シロとその隣に住む、志摩という子供が、私の処へやって来たのは10日程前のことだった。
キリストの聖誕を祝う会など私には興味なかったのだが、あまりにも二人が瞳を輝かせて言うものだから、半ば強引に承諾した。
その会も無事に終わり、私と洋平は同じ階の和室の有る部屋に居た。
最近越した家も和室が一部屋あり、花を生ける時などはやはり畳が落ち着く。
洋平も其れをわかって、そのような部屋を選んだのだ。
一風呂浴びて、用意された浴衣を羽織り茶を啜りながら寛いでいる時だった。
洋平が座椅子の上で何やら袖を探っている。
「あのさ、銀華、これ…。」
「何だ。」
「いや、なんつーか…、お前がこういうイベントとか嫌いなのは知ってるけど…。」
「だから何だと言っている。」
躊躇してなかなかそれを出さない洋平に多少苛々しながら、その先を急かした。
強く言われて出された洋平の掌には、小さな箱が載っていた。
開けて見てと、目線で促され、その蓋を取り去ると、そこには銀色に光る物が入っていた。
「此れは…。」
「うーん、クリスマス・プレゼントってやつ。」
「クリスマス…。」
「そう。銀華、顔が派手だから…いや、派手は違うな、目立つ…、いや、なんて言っていいかわかんねーけど…、
シンプルなのが似合うと思って。あっ、別にデザインの説明はいいか。」
「シンプル…。」
何の飾り気もない指輪を、傷付けないようにそっと取り出す。
丁度部屋のぼんやりとした明かりで、その淵が鈍く光った。
「嵌めてみてくれる?」
「あぁ…。」
言われるが儘、洋平の指差した左手薬指へと嵌め込んだ。
「げ!やっぱ勘じゃダメか~。」
「少々大きいな。」
「だって聞くわけにいかないだろ、内緒なんだから。うわー失敗したな。」
「しかしこちらの指になら入るが。」
洋平は指で輪を作りながら、私の指と見比べた。
どうやら寸法を間違えたようで、やや緩い。
指輪を一度取り外し、別の指に嵌めてみると、丁度よい太さだった。
「あ~、でもせっかくならその指がいいんだよなー…。」
「何かあるのか。」
「えっ、知らないのか?あっ、そうか…猫の世界にそんなのないか…。」
「一体何があるのだ。」
「結婚指輪ってここに嵌めるんだよ。婚約指輪とか。あと、恋人がいるって印でも若い奴はよく使うかな。」
「結婚…。」
「いや、まぁできないんだけどさ…。」
「それはそうだな。」
指輪という物の存在はさすがの私でも知っていた。
だがそのような意味があったのは知らなかったのだ。
しかし洋平の言う通り、結婚など出来るわけがないのだ。
「ごめん、あのさ、我儘っていうか勝手なんだけど、俺のものって、目で見て感じたくて…。」
「洋平…。」
照れくさそうに言う洋平の頬が僅かに桜色に染まる。
私は何と鈍いのだろう。
そのような台詞を言われて気付くとは。
その刹那、何とも表現し難い思いに駆られた。
迷いなどなかった、躊躇いなど…。
思うが儘に洋平の傍に寄り、自ら口づけをした。
「銀…?どうした?」
「…直ぐ……。」
その私の行動に洋平は驚いて目を大きく見開いた。
私も吃驚しているぐらいなのだから、当然のことだろう。
しかしその後に吐いた台詞は、一生言うことも無いかもしれない台詞だった。
「今直ぐ、私を抱いてくれぬか。」
***
信じられぬ行動というものは重なるものだ。
長い口づけを交わした後、私は座椅子に座る洋平の下半身へ顔を埋めた。
この行為は初めてではなかった。
だが私から仕掛け、私が進んで、これ程望んで施したことは無い。
「銀…っ、いいって…。」
洋平の口からは、溜め息混じりの喘ぎが漏れる。
私に聞こえぬようにしているのか、半分掌で口元を覆っている。
舌を絡ませ、唾液を絡ませ、息が上がってしまう程、其処を丁寧に愛撫した。
「やばいって…っ、マジ…。」
然程時間は経っていなかった。
濡れた音と一緒に、私の口内に生温かいものが吐き出される音がした。
直ぐにその液体は喉元を通り過ぎて行った。
「バカ…、飲むなよそんなもん…。ごめん、苦しいだろ?吐けって。」
「よいのだ…っ。」
僅かに漏れたそれを、洋平の指先が拭い去る。
確かに少々苦しさもあったようで、私の視界が涙で滲んでいた。
「洋平、私を…。」
「うん。」
お前の物だと言うならば、この身体まで所有して欲しい。
激しく抱いて、忘れられぬような痕を、印を付けて欲しい。
其れしか私には、洋平に贈るものが無い。
「銀の全部を見せて。」
「……っ。」
今頃になって羞恥心などという邪魔な物が現れてしまった。
洋平の前で膝立ちになった私は、浴衣を自らの手で肌蹴た。
部屋の照明を消して小さな枕元に置く電球のみにした為、少しは助かった。
そうでなければ、私の顔が炎の如く赤く燃え上がっていたのを見られていたに違いない。