「あの、ここでいいんですか…?」
「隼人ー!隼人だ!わーい隼人だーー!」
「み~♪」
あーあシマの奴、ご主人様に駆け寄る犬みたいだな。
水島もそういうことされても全然態度変わらないのが不思議だ。
俺だったら鼻の下伸ばしてるところなのに。
だけど今日は違うみたいだ。
「…志摩。なんだその格好は…。」
「うんと、サンタだよ?志摩サンタ。シマにゃんもおめかしー。」
「みゅ~…。」
水島は頭を抱えてしまっていた。
こりゃ想像してた中にはなかったな。
サンタの衣装を着てはしゃぐシマをよそに、青ざめてるぞあいつ。
「あの…。隼人、ミニスカート好きだって聞いて…。やっぱり変かな…。俺背ちっちゃいからミニになってないから?」
「ミニスカ…、藤代さんっ!」
「…げ。なんで俺が怒られんだよ?」
「藤代さんが志摩に変なこと言ったんじゃないですか?」
あはは…バレてら。
誰にも内緒だよー、とか言って聞いてきた、水島の好きなもの。
教えて教えてーと言ってくるシマが面白くて、ついついからかい半分でそんなことを言ってしまった。
いつだったか、店が暇だった時、いわゆるグラビア雑誌をパラパラ見ていた俺と水島は、この娘が可愛いだのそんなことを言っていた。
ある女のページで、暫くじーっと見ていた水島は、脚綺麗っすね…とぼそりと呟いた。
その時の水島の顔があんまりにもいやらしくて!
それを覚えていた俺はシマにそう言ってしまったのだ。
「隼人ー…、あの…。ごめんなさい…。」
「あぁ、もういいよ。」
「怒ってる…。隼人怒ってるよー…。」
「怒ってない。ちょっとびっくりしただけだ。」
「ホント?俺、似合う?」
「…まぁ、そうだな…うん…。」
そんで今度はもごもごどもって照れてるし。
結局嬉しいんじゃねぇかあいつ。
シマの生足拝めたなら俺に感謝して欲しいところだよな。
まぁヤる時は足どころか全部見てんだろうけど。
「よかったー!あのね、これロシュが貸してくれたのー。リゼが着るの嫌だからって。」
「あぁ、よかったな…。」
「えへへー、ロシュもリゼも優しいよー。」
「それならよかった。」
早速イチャこいてんじゃねぇかよ。
してませんよ、なんていつも言ってるクセに、俺から見たらイチャこいてる以外の何物でもねぇんだよな。
ラブラブじゃねぇか、って言ってもどこがです?なんて言いやがる。
それのどこがラブラブじゃねぇのか説明して欲しいぐらいだっての。
シマを見る時のあいつ、別人だぞ。
「いいないいな~!リゼ~、僕達もイチャイチャしようよ~?」
「なんでだよっ、ふざけんなよっ!」
「亮平~、オレもくっつきたい~…。」
「ん?あーほらほら、こっち来いシロ。」
そしてそれから10分ほど経った頃、洋平と猫神も到着した。
洋平の奴、差し入れ、なんてでっかいクリスマスの飾り持って。
洋平らしいよな、なんて思う。
あいつはそういう気遣いができる男だった。
兄としてはまぁ自慢っつぅか…本人に言ったことはねぇけど。
「ごめんなー、仕事なかなか終わらなくて。」
「遅れてすまぬ。」
「大丈夫だよ~、すごく綺麗だね、これ!」
「よかった…喜んでもらえて。朝一番で作っておいたんだ。」
ロシュも絶賛するほどのその飾りは、ドライフラワー?とか言うんだっけ、
あれを使った特大リースで、洋平はそういうのを作ったりするのも好きらしい。
昔から、頭はよくはなかったけど、手先は器用だった。
なんて俺、花見ん時と同じだな、兄バカで。
「シロよかったな、兄貴も一緒で。シマも水島くんと一緒で。」
「うん!なーシマ。」
「うんっ!よかったです!」
シロとシマは、よく洋平のところに邪魔している。
洋平っつぅか、猫神んとこって言ったほうがいいか。
シロは猫神をたなり慕ってるし、その影響でシマも慕っていて。
料理なんかも習って来ることがある。
相変わらず、腕のほうはイマイチだけど。
「ねぇファボルト、リュウがまだなんだけど、連絡来てる?」
「いいえ、何も…。トオノ様はご多忙ですからね…。何か仕事が立て込んでいるとかでは?」
「うーんそうかも。遅れるかもって言ってたしね。」
「後程私のほうからも連絡を入れてみましょう。とりあえず乾杯なされてはどうですか?」
「そうだね。そうしよ。じゃあみんな集まって~。」
ロシュの掛け声で、全員がテーブルの中央に集合した。
それぞれ好きな飲み物を選んでいる。
シロはやっぱり牛乳…、牛乳なんかさすがにねぇか。
「オレ牛乳~。」
「んとね、俺はオレンジジュース!隼人は?どれがいい?どれがいい?シマにゃんはミルクで…。」
「別になんでもいいよ…。」
「お、銀はこれが好きだよな、はい。」
「すまぬ、お前はこれか。」
「リゼ~?リゼはシャンパンでいい?僕の口移しで!」
「バカっ!いいわけねぇだろっ!」
…って、牛乳あんのかよ。
洋平と猫神の奴、やっぱり熟年夫婦みてぇだよな。
お互い好きなものわかってます、って感じで。
つぅかロシュもリゼ怒らすことばっか言ってるし。
「亮平、亮平、はいビール!」
「お。サンキュ。」
シロがグラスを持って俺のところまで寄って来た。
ヨタヨタして、零すんじゃないかと思うぐらいだったけど。
俺の好きなもの、覚えててくれたんだな、と思うと、たとえ零してもいいような気分になる。
シロはそういうところが可愛い。
「ではっ、メリーク・クリスマス☆」
ロシュの掛け声で、一斉にグラスを鳴らした。
その後は思い思いに楽しい時間が過ぎていく。
シロとシマ合作のバカデカいケーキも、シロにしては美味かった。
俺の好きな唐揚げも、シマが好きだと言っているエビフライも、すべての料理がとにかく美味かった。
ロシュの家のシェフがわざわざ日本まで来たっていうから、すげぇよな。
「亮平~…。」
「わっ、シロっ、またコーラ飲んだな?」
「うん…、へへ、抱っこ~…。」
「ほら、こっち来い。」
シロはとろんとした目で、俺のところへ来てくっついて来た。
そうやって無防備な顔して、後で何されるかわかってんのか?
コーラで酔うなんて、おかしいったらありゃしねぇけど。
シロは楽しいと、必ずそうなる。
雰囲気に酔って、俺のところに来て。
甘えられるのは好きだから、俺としても嬉しいところだったりする。