パーティーが終わって、ロシュの言っていた通り、俺達はそれぞれの相手と、ホテルに泊まることにした。
最上階を貸し切っているから、どこを使ってもいいと言われ、俺としてはどこでもよかった。
どの部屋も夜の海が見える、絶景だったから。
だけどシロがどうしてもこの部屋!と言って聞かないので、シロの言う部屋を選んでその中へ入った。
半分眠っていたシロも、パーティーをお開きにしよう、とロシュが言ったのを聞いて、突然パッチリと瞳を開けて起きてしまった。
いつもならそのまま寝てしまうっていうのに変だな…。
部屋のことと言い、一体何があるんだ…?
「亮平!風呂!デカい風呂あった。」
「なんだ?一緒に入るか?」
「ち、違うってば…!いいから入って来て!」
「…はいはい。」
なんか隠してるなこれは…。
でもまぁちょうど俺も、シロには内緒の用があったんだよな。
俺もそうやってシロを追い出すか。
シロ、お前の驚く顔が早く見てぇよ…。
言われるがまま、風呂へ行き、熱いシャワーを浴びて、僅かな時間、浴槽に浸かった。
用意されたバスローブを着たほうが楽なんだけど、このままで部屋を出るわけにいかないから、着ていた服をもう一度着込む。
「シロー?上がったぞ。お前も入って来い。」
「え…、オレはいいっ!」
「なんでだよ、いいからホラ、せっかくまた湯溜めてんだからよ。」
「う…う…、…うん…。」
シロは困ったような動揺したような表情で、俺に押されて風呂場へと向かった。
その隙に俺は、用を済ませて部屋へ再び戻って来た。
その瞬間、物凄い音が、眩しい閃光と共に響いた。
「な…、な、なんだこれ…!!」
「あ~!!やっぱり間に合わなかった~!!亮平っ、早く外っ!」
シロが真っ赤な顔で、風呂から出て来た。
下半身はきちんと着ていたものの、上半身はなぜかタオルで隠して、まだ背中の一部が濡れているあたり、よっぽど慌てていたのがわかる。
襟足に、シャンプーの泡もちょっと残ってるし。
指差された外を見ると、さっきまでの雪はすっかり止んで、代わりに、色とりどりの花火が、高々と上がっていた。
「シロ…。」
「う~、せっかく亮平いない時に何分後って言って上げてもらったのに…。」
「…いや、俺最初から見た……。」
「でもオレも最初から見たかった~…。」
「すげぇ…、綺麗だった……綺麗だったよ、シロ…。」
「亮平?どうしたんだ?亮平?」
「…感動してる………、ぶっ!」
シロが俺に内緒でくれた花火は、今まで生きて来た中で一番綺麗だったと思う。
そんな綺麗さに、シロの思いに感動していると、物凄いフィナーレが待っていて、俺はこんな時なのに、吹き出してしまった。
『りょうへい』
『たんじょび』
『おめでと』
『あいしてろ』
『ツロより』
「ぶはは…!シロ…!」
「ひどい、笑うなんて!オレなんか変なことした?」
「だってお前、また同じ間違い…くくっ。」
「え?え?」
フィナーレは、シロからの愛のメッセージ。
シロがツロに見えるのはまぁ花火だから変形して見えるという言い訳はできる。
でもる、とろ、は、どうやってもろ、にしか見えないぐらい、字の最後が下に向いている。
何度やっても、間違ってる。
でもいいんだ、それがいいんだ。
空に一瞬だけ上がったそのメッセージは、すぐに消えてしまうけど。
だけどそのシロの心は消えることなんてない。
「当然だろ、これからも愛してるに決まってるだろ。」
「…亮平っ?!」
「俺の誕生日、覚えててくれたのか。」
「それも当たり前だと思う……んぅっ。」
何を間違っているのか確認する暇もなかったシロは、大きな瞳を白黒させていた。
考える時間も与えずに、強く抱き締めると、熱いキスをした。
もうこのまま息もせず、唇を離したくないとさえ思った。
だけどそんなわけもいかず、苦しくなったシロが微かに喘ぎを洩らすと、解放してはまたキスを繰り返した。
「シロ、好きだよ、大好きだ、愛してる。」
「あの…亮平?酔っ払ってるのか??」
「お前じゃあるまいしそれはねぇよ。正気だって。」
「そうか…へへっ、オレも愛してる~。」
シロを抱き締めたまま、後ろにあったベッドに倒れ込んだ。
唇と、その周りまで丁寧に舐め上げ、首筋へと舌を這わせた。
隠すために持っていたタオルを捲って、胸の辺りを撫でた瞬間、小さな邪魔者の声が床で聞こえた。
「み~…。」
「りょうへ…っ、あれっ?今…。」
「うわ、悪ぃ、お前のこと忘れてたな。」
その邪魔者、いや、そんなこと言ってられねぇな。
さっき俺がこっそり部屋を出て持ってきたそいつを、優しく抱き上げた。
「これは俺からのプレゼントな?」
「わ~!!猫だ!猫だ~!!可愛い~。」
「名前はシロかな。白いから。隣もシマだし。」
「え~、オレ、同じ?」
ぶーぶーシロが文句を言うのも無理はない。
シロってのは俺が付けた名前で、シロ自身気に入っているから。
でも初めてこいつ見た時、似てると思ったんだ。
「亮平、どこで拾った?」
「猫全部が拾って来るわけじゃないだろ。」
「あ、そっか。」
「貰ったんだよ、柴崎んとこから。結構前に生まれたんだあいつんちの猫。ついでに明美も生まれるらしいけどな。」
「えっ、アケミ、赤ちゃん?わ~わ~。」
「それで今日来れなかったんだよ、まだ安定してねぇっつって。」
さっきからシロはわー、だの驚いた時の言葉しか出て来ない。
瞳をキラキラさせて、食い入るように見つめて。
それだよ、俺が好きなその顔、シロ、お前の表情…。
「亮平、ありがと。大好き!」
「…あぁっ!ダメだっ!こら、お前後で遊んでやるからな!」
「えっ、あ、猫シロは?りょうへ…っ、あっ、ん…っ!」
「今はこっちのシロと遊ぶ。」
猫のシロを床に置いて、人間のシロを再びベッドに沈めた。
ちょっとだけ寂しそうな声を上げて、猫のシロは近くにあったクッションへ身体を丸めた。