もうすぐ待ちに待ったクリスマス。
去年までは、施設のみんなでお楽しみ会をやった。
でも、今年はちょっと、ううん、全然違う。
大好きな、隼人と、隣のシロと亮平くんと、それから猫神様と、洋平くんと、シロの友達っていう外人と。
いっぱいの大好きな人とパーティーなんだ。
その日のために、ずっと前から準備してた。
隼人にあげるクリスマスプレゼントとか、パーティーのこととか。
シロと一緒に色々考えてたんだ。
「志摩、どこ行くんだ?」
「あ…、えっと、シロのとこ!すぐ帰って来ます!」
「あぁ、わかった。」
「行ってきまーす!」
隼人をびっくりさせるって決めたから、前の日まで言わないことにしてる。
でも隼人がバイト休みの時って、出かけにくいなー…。
なんだか嘘吐いてるみたいで、騙してるみたいで、胸がちょっと痛いんだ。
でもでも!絶対喜んでもらいたいから、今は我慢我慢…。
俺は、そんな心と葛藤しながら、隣のドアの前に立った。
「こんにちはー志摩です、シロー、志摩だよー。」
ドアを叩きながら、シロの名前を呼んだ。
シロは、俺よりちょっとだけ大きくて、ちょっとだけ大人だから、俺は可愛がってもらっている弟みたい。
シロも志摩かわいーって言ってくれて、優しくしてくれる。
そんなシロが俺は大好きだと思う。
一番は、隼人だけど、周りのみんなも大好きなんだ。
「あ~、志摩!おはよう!」
「おはよー、亮平くんは?」
「仕事行った。へへっ、いないぞ。」
「よかったーバレちゃうと大変だもんね。」
シロの恋人、亮平くんにも内緒なんだ。
実は亮平くんは、クリスマスが誕生日なんだって。
だからシロはびっくりさせたいって言ってた。
「早く、こっちこっち。」
「うん!お邪魔しまーす!」
昨日、シロからメールが来て、今日呼んでもらった。
その、シロの友達の外人と、話ができる機械が来るっていうことだった。
亮平くんがいない時じゃないとできないから、今日限りだ。
「見てくれよ~、これ、ロシュと話できるんだ!」
「わーすごい!なんか外人映ってるよこれ!」
大興奮で、見たことのない機械の前に駆け寄った。
パソコンぐらいの画面に、綺麗な金髪の外人が映っている。
バックにバラの花が飾ってあって、お金持ちそうな感じ。
「ロシュ~、シマ来た!」
「えっ、これに向かって話せばいいの?あっ、志摩です、こんにちは!」
「やっほ~シロ!元気~?僕もリゼも元気だよ☆あっ、ついでにファボルトもね。」
「ロシュって言うの?志摩です、志摩だよー。」
「わぁ!君がシロの友達?可愛いね~。リゼには負けるけど…あっ、ごめんね!」
そのリゼ、っていうのは、ロシュの奥さんなんだって。
日本人で、すごく可愛いってロシュ自慢の奥さん。
シロとか亮平くんは会ったことがあるんだけど、俺はないから、ロシュに会うのもリゼに会うのも楽しみだなー。
パーティーは、ロシュの知り合いのホテルで開かれる。
ホテルの最上階を全部借りれるなんて、物凄いお金持ちなんだろうな…。
「あとー、料理はどうしよう?何かある?」
「ハイっ!俺、エビフライが食べたいですっ!」
「エビフライね、わかった!」
「シマはホントに好きだな~。」
「えへへ、俺、エビ大好き!」
ロシュって、いい人だなぁ…。
とても優しくて、親切で、俺のお願い聞いてくれて。
顔はとてもカッコいいし、奥さん幸せだろうなぁ。
隼人も、俺のことそういうふうに思ってくれてるといいな…。
俺はこんなに幸せって思ってるよ…。
「楽しみだね☆」
「うん!」
「ハイっ、楽しみですっ!」
こうして、短い時間だったけど、色々計画を詰めて、俺たち3人の会話は終わった。
後で聞いたら、これって衛星中継みたいなやつで、すごいお金かかってる機械だったんだ。
シロのところに送ってくれて、亮平くんに見つからないように終わった後すぐに押し入れに隠してたけど。
「シマ、ケーキ手伝ってくれるか?オレ一人じゃできない…。」
「うん!手伝う!」
「やった~、よかった~。」
「どんなケーキにしようねぇ?」
「あっ、シマ、プレゼントは?ミズシマにやるやつ。」
「えへへ、ばっちりだよ!シロは?」
「オレもバッチリ!」
「そっかぁ、楽しみだねー。」
楽しみ、その言葉しか出て来ないよ、俺。
ケーキ作るのも、好きな人にプレゼントあげるのも。
パーティーするのも、好きな人が傍にいるのも。
全部楽しみで、全部初めてのことなんだ。
「よしっ!頑張ろう、シマ!」
「うんっ、頑張ろー!」
俺とシロは、決意新たに、クリスマスを待つことにした。
***
「ねーねー、隼人ー。」
その前の日になった。
隼人が、クリスマスはバイトっていうのは前から決まってたから知っていた。
でもその日は夕方4時には終わるから、それから行っても大丈夫だって思った。
「何。」
「うんと、えっとあの…、明日なんだけど…。」
「明日?明日がどうかしたのか?」
「お、俺と、違った、俺について来て!」
「…は?」
「お、俺と一緒に出掛けて下さいっ!」
よく考えたら俺、隼人と買い物以外の出掛けたことなんかなかった。
いわゆるデートっていうのを、したことがない。
俺がここに来て、ここに置いてもらって結構経つのになぁ…。
隼人、そういうの嫌いだから…あれ、じゃあ…。
「…嫌だ。」
「…!!な、な、なんでぇー?」
うぅ…、こう言われるの、考えてなかったよ…。
俺ってなんでこんなにバカなんだろー…。
前の日に気付くなんて、もっと考えればよかった。
パーティーのことでいっぱいで、そこまで考えられなかった。
隼人の気持ち無視したりして、罰が当たったんだよね…。
「あの…、ごめんなさい、俺、ごめんなさい…っ。」
謝って済むことじゃないのはわかってるけど。
だけど隼人に嫌われたくない。
嘘吐きな奴だって、騙すような奴だって思われたくない。
どうしよう…、俺、嫌われたくないよー…。
「バカ、泣くなよ…。お前が悪いクセに。」
「う…っ、ごめんなさ…。」
「お前がちゃんと言わないのが悪いんだからな。」
「…え……。」
あれ…?
俺、今隼人の腕の中にいる…。
耳元で聞こえる隼人の溜め息が、頬に触れて、ドキドキする。
部屋の暖房が効きすぎてるみたいに、身体中が熱い。
「…ごめん、ちょっと意地悪した……。」
「隼人!隼人ー!」
隼人は全部わかっていた。
俺がシロと計画してること。
全部わかってて、俺から言い出すの、待ってたんだ。
どうしよう、俺、すごく好きだよ、隼人のこと…。
「そういうの、あんまり好きじゃないけど行くから。」
「よかったーえへへ、隼人、大好き!」
「わかったから、もう…。」
「えへ……。」
魔法みたいな蕩けるキスで、たちまち俺は夢の中にいるみたいになった。
優しい隼人と、大好きな隼人と過ごすクリスマスは、どんなだろう。
きっと、大切な日になることに違いはないと思う。
早く明日にならないかな…。
近い未来を頭の中で描きながら、隼人の腕の中で浸っていた。
*
*
*
だってあれだけおおっぴらにしてるんだ。
俺が気付かないわけないだろ。
俺の目の前でシロとメールして、デレデレ笑ってるわ、メールの画面出しっ放しでキッチンやら行くわ。
挙句の果てに何か欲しいものある?だの、パーティーするなら何食べたい?だの、12月24日は仕事だの…とにかく、全部がバレバレだった。
それに気付かない振りをするほうが大変なぐらいだったんだ。
ちょっとぐらい意地悪してやろうとか思ったら、泣くし。
俺はどれだけ志摩に甘いんだろう。
それでも、志摩が喜ぶなら、その笑顔を見られるなら。
俺は、どんなことでも聞いてやる。
パーティーなんてあんまり好きじゃないけど、お前が計画してたから。
そこまで好きだってこと、志摩本人は気付いてるんだろうか。
俺の腕の中のその顔を見て、俺まで幸せになってるってこと。
明日ぐらいは、そういうのを素直に言ってみるのもいいかもしれない。
END.