柔らかい髪にまで欲情してしまいそうで、後ろから抱き締める志摩の身体はさっきよりも震えている。
「あのっ、あの…。」
「どうした?」
「な…なんでもな…。」
「そうか?」
耳元で囁くと、志摩の身体が明らかにビクンと動いた。
正面から見なくても、志摩に何かが起こっていることは見当が付く。
俺が今ここで何かをしようとしているのだと、志摩は思っているに違いない。
「そろそろ出るか。」
「あ……え…?」
「出ないのか?」
「あ……う……。」
その期待を裏切るように、俺はバスタブから半分だけ出た。
志摩は拍子抜けしたような顔をしていて、その後すぐに真っ赤になっていた。
「お、俺もうちょっと…。もうちょっとしたら行くから先に上がってて下さい…!」
なんでも俺と一緒にやりたがる志摩がそんなことを言うのは珍しいことだった。
俺はその理由をわかっていながらも、知らない振りをして一人でバスルームを出た。
俺が部屋に戻った後のバスルームで志摩が何をしているのか、考えただけで自分まで同じことになってしまいそうだった。
「あの…ただいまです…。」
タオルを頭に被って出てきた志摩の顔はまだ赤い。
「ただいま」なんてわけのわからないことを言って誤魔化しているのがバレバレだ。
俺はその火照った身体に早く触れたくて、志摩の腕を引っ張って床に押し倒した。
「何してた?」
「えぇっ!!」
「ちょっと遅くないか?」
「あ……あの……俺あの…!」
志摩はバカだ。
嘘も吐けないくせに、吐こうとしてすぐに墓穴を掘る。
だけどそんな志摩にわざと意地悪なことをしている俺は、もっとバカなのかもしれない。
「志摩は今日も可愛いな。」
「えっ?!」
「聞こえなかったか?可愛いって言ったんだけど。」
「あ、あのっ!なんか今日隼人変…っ。」
変なのはお前のせいだ。
お前がそんな格好で俺の前にいるから。
藤代さんに言われたことを肯定してもいいぐらい、俺は志摩のその姿に興奮してしまっている。
俺は志摩のスカートを捲り上げて、その中に顔を突っ込んだ。
風呂に浮いていた花弁のいい香りが漂うその肌に、そっと口づける。
「身体は…ここはちゃんと男なのにな。」
「あ…や…っ、隼人…っ!」
せっかく新しく身に付けた下着をずり下ろすと、志摩の女ではない部分が露になる。
さっきの行為のせいなのか、今新たに起こり始めているのか、そこは緩やかに勃ち上がっていた。
「やぁ…っ、あっ、んん…っ!」
それを口に含むとすぐに透明な液が溢れ、口内にその味が広がる。
今までセックスをした人間の中でも、こんなにも敏感で反応の早い奴はいなかった。
「やだぁっ、ダメ…っ、あぁ…んっ。」
甘い声を上げて感じている志摩の目の端からは涙が零れ始めていた。
俺はわざと音をたててそこを激しく擦りながら口内を出し入れする。
「ダメぇ…っ、隼人っ、汚れちゃ…っ、服が汚れちゃう…っ!」
「何で?」
「え…?あっ、やあぁっ!」
「何で汚れるんだ?」
俺が一度口を離すと、そこは先走りを零しながらぷるぷると震えていた。
早く達してしまいたいのに達することが出来なくて、まるで泣いているみたいだ。
「は、隼人えっちです…!今日なんかえっち…。」
「風呂で一人でするのはえっちじゃないのか?」
「───…!!」
「ほら、えっちなのは志摩だろ。」
俺の想像は的中していたようで、指摘された志摩は驚きで何も言えなくなっていた。
口をぽかんと開けて真っ赤になるその顔が、その辺の女なんかより100倍は可愛いと思う。
おかしい奴だと思われてもいい、俺はそんな志摩が好きで好きでどうしようもない。
好き過ぎて意地悪をしてしまいたくなるんだ。
志摩の泣き顔が見たくて…。
「ひゃあぁ…っ!」
俺は志摩の腕を引っ張って身体を起こし、きつく抱き締めながら後ろに手を回した。
せっかく達する寸前までいったそこはほったらかしにして、濡れた指を差し込む。
「やあぁっ、ひゃ…っ、あ…ぁんっ!」
少しずつ奥へと進む指は、志摩の熱で溶けそうだった。
何度セックスをしても、ここをいじられた時の志摩の反応は新鮮なままだ。
「やだ…ぁ、……ちゃうっ、隼人…っ。」
「志摩はここをいじられるのが一番好きなんだよな…。」
「ちが…っ、あ…!!やあぁっ!あっ、ひゃぁ…んっ!」
「志摩は嘘吐きだな…。」
始めは嫌がってそこで達するのが嫌だと泣いたこともあった。
だけど俺は知っていた。
志摩が一番感じて、一番触れられるのが好きなところはそこだと。
嫌だと言っているのは本当に嫌なわけではなくて、恥ずかしいからだということも。
「やだっ、…っちゃ…っ、いっちゃう…っ!隼人ダメえぇ───…っ!!」
バラバラに動かしていた数本の指が志摩の弱いところを見つけると、そこを激しく突く。
そして俺にしがみ付きながら大きく身体を逸らせて、志摩は達してしまった。
「う…ふぇ……えっえっ、うえぇー…。」
くったりと倒れてしまった志摩が、声を上げて泣いている。
俺はこの顔が見たかった。
志摩に悲しい思いをさせたくない、泣かせたくないと思いながらも、俺のすることで泣けばいいと思っていた。
俺でいっぱいになって、俺以外は見ないで欲しいと…。
「ごめん…。」
独占欲もここまで来たかと思うと、自分で自分が恐くなってしまった。
志摩を泣かせてまで貫くような立派なことでもないのに、俺は何をやっているんだろう。
「あの…大丈夫です…っ。」
「え…?」
「お、俺がえっちなのが悪いんだも…ふぇっえっ、えっちでごめんなさいー…。」
「志摩…。」
それなのに志摩がそう言うからいけないんだ。
だから俺は調子に乗るし、つけ上がってしまうんだ。
俺が悪いことをしても気付かずに好きだと言ってくれるから。
俺は志摩のことを子供だなんて言える立場なんかじゃないぐらい、子供だ。
「隼人ー…。」
何も知らずに見つめる志摩を愛しいと思う。
バカでも子供でも女みたいでも、それが志摩だ。
それが俺の好きな志摩なんだ。
「志摩…。」
「ふぇ……っ?」
俺は志摩の脚を大きく開いて、高く持ち上げた。
ヒクついたそこが俺を求めて止まないみたいに、俺もそこに入りたくて仕方がなかった。
早く志摩の熱いそこに、自分の熱を放ちたくて。
「ん───…っ!あっあ…やあぁ──…っ!!」
上から体重をかけながら、俺は志摩の中に自分を沈めた。
思った以上に熱いそこのせいで、俺まで溶けてしまいそうだ。
痛みに耐えながら俺を受け入れる志摩がいじらしくて、何度もキスをする。
「あ…ぁっ、あっあぁん!やぁ…んっ!」
毛足の長い絨毯が濡れた身体に張り付く。
俺の額からは汗が流れて、時々志摩の頬にぽたりと落ちた。
「隼人っ、俺変…っ、変なの…っ!あっ、や…っ!」
「変じゃない…っ。」
変なのは俺も同じだ。
いや、俺の方がもしかしたら変かもしれない。
泣きながら喘ぐ志摩を激しく揺さ振って、一番高いところを目指した。
「や…いっちゃうっ!隼人いっちゃうっ、や…ああぁ───…っ!!」
「志摩……っ。」
すぐに志摩が達するのと同時に、俺は志摩の中に塊のような熱を放った。