久々というほどでもないけれど、俺とロシュは日本へやって来た。
ついでにファボルトも一緒なのはいつものことだ。
ロシュが、クリスマスは日本でやろうよーなんて言い出したからだ。
俺のことを喜ばせようとしているのはわかる。
口には出さないけれど、俺としてもそれは嬉しい。
口に出さないのは、ロシュの奴が調子に乗るからだ。
それに、俺がそんな素直に喜んだなんて、恥ずかしいったらない。
いい加減、ちょっとは素直になれよ、とか周りに言われそうだけど。
「リゼぇ~、これ、リゼのために用意したの!僕トナカイねっ☆」
「…は?トナカイ?何言って……バ、バカっ!!」
「どうしたの?リゼ??なんか怒ってる??」
「怒るに決まってんだろっ!なんだこれ!なんで俺がスカート穿かなきゃなんねぇんだよっ!」
ヒラヒラした赤と白の衣装を手渡され、広げてみるとそれは、クリスマスに女がコスプレするサンタの衣装だった。
どう見ても下が広がっていて、ズボンというものがないんだ。
「え~、リゼ似合うと思うよ~?」
「似合う似合わないの問題じゃねぇっ!誰が着るかこんなもんっ!」
「ひどーい、せっかく用意したのに~。」
「頼んでねぇし!ひどいのはお前だろうがっ!」
そんな日常によくある喧嘩のようなやり取りをしていた時だった。
部屋のドアがコンコン、と二つ揃って鳴って、外からデカい声が掛けられた。
「ロシュ~、オレだ!」
「ロシュー、リゼー入っていいですか!」
「はーいどうぞ~!」
それは、春に花見に来た時、ロシュがこの歳で迷子になって、助けてくれた奴だ。
シロ、というちょっと変わった名前の男で、俺より背が低くて目がデカくて、いわゆる可愛い系の男だ。
男というか、少年と言ったほうが合うかもしれない。
それと、その傍にくっついているのは、更に小さい男で、シロの隣に住んでいる友達らしい。
シマ、とかいうこれまた名前まで可愛い奴だ。
ロシュのバカたれが、友達いっぱい呼んでね、とか言ったらしい。
それで日本に行こう、って言って内容聞かされたのは出発の前日だ。
なんでそこまで俺のためにするのかがわからない。
いや、わかってるんだけど、俺がどうしていいかわからない。
「あ~!ロシュトナカイだ!」
「ホントだ、カッコいいねー!ねー!」
「ホント?!やったぁ!リゼぇ~。」
「うるせぇよ。」
その格好のどこがカッコいいって言うんだよ。
さすがはこいつと気が合うだけあって感覚がロシュと一緒だな。
別に、バカにしてるわけじゃないけど、俺はそういうのがわからないからだ。
ちょっとだけ、羨ましいっていうのもある。
「ねーねー、これは??ここに置いてあるの。」
「あっ、それは!聞いてよ~、リゼったら着てくれないんだよ~?」
「ハイっ!俺、着たいですっ!これ着たいっ、貸してっ!お願い!!」
「シマ似合うと思う~。オレもトナカイいいなぁ…。」
…いや、さすがにおかしいだろそれは。
進んでスカート穿くなんて俺には絶対できねぇ。
結局俺とコスプレがしたかったらしいロシュは、トナカイをシロに貸すことにした。
だけどロシュとシロじゃ身体の大きさが違い過ぎる。
シロは泣く泣く諦めて、シマもやめるかと思ったら、自分の恋人のためだと言って、着たままだった。
パーティーは、俺達と、シロ、シマそれぞれのカップル、それから花見の時の藤代さんカップル、ロシュの文通相手がヘリで登場とかして、賑やかに騒いで何事もなく終わった。
ロシュはご機嫌で部屋に帰って来て風呂にいる。
鼻歌なんか歌いやがって、ホントにお調子者でバカな奴だ。
俺はというとベッドに横になりながら、テレビを眺めていた。
それにしても、ロシュの奴…、あんな格好俺にさせようとしやがって。
そんで俺が着ないってなって、あのシマとかいうのベタ褒めしてた。
可愛いならなんでもいいのかよ…。
いや、別に俺は自分のこと可愛いなんて気色悪いこと思ってないけど、あいつが可愛いっていつもうるさいから…。
「何がうるさいの?」
「あ?だからお前が……ロシュっ!」
「どうしたのリゼ?顔が赤いよ?」
「な、なんでもねぇよっ、風呂入ってくるっ!」
「あっ、リゼ~待ってよ~。」
「待たねぇ!風呂入るっつってんだろっ!」
しゅんとなるロシュを無視して、風呂へと向かった。
こんなのはみっともない。
この俺がそんなこと考えてモヤモヤしてるなんて。
ロシュにバレたらまた調子に乗るに決まってるんだ…。
「えへへっ、リ~ゼ♪」
「あ?なんだよ。くっつくなって言ってんだろ。おいロシュ…っ。」
「メリー・クリスマス☆」
「わっ!なんだよこれ…薔薇?」
風呂から上がった俺を、ロシュが笑顔で出迎えた。
ベタベタひっついてくるのを振り払おうとしたら、目の前に花束が差し出された。
前に俺のために新種作った、って言って渡されたのと、ちょっと似てる…。
「プリンセス・クリスマスって言うの。」
「プリンセ…、俺は姫じゃねぇっつってんだろ。」
「僕にとっては姫なの!また新種作っちゃった☆」
「…あぁ…。」
作っちゃった、なんて陽気に言うなよ…。
目の前の花束は、花弁は前と同じ色だけど、その根本が本当に僅かだけど、グリーンの色合いをしている。
目を凝らせて見ないとわからないぐらいだけど。
「なぁ。」
「なぁにリゼ?僕えらい?嬉しい?えっちしようよ~。」
「それはいいから!お前さ…。」
「どうしたのリゼ、さっきから変だよ~?」
バカか俺は…。
ちょっと感動したからってうっかり口開いて。
こいつに素直なところ見せつけられると、俺まで素直にならなきゃいけない気がするんだ。
なんだか嫌な効果だよな…。
実は俺もロシュにプレゼントって程でもないけど、用意をしていた。
このアホがちょっとでも直るよう、本にした。
恥ずかしいから包装も何もなしの、こいつの好きな日本の本だ。
ロシュが風呂から上がった時、咄嗟に枕の下に隠した。
でもそれより先に、気になっていたことを言おうと思った。
「お前、あぁいうのが…好きなのか…?」
「あぁいうの??なんのこと??」
「だからあの、シロとかシマって奴みたいな小さいので可愛いので…。」
「えー?リゼもちっちゃくて可愛いよ~?」
「そういう話じゃねぇ!だからだな…。」
「あれっ?リゼ、もしかしてそれってやきもちだよね?」
もしかして、なのに、だよね?なんて決め付けるなよ。
そこでそうだ、なんて言えるわけないだろ。
俺は俯いて、何も言えなくなってしまった。
「えへへ、リゼ、えっちしよ!」
「は?なんでそうなるんだ?お前の頭ってどうなってるんだよっ!」
「やきもちやくっていうことはリゼは僕を好きってことだからえっち!」
「繋がってねぇよ!!バカっ、離せっ、やめろってロシュ…っ!」
なんでそういつも話が飛躍するんだこいつは。
飛躍というかまったく別の方向に行ってるじゃねぇか。
しかも俺も俺で、絶対流されて、それに応えちまうんだ。
ロシュの言う通り、好きなのは間違ってはないから。