「俺なんか寒くなってきたー。着替えて来よー。」
「あぁ志摩、手伝うから。」
「えー大丈夫だよー。」
「いいからほら行くぞ。」
うわ…水島の奴、皆の先頭切ってヤりに行ったな…。
着替えなんてシマだって一人でできるだろ。
赤ちゃんじゃあるまいし…。
水島も普段人の世話なんか嫌いなクセにな。
後で帰って来たらからかってみるか。
「亮平?オレ、気持ちいい~。」
「そうか、よかったな~シロたん。ほらこっち向け、な?」
水島に触発されたせいと、シロがあんまり可愛いせいで、どうしてもキスしたくなった。
柔らかい頬っぺたに手で触れて、自分のほうを向かせると、ちゅ、と音をたててキスをした。
「お前達は本当に…。他人の目は気にならぬのか。」
「銀、怒るなよー、綺麗な顔が勿体ないぜー?」
「馬鹿者っ!お前までそのような恥ずかしいことを…!」
「だって本当のことだろ。」
洋平の言うことならなんでもいいんだもんな。
俺にはいちいち突っ掛かってくるのに。
まぁ俺は別に気にしてねぇけど。
うるさい姑みたいなんだよなあいつ。
それから更に1時間程が過ぎた頃だった。
窓際のソファで寛いでいた俺とシロの後ろを指差して、ロシュが突然叫んだ。
「見て!雪だよ!」
「…あぁ、本当だ。」
「ん?おぉ、ホントだ、降ってら。」
「亮平~、綺麗だな~。」
窓から舞い落ちる雪を、暫く皆で眺めていた。
そういえば、シロの、俺と出会う前の名前…。
猫だった時の名前って雪丸って言ってたな。
雪みたいに白いからだ、なんて、今でも十分白いのにな。
肌もそうだけど、純粋な心がっていう意味で。
すると、突然バリバリ…という轟音が俺たちの耳を驚かせた。
「な、なんだ?」
「びっくりした~!なんだこれ?」
思わず半分うとうとしていたシロも目を覚ます。
夜の闇に、その機体が反射した。
『ロシュ、すまない、遅れた。』
「あっ、リュウだー!リュウ~!早く早く~!」
『もうすぐ着くから。』
「わーいリュウ~!」
ロシュの友達らしき奴が、なんとヘリで登場した。
なんだなんだ、ヘリなんて只者じゃねぇな…。
ロシュも只者じゃねぇけど。
聞こえているわけもないのに、ロシュはそいつに向かって手を振り続けていた。
「すまない、遅れた。」
「お、お邪魔します…。」
数分後、リュウ、と呼ばれていたロシュの友達と、その恋人だろうか、 二人揃って会場に現れた。
なんだか恋人らしき男はヘリで酔ったのか具合が悪そうだ。
「どうしたの?そんな仕事忙しいんだ?」
「いや、違うな、寝坊だ。」
寝坊って…!
こんな一大イベントに寝坊で遅れるなんて一体どんな奴だよ…。
俺が目を白黒させていると、膝の上にいたシロがムクッと起きた。
ちょうどシマと水島も帰って来たところで、シロとシマが大きな声を上げる。
「あーっ!あの時の!」
「あーっ!携帯のお兄さんだ!携帯のお兄さん!」
「あぁ、あの時の君達…。」
携帯の…お兄さん…??
シロとシマにしか意味のわからない言葉が連発された。
それは、1ヶ月ぐらい前のことだった。
シロが、シマと一緒に買い物に出掛けた時、街で変なお兄さんに会った、と言って、携帯の新機種の話をしたことがあった。
多分あの携帯作った人だ、なんて言ってたけど…。
「あっ、紹介するねっ、僕の文通友達のリュウだよ~。あとその旦那さん?奥さん?」
「遠野です。あ、名取は奥さんだから。」
「違うって!俺が夫だっ!…あ、お、夫の名取で…まぁ結婚はできないけど…、いや恥ずかしいな…ははっ。」
「今日は遅れてすみませんでした。昨晩名取が激しいセッ…。」
「ババババカっ!何言ってんだよっ!すいませんこいつ、1日8時間きっちり寝ないといけない体質で…!」
確かにちょっとだけ…変な人だな…。
ロシュの友達って感じだよな…。
そういや携帯となんの関係があるんだ…??
「このホテルはリュウのお父さんの持ち物なんだよね。あと携帯の会社もねっ。」
「でもラブラブ携帯は俺が開発したんだけど。」
「へぇ!あんたあの携帯会社の人なんだ!すげぇ金持ちじゃねぇか。」
「亮平~、あの携帯欲しい~。」
「ハイっ!俺も欲しいですっ、隼人とお揃い~。」
「俺は嫌だ…恥ずかしい…。」
「なーなー銀ー、俺達も…。」
「ばっ、馬鹿なことを言うな恥ずかしい。」
しばし携帯の話題で盛り上がった俺達だったけど…。
今度シロとお揃いで買いに行くか、なんて思っていたら、なんとその坊ちゃん、後で皆に送るなんて言ってくれた。
金持ちは懐と心がデカいよな。
「そういやシマたん、水島となんかしてきたろ?」
「えっ!そ、そんな…!あの…。」
「志摩っ!」
…こりゃ確実になんかしてきたな。
着替えだけにしちゃ遅いと思ったんだよ。
まぁいい、今は水島がいるからな、今度シマに追及してみるか。
シマってすぐ喋っちゃうんだよな。
そこがまた面白いんだけど。
「亮平~、オレ、幸せ~、楽しかった…。」
「ん?そうか、よかったな、シロ。」
一騒ぎして、再びうとうとし始めたシロは、俺の腕の中だ。
幸せだ、その言葉を言ってもらえる俺のほうが幸せだと思う。
多分、ここにいる皆がそうだ。
それぞれの愛しい人と一緒に過ごす、最高の日になるに違いない。
「なんだシロ、寝ちゃったのか?」
瞳を閉じたシロの寝顔は、それはもう、言葉通り幸せそのものだった。
...happy,merry christmas!!
END.