「み、水着美少年がいない…?!」
プールサイドでトロピカルドリンクを片手にナンパ大作戦を企てた俺は撃沈した。
そのプールに行ったのはいいが、肝心の美少年が一人もいないのだ。
せっかく小さくて可愛い美少年に囲まれていい思いをしようと思っていたのに…。
なんてことだ…、何か事件でも起きたっていうのか…?!
「馬鹿者。説明を読まなかったのか。」
「は…?説明…?」
沈む俺の横では銀華が涼しそうな顔をしている。
相変わらず冷静というか俺に対して冷たいというか…。
「お前は貸切の意味もわからぬか。それでよくぞ神なんぞ言えたものだ。」
「それぐらい俺だって……。」(実は浮かれてほとんど読んでなかったけど)
「それにお前の考えていることは不純過ぎる。美少年などと…神として恥ずかしくはないのか。」
「小さいのが好きなのは神様と関係ないだろ?そりゃ俺の趣味なんだから。」
「桃と紅が気の毒だな、このような馬鹿者に指導されているのだからな。」
「あのなぁ、お前さっきからバカバカ言うなよ…。」
俺とこの銀華は、昔から仲が悪い。
いや、俺としては円満にやっていきたいと思っていたし、仲良くしようと思っていた。
だけど俺の最初の態度が気に入らなかったのか、何年経ってもこんな感じだ。
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いのだ。」
「なんだよ、そんなにケツ触ったこと恨んでんのかよ?」
「お…お前のそういうところが私は…っ!」
「はいはい、嫌いなんだろ?わかってますよーだ。」
そう、俺は出会ってすぐの挨拶代わりに銀華の尻を触ってしまった。
だけどそんなのは本当にちょっとだけ触っただけで、気にするほどのことでもない。
それを何年も恨まれて、未だに仲の悪いままなのだ。
「わーい、水だ水だーアオギ、凄いねー。」
「そうか、シマにゃんこはプールは初めてか?」
なんとかそれを修正しようとしても、相手が嫌がっていては仕方がない。
とにかく今はせっかくの旅行を楽しむことを考えた。
なんと言っても、俺の恋人のシマとの初めての旅行なんだから。
「うんっ!じゃあ泳いでくるー…。」
「あー!!こらこらシマにゃんこっ!!」
「う?」
「こ、ここはお風呂じゃないんだぞ!生尻はいかんぞ!ちゃんとほら、水着ってもんを着てだな…!」
恋人のシマは、つい最近この姿になったばかりだ。
この姿になってもまだまだ、猫としてもまだ小さい子猫だった。
だから常識なんてものはほとんど知らない。
俺は最初、それを利用してシマを手に入れようとした。
だけどそれが罪悪感に変わり、いつの間にか本気で恋をしてしまっていた。
結ばれた今でもシマはまだまだ何も知らなくて、ハラハラさせられる場面が度々ある。
「え…!そうなの?!」
「そうそう、ほら、これ着て…な?」
「はーい。」
「はー、危ねー危ねー…。」
今日の一発目はまず水着のことだった。
シマはプールに入ったこともなければ見たこともない。
初めて見る大きなプールを家にある風呂と同じだと思ったのか、突然服を脱ぎ出してしまったのだ。
いくら皆の前で交尾をしようと言っている俺でも、シマの裸は他の誰にも見せたくはない。
「シマにゃん、一緒に遊ぼうか?」
「うんっ、えっと…洋ちゃん!」
「おっ?俺の名前覚えててくれたのか?」
「うんっ!えへへ、遊ぼ、遊ぼー!」
慌てる俺をよそに、銀華はやっぱり涼しい顔をしていた。
他人事だと思っているのか、心の中でバカにしているのか…真意はわからないが。
「さてと、俺も入るかなー?」
「勝手にしたらどうだ。」
「あれ?お前は?入らないのか?」
「わ、私は…。」
ところがそんな銀華の表情が急に変わってしまった。
俺も続いてプールに入ろうと服を脱いでも、銀華は黙って座ったままだ。
自分の恋人はもうプールで楽しんでいるのに、立ち上がろうともしない。
「何?具合でも悪いのか?」
「そうではない…よいから放って置け。」
「へえぇー…ふうぅーん…。おーい、銀華の恋人さんよー!」
「ば、馬鹿者っ!何をしているのだ…っ!」
「いやぁ、具合悪いなら言ったほうがいいと思って…。」
「違うと言っているだろう!」
これは何かある、そう思った俺はニヤリと笑いながらその恋人に向かって叫んだ。
こういうことをするから嫌われるとわかっておきながら俺も懲りない奴だ。
だけどこんな冗談を言うぐらいしか打ち解ける方法が俺には思いつかない。
その冗談が嫌いな奴に言う俺も俺だけど。
「違う?じゃあ何?どうしたのかなー?」
「ひ、人前で…。」
「何?青城聞こえなーい♪」
「う、五月蝿い…っ、人前で肌など曝せるかと言ったのだっ!」
俺がふざけて問いただすと、銀華は俯いて真っ赤になりながら告白した。
なんだ…案外可愛いところがあるんだな…。
そう思ってもうからかうのはやめようかと思ったけれど、やっぱり俺は俺のやり方を貫いてしまった。
「え…、だって曝してるだろ?交尾の時。」
「な……!」
「それとも服着たまんまするのか?んーまぁそれも有りだけどなぁ…俺はやっぱり素っ裸の方が…。」
「お…、お前なんぞ大っ嫌いだっ!!」
また言われてしまった…「大嫌い」。
しかも初めて会った時と同じく凄いビンタ付きだ。
俺はこの先こいつと仲良くなんて出来ないような気がする。
気だけではなく、確実に出来ないと思う。
「ぎ、銀華…。」
「アオギ…、銀ちゃんととうわきなのー?」
銀華に一撃を食らって、プールの方を見ると二人が眉をひそめて悲しい目をしていた。
その表情がなぜだかそっくりで、俺は思わず吹き出しそうになってしまった。
「ごめんごめん、シマと遊んでくれてありがとな。」
「あ…いや、それは別にいいけど…。」
「寂しがってるぞ、あいつ。俺の前では言わないけどな…くくっ。」
「あ…、うん…!」
俺は水面に浮かぶシマを抱き寄せて、銀華の恋人に礼を言った。
彼は急いでプールから上がると銀華の元へ走って行く。
俺には出来ない、銀華の笑顔を作ることが出来る唯一の人間だ。
「アオギー、楽しいねー。」
「そうだなーシマにゃんこー。」
そして俺もこのシマにとって唯一の人間…いや、猫でありたい。
シマの小さな身体を抱き締めながら、そう思った。