それは、クリスマス・イブの前の日のことだった。
いつものように仕事から帰ると、シロがそわそわして待っていた。
玄関で靴を脱ぐ俺を急かすように早く早く、と訴えかけるような瞳で、おかえりの挨拶とキスを交わした。
「明日、パーティーやるから!」
思わず吹き出しそうになった。
その言い方だと、やるから来い、っていう強制的な感じにしか聞こえない。
どれぐらい経っても、シロの言動や行動は飽きない。
「亮平?嫌か?パーティー行かないのか?」
そうやって心配そうに俺の顔を覗き込んで来るのとか、やっぱりどれぐらい時が過ぎても、変わらない、シロの魅力的なところだ。
そんなシロがたまらなく愛しくなって、強く手を引いて抱き締めた。
「行くよ、お前がせっかく計画立てたんだもんな。」
「うん!…あれ?亮平もしかして知ってたのか?」
「うん、ごめん、知ってた。」
「え~!なんだよそれ~。」
だってあれで気付かない奴なんかいるのかよ…。
隣に住んでるシマとしょっちゅうコソコソしてるし、俺の仕事のシフトとか聞いてくるし。
シマと電話で話してる内容だってすぐ近くで全部聞いてたんだよな。
極めつけは、クリスマスプレゼント何欲しい?とか、バレバレなんだよ。
シマもシマで、隼人の好きなものわかる?とか聞いてくるし。
二人で過ごすのもいいけど、シロが頑張っているのを見ていたら、みんなで過ごすのもいいかもなーなんて思ったんだ。
そんな俺をよそに、唇を尖らせてぶーぶー言うシロは子供みたいだ。
俺はシマより大人だぞ、なんて言ってるけど、俺からしたら十分お前の子供だよ。
もちろん、それはガキくせぇとかそういうんじゃなくて、子供らしさが溢れていて可愛いって意味で。
「楽しみだな、シロ。」
「うん!」
ほら、それだよ、その素直さが。
***
当日、俺は16時に仕事が終わり、急いで会場となるホテルに向かった。
しかし…ホテルなんてシロの奴、どうやって取ったんだ…??
シマがなんとかしたっていうのか…?それもできなそうだよな…。
シロは今日、なんとケーキ屋を休んでまで準備に行った。
ケーキ屋なんて今日が一番掻き入れ時だっていうのに、よく休めたよな…。
まぁ柴崎の兄貴のことだ、にっこり笑っていいよ、なんて言ったんだろうな。
実家である本社の奴らも手伝いに来るって言ってたし。
会場のHotel grand-Tは、ベイエリアにそびえ建つ、都内では有名な超高級ホテルだ。
オレが案内する~、なんて言うから、全部シロに任せたけど、本当にどうやってそんなところ…。
シロにやらせたいっていうのもあった。
きっとシロは俺のためにやって俺が喜ぶのを見たいはずだ。
本当は、そんなシロを見ている俺のほうが喜んでるんだけど。
そんな幸せ気分に浸りながら、電車は海の付近を走って、ホテルへと到着した。
シロが瞳を輝かせながら、エントランスで待っていた。
「亮平!早く早く!ロシュも待ってる!」
「……は??ロシュ??」
なるほどそういうわけか…。
そこまでは俺も気付かなかったよな…。
ロシュっていうのは、俺達が花見に行った時出会った、リーベヌ王国の王子だ。
そこは日本と友好関係にあって、日本語もペラペラな変な外人だった。
デカい図体して、迷子になっているところをシロが発見して、それで助けたっつーかなんつーか…。
王子っていうのは後から知ったことなんだけど。
「やっほ~、元気~?あっ、僕は元気だったよ!リゼもね☆」
「どうも、花見の時はこいつが迷惑おかけしました…。」
「え~、でもあれでシロ達と友達になれたんだもんねっ。」
「バカっ!だからって迷惑かけていいわけあるかよっ!」
「ま、まぁまぁ奥さん落ち着けよ…。」
相変わらず奥さんのリゼは迫力がある。
リゼっていうのはロシュの奥さん(男)で、日本人だ。
ロシュはロシュで相変わらず能天気で自分勝手で、面白い夫婦だよな…。
「あっ、亮平くーん!」
「み~。」
「おぉシマ!シマにゃんも来たのかー…っと、すごいなその格好…。」
「似合わないかなー…、シロは可愛いって言ってくれたんだけど…。」
「ん?いやいや、似合う似合う。可愛いな~シマたんは。」
シロと同じように瞳を輝かせて寄ってくるシマの頭を撫でる。
胸元には、リボンを付けた猫のシマを抱いて。
いや~、確かに可愛いけど水島の奴、こんなん見たらどうなるんだろうな。
そんな水島は、俺と同じ時間に仕事が終わる予定だったけど、在庫整理を頼まれて、後から行くんで先に行って下さい、と言っていた。
真っ赤に恥ずかしがるか、怒って着替えさせるか。
俺的な予想としては後者だな…。
ちょっとどころじゃなく面白そうだよな…。
シマに質問されて、俺がふっかけたんだけど。
「えへへ~、隼人早く来ないかな~、えへ…。」
あーあ…。
そんな楽しそうな嬉しそうな顔して。
お仕置き、とか言ってすっげぇことされそうだけど。
あいつかなりのムッツリスケベだからなー。
「これはこれは皆さんお揃いのようですな。」
「あーロシュの後ろの人だ!シマ、ロシュの後ろの人だぞ。」
「こんにちはっ、志摩です!あっ、まだ隼人来てないよー!あと猫神様と洋平くんも!」
ファボルトは相変わらずロシュの後ろで監視(?)してたりして…。
ホントに変わらないな…。
シロも楽しそうだし、来てよかったなこれは。
シロが楽しそうにしてることが、俺の一番の楽しみで、喜びだからな。
「そうだよぉ~、ファボルトってば何言ってんの。」
「王子っ、なんですかそのだらしのない話し方は!」
「え~?」
「え~?じゃありませんっ、あなたは時期国王なのですよ、もう少ししっかりして頂かないと…。」
「大丈夫だよぉ~。」
「何が大丈夫なんですかっ!!日頃からあなたは時期国王としての自覚が足りなさ過ぎで…(以下略)」
早速始まったこのおっさんの説教!
これがまた長ぇのなんのって。
しかも同じことばっかり言ってんだよな。
ロシュもロシュでちっとも反省しねぇし、それがまた面白ぇんだ。