クリスマス・パーティーをやる、というその会場のホテルで、志摩が、妙な…、とんでもない格好をして待っていた。
志摩サンタだよー、なんてあまりにも呑気に言うもんだから、俺は多分吹っかけたであろう藤代さんを責めた。
暫くは黙っていたけれど、寒くなって来たから着替えるという志摩に、手伝う、なんて言い訳をしてついて行った。
「隼人、ついてきてくれてありがとー。」
無邪気に笑う志摩はこれから俺が何をしようとしているか知らない。
その笑顔に少しだけ伸ばす手が躊躇した。
会場の広い部屋(おそらく何かの催し物に使うかなんか)の、洗面所なんかがあるスペースに入った志摩は、持って来た自分の服を取り出していた。
「なんでこんな格好してるんだ?」
「え…?は、隼人っ?!」
俺の言葉で振り向いた志摩を、壁に押し付けて、着ている衣装の裾から手を突っ込んだ。
びっくりしたように志摩の身体が跳ねる。
「あの…、隼人、俺着替えは一人ででき…、や…っ!」
「わざとだろ?誘ってるんだろ?」
「違…、あっ、やだっ、隼人…っ、んっ。」
「静かにしないと皆に聞こえる。」
真っ赤になって抵抗する志摩をキスで黙らせ、スカートになったその服の中に、手を下着の上部まで忍び込ませた。
更にその中へ手を素早く入れて、キスだけで早くも固くなり始めていたそれを、掌で包み込むようにして愛撫する。
「やぁっ、や…、隼人…っ!」
先走りで濡れた先端から指先で撫でて、完全に勃ち上がったそれを愛撫し続ける。
静かにしなきゃ聞こえるなんて言っておいて、こんな声を出させているのは自分のせいなのに。
しかも向こうまでは結構な距離があるし、騒いでいるんだから聞こえることはないと思うのに、志摩に意地悪なことを言ってこんなことをしている。
涙で潤んだ目の下を舐めながら、擦る手の速さを上げた。
「やだよ…っ、汚れちゃうっ、隼人っ、俺いっちゃう…っ。」
「いいよ、汚れたら俺が全部舐めてやるよ。」
こんな顔させただけで満足すればいいのに、俺はどこまで志摩に対して意地悪で、素直になれないんだろう。
これで嫌われたらどうするんだ…。
「やだぁっ、恥ずかし…っ、やっ、ホントにい………っっ!!」
高い声をあげて、志摩は俺の手の中に放った。
それを言った通り綺麗に舐めたと同時に、志摩が床にぺたりと沈み込んだ。
「う…っ、隼人、怒ってる…、ごめんなさい…っ、ごめんなさい…っ。」
半分泣き出してしまった志摩を見て、やっと我に返った。
俺はなんてことをしてしまったんだ…。
俺が悪いのに、なんでお前が謝るんだよ…。
「ごめん…、志摩…。」
「…へ?どうして隼人が謝るの??」
「いや、俺が悪かった、その…、お前がそんな格好するから…。」
「それって俺が悪いんじゃないの…?」
「違う…、だから、その、他の奴の前でそんな格好するから…。」
「その、それって…、や、やきもち、ですか…。」
今度は俺が恥ずかしい番だった。
バカだなぁと自分でも思う。
どうしてその場で、言えないんだ。
どうしてそれを示すのにこんなに遠回りしてしまうんだ。
我ながらこの性格には、いい加減嫌気が差す。
「えへへ、隼人ー。」
「…もうわかったら早く着替えろよ。」
「ハイっ!着替えます!」
「……はぁ…。」
志摩はたちまち笑顔になって、俺のところまで駆け寄ってきて抱き付いてくる。
これ以上俺を挑発してどうするんだ…。
志摩自身はそんなつもりは更々ないっていうのがわかるから尚更質が悪い。
溜め息を深く吐いて、頭を抱えた。
「えへへっ、早く戻ろうよー。いっぱいエビフライ食べよー?」
着替えを済ませた志摩はしきりに俺の服の袖を引っ張る。
エビフライはお前の大好物だろ…。
まったく、志摩には敵わない。
この俺の熱くなってしまった身体と心をどうしてくれるんだ。
引き摺られるようにして、そこのドアを開けようとした志摩に、後ろから耳元で小さく囁いた。
「後で続きするからな…。」
パーティーに戻った時、目ざとい藤代さんには俺達の行為を読まれていた。
普段志摩がペラペラうちのそういう事情を喋るもんだから、今のことだけは黙らせるためにまた怒ってなんとか阻止した。
俺が嫉妬した、なんて、似合わないにも程がある。
***
パーティーも終わって、そのフロアにある部屋へ泊まることになった。
さっきのことなんか志摩は覚えてもいないのか、わくわくしながら広いベッドで跳ねたり部屋を見回していた後、とりあえず疲れたからと、それぞれシャワーを浴びた。
「あっ、隼人ー、あのね…あのね…。」
「何?」
濡れた髪をタオルで擦っていると、先にシャワーを浴びて待っていた志摩が、持って来たやたら大きいバッグをゴソゴソ漁っている。
まるで旅行にでも行くのかというそのバッグには、 ご馳走余ったら持って帰っていいかなぁ?
なんてあつかましいことをするためのタッパやら着替えやらを詰め込んで来たらしい。
ホテルにタッパなんか持って来るのがあんまり可笑しくて、それを見た時は思い切り吹き出してしまった。
「えっと、うんと、プレゼントです!」
「…え。」
「隼人、バイトの行き帰り寒そうだから。」
「マフラー…?」
「ハイっ!作ったんです!」
「作ったってな…。」
男が男に手編みのマフラーって…。
色がピンクとかじゃなくて俺好みの淡いブルーだったのがせめてもの救いだけど。
あとは、変な恥ずかしい文字とかが入ってなくてよかったけど。
そんなことやるカップルが世の中にいるんだろうか。
志摩らしいと言えば志摩らしいけど、さすがにそれ巻いて行く勇気はないな…。
「やっぱりいらない…かな…。」
俺の態度と表情で、志摩はしゅんとなって落ち込んでしまった。
自分で勝手に寄越したクセに、可笑しい奴だな…。
可笑しくて、可愛くて、好きで、俺はどうしようもないんだ。
「いらなくない、志摩、ありがとう…、けどこれ…。」
「あっ、外出る時じゃなくてもいいの!家でもいいの。」
「ぷ…、家でマフラーなんか普通しないだろ。」
「隼人、笑ったー、よかったー。」
「じゃなくて、この長さはなんだよ?」
「あ…、それはその、あんまり隼人の喜ぶ顔想像してたら夢中になっちゃって…。二人で一緒に巻くとか!」
堪らなくなって、持っていたマフラーを放り出して志摩を抱き締めた。
俺のことを思って編んだそれは、軽く2mもあろうかという長さで、その思いの深さに、感動すら覚えてしまった。