日中はそれぞれ行きたいところへ行って楽しんだ俺達は、日が暮れると共に再び集合した。
どうやらホテルを貸し切ってのパーティーまで開いてくれるらしい。
ホテルというかまずこの島自体を貸し切っているのだから普通では有り得ない話だった。
俺達はとりあえずと荷物を置いた広い部屋で着替えを済ませ、その会場となる中庭へ向かった。
「シロー、いっぱいご馳走があるよー!」
「おぉ~、ホントだ!」
屋外のテーブルの上に置かれた豪華な食事を見て、シロもシマも目を輝かせている。
今にもヨダレを垂らしそうな勢いなのが可笑しい。
それにしても、俺は前々から少し気になっていたことがある。
「なぁ、あれってお前の趣味か?」
「なんのことです…?」
俺は近くにいた水島の服の袖を引っ張って、皆に聞こえないように小声で問い質した。
はっきりと言わない俺の言葉の意味がわからないということは水島の趣味ではないということなのだろうか…。
「だからシマたんの服だよ。」
「あぁ…。」
「お前がさせてんのか?そういやお前ミニスカートが好きだったもんなぁ?」
「ち、違いますよ…!ちゃんと下にズボン穿いてるでしょう?!よく見て下さいよ。」
「あぁ、ホントだ…。でもありゃ誤解されんぞ。」
「わ、わかってますよ…だから俺だって止めたんですってば…。」
このホテルに準備されていた、いわゆるリゾートで着るような花柄のヒラヒラの服をシマは着ていた。
確かに下に半ズボンを穿いているけれど、パッと見た目た感じは女が着るワンピースにしか見えない。
シマのそれは前からで、クリスマスの時もサンタクロースの女版の格好をしていた。
あの時水島は俺達の前でシマを叱った後どこかへ連れて行ったけれど、
もしかしてあれはカモフラージュで実はこいつの趣味なんじゃないかと疑っていたのだ。
「隼人ーどうしたの?亮平くんもー。」
「あっ、シマたんっ。これはあれだ…そのーシマたんは今日も可愛いなーって…。」
「えっ!ホ、ホント…?!」
「おー、可愛いぞー。なぁ水島っ?!」
「え……あ……あ…うん…。」
「えへへ、嬉しいです…!」
そのシマ本人が傍に駆け寄って来てしまったために俺達の話は中断されてしまった。
しかし近くで見ると男なのか女なのか見分けがつかないぐらいだ。
シマ自身はそれを気にしているらしいから、言わないようにはしているけれど。
「亮平っ、亮平の好きな唐揚げいっぱいあるぞ!」
「お、おう、今行く。」
俺はいつもそうなのだが、他のやつらのことを気にし過ぎだ。
今俺が好きなのはシロであって、他の奴らなんてどうでもいいのに。
それはどこかでやっぱり戸惑っているせいもある。
初めて男とこんな風に…いや、それ以前に猫と、だなんて…。
だけど俺はそうなることは悪いことだとは決して思っていない。
そんな戸惑いや迷いが一切なくなってしまったら、恋なんて終わってしまう気がするのだ。
そういう部分もすべて含めて、俺はシロと一緒に生きていきたいと思っている。
「わぁ!そ、そのお魚は何ですかっ?!」
「ホ、ホントだ…あそこで泳いでた魚だ…!」
「あぁ、君達が抱き合っている横で獲っていたんだ。なかなか美味しい魚なんだ、ほら。」
何やらバーベキューの準備をしていたところで、桃と紅が悲鳴を上げる。
魚を獲りに行くと言っていた二人は、結局目の前で泳いでいる魚を獲るのが可哀想になって獲って来なかったらしい。
その代わりなのか何なのか、遠野自ら獲って来た魚を火にかけていたのだ。
「に…人間って残酷ですぅ~!うわん紅ぃ~!!」
「っていうかずっと見てたのかよ…っ?!」
「気にしなくていいぞ。誰も君達があそこでセックスしようとしていたことなんて気にしていない。安心してくれ!」
「そんなことしてないですっ!!うわん嫌ですこの人間~!!」
「お…お前さては青城の仲間だなっ?!」
「仲間?それはないな。ただ俺は嘘は嫌いなんだ!」
可哀想で獲れなかったというのは言い訳ということだったらしい。
まんまと遠野が真相をバラしてしまって、桃と紅は真っ赤になっている。
「へえぇー交尾しようとしてたのか?水中で挿入ってことか?!そりゃすげぇプレイだなぁ。」
「アオギーすいちゅって何ー?」
「お前は少し言動を控えられぬのか!」
「ぎ、銀華落ち着いて…。」
「控えられませーん。なーシマにゃんこー?」
「なー?」
「わ、私はお前のそういうところが前々から気に入らぬと…!」
「ぎ、銀華落ち着けって!ほら、魚も焼けてきたところだし!」
俺は猫神と気が合わないと思っていたが、俺以上に気の合わない奴がいることをここに来てから知った。
俺自身もあんなのが神様なのか?と思ったぐらいだ、猫神にしてみればもっと気に障るところだろう。
これで俺に向けられる敵対心が少しは減ってくれればいいとは思うが…そう簡単にいかないのが猫神の性格なんだということは知っている。
しかしその青城より凄いのはその恋人の猫のシマだ。
あの猫神相手にここまで普通にしていられるとは、あいつが一番の大物なのかもしれない。
「亮平…、なんか飛んでる…!」
「え…?!」
シロに肩を叩かれて、細い指が指す空を見上げる。
そこには大きな機体が二機、轟音を立てて飛んで来たのだ。
まさかとは思ったけれど…これはクリスマスの時と一緒のシチュエーションに思えて仕方がない。
「王子ーっ!!お待ち下さーい!式典の途中で抜けるとは何事ですかーっ?!いいですかあなたは次期国王なのですよー…っ!(以下略)」
「もーっ、ファボルトってばしつこいよー!いいじゃんそんなのー…っ!」
「ロシュっ、てめぇ後で覚えてろよー!!んなに揺らすんじゃねぇバカヤロー…っ!!」
俺の予感は見事に的中してしまった。
国の式典で来れないと言っていたロシュが、リゼと共になんと飛行機で現れたのだ。
その後を追い掛けるようにしてファボルトが追う。
しかしここまで来て「お待ち下さい」というのも遅い気がするのは俺だけだろうか…。
「わーい、ロシュだ!ロシュだー!」
「シマ~、よかったなぁ、ロシュ来てくれたんだな!」
俺はその勢いと轟音に圧倒されながら、シロとシマがはしゃぐのを眺めていた。
そしてこの後もっとややこしいことになることを考えると溜め息が漏れた。