クリスマス・イブの前の日、俺はつい遠野とのエッチに夢中になってしまった。
夢中になってたからこそ、忘れていたんだ。
遠野が変に拘りがあるというか、あいつの中で決まりがあるってことを。
「遠野、起きろっ、もう準備しないと…。」
隣で眠る遠野の肩を揺らす。
あれから俺達は高校を無事(でもないような…)卒業し、大学へ進んで、なんと二人暮らしをしている。
まぁなんつーかその、同棲ってやつだな。
遠野は時々父親の会社の仕事なんかやってるけど。
ラブラブ携帯なんて有り得ないもんが本当に発売されたりして。
そんな遠野の文通相手が日本に来るからクリスマス・パーティーを開くって言って、一緒に行こうとか言ったクセに…。
「遠野ってばよ、起きろって。」
ちょっとは、いや、ちょっとどころじゃなく楽しみにしてたりしたんだよな。
高校卒業してやっと俺達のホモの噂を知ってる人がいなく…、なったりはしてないんだけど、とりあえず寮じゃないし、朝帰りだって泊まりだってできるようになったんだ。
なのに遠野は一向に起きようとしない。
「おい、遠野、ホントに間に合わなくなるぞ…。」
すーすー寝息をたてて眠っている遠野の顔は、普段のあの突拍子もない性格とは別人みたいだ。
よく見ると睫毛は長いし、唇の形も綺麗で、いわゆる美少年だと思う。
「こら、お…、お寝坊さん♪」
なーんて、キスで起こしたりしてな。
俺って結構ラブラブっての好きなんだよな。
遠野があんなだから全然そういう雰囲気じゃないけど。
「名取。」
「うわっ!びっくりしたっ!!なんだよ急に…。」
「無理だ。まだ起きない。」
「はっ?!」
起きないって、何言い切ってんだ??
つか今、目ぱっちり開けたよな…。
これって起きてるんじゃないのか??
「俺が1日8時間眠らなきゃいけないのは知ってるだろ。だから寝る。」
「寝るってお前!!ちょっと頑張って起きれるだろ?!」
「名取、だから昨日やめようって言ったんだ。」
「ぎゃ!お、俺のせい?!」
「そうだ。じゃあおやすみ。」
「ちょ、待てよっ!遠野っ、起きろっ、起きてくれー、起きて下さいーーー!!」
こうして、俺達は大遅刻をすることとなった。
俺のせいにしてもいいんだ。
問題はそこじゃなくて、こいつが全部そういうこと喋っちゃうってことなんだよ。
悪気がないのはわかるんだけど、あることないこと…。
いや、エッチしたのは事実だからあること、なんだけど。
世間を上手く渡って行こうって俺の気持ちなんかお構い無しだもんな…。
俺、なんか可哀想になってきたな…。
なんで仮にも夫なのにこんな立場弱いんだ…。
それで、やっと起きたかと思ったらこいつ、
「時間がないから自家用機で行くぞ。」
なんて言いやがって、嫌な予感はしたんだ。
自家用車、じゃなくて自家用機って言うから。
準備を終えた遠野は、突然空に向かって笛を吹いた。
すると、どこからか鳥…、いや、ヘリが飛んできたのだ。
一体それどんな笛だよ!!って感じだよな。
二人で住んでいるマンションの裏の公園が実はヘリポートだったっていうのも、俺は今日知って、なんだか俺、遠野に騙されてるんじゃないだろうか…。
振り回されて、いいように扱われて。
そんな不安がほんの少しだけ、この時胸をよぎった。
高い所が苦手な俺は、真っ青になりながら、ヘリで会場へ着いた。
そこには文通相手のロシュや、その奥さん、更に友達までもいた。
その友達のうちの二人は、偶然にも前に街で会ったことがあった。
そういやあん時も遠野の奴、堂々と俺との写真なんか…。
「ねーねーお兄さん、あのお兄さんとラブラブなんだねー、いいなぁー。」
「…え?そ、そう見えるか?」
そのうちの一人のシマという少年が、パーティーの途中で話し掛けてきた。
小さくて、多分まだ中学生とかそのぐらいの幼い感じだ。
「うん!俺も隼人とラブラブになりたいー。」
「そっかぁ…見えるのか…。ふふ…。」
「あれ?お兄さん??どうしたの?どっか行ってるー。」
「遠野とラブラブか~…。」
ラブラブ…遠野とラブラブ…。
「隼人ーあのお兄さんも変だよー!」
「志摩、それは失礼だろ…。」
そんなシマの言葉なんか気にならないぐらい、浸ってしまった。
なんだ、他人からはちゃんとそう見えてるのか。
ってことは遠野も俺にベタ惚れってことで。
ふふふ…今夜は(も)燃えるぜ、俺!
さっきの不安なんか、どこかへ行ってしまっていた。