今日はシロの仕事が休みだって言うから、一緒に街中に出てきた。
いつも行く商店街より大きい商店街があるところだ。
シロは週に4回、恋人の亮平くんは週に5回(多い時6回)仕事だから、必ず一人になる日があって、その時は俺とよく一緒にいる。
隼人も仕事で、夕方まで帰らないし、シロと一緒にいるのは楽しいんだ。
「今シロと街にいます、っと。」
「あ~、シマ、ミズシマにメール打ってるんだな?」
「うん、えへへー、一応報告。」
「シマの携帯可愛い~、ピンク色だ。」
シロは俺のことをよく可愛いって褒めてくれるけど、そう言うシロも可愛いと思う。
目は大きいし、頬っぺたもつるつるだもん。
亮平くんは幸せ者だよね、隼人もそう思ってくれてるかなぁ…。
そんなことを考えながら、大きなアーケード街に入ろうとした。
「シマ、はぐれちゃダメだぞ。」
「うん、わかったー。」
なんだか俺、シロの弟みたい。
俺よりちょっとだけ大きいシロは俺のことを心配してくれて、手を引っ張ってくれた。
兄弟もいない俺にとってはシロは立派なお兄さんだ。
「待って、携帯しまう……あ!シロ、見て見て!!」
「ん~?…あ!」
ちょうどアーケードの入り口にある、電気屋さんの前を通った時だった。
よくそこでは外で携帯電話の販売をしている。
今日も新しいものやお買い得なものを店員さんが大きな声で宣伝していた。
「これ、テレビのCMでやってたやつだよー。」
「あ~、ホントだ!」
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「すごーい!!欲しいねー、これ、欲しいねー!」
「うん!オレも亮平とお揃いで欲しい!」
「俺ピンクがいいなぁ…それで隼人はブルーで…。シロはどれがいい?」
「オレは白~。亮平はシルバーってやつかなぁ。」
夢中になって俺たちはその携帯を見ていた。
隼人とラブラブ携帯…いいなぁ、持ちたいなぁ…。
シロも亮平くんと持ちたいって言ってるし。
猫神様と洋平くんにも教えなきゃ。
一人で家にいてすごく寂しいとは思わない。
寂しくても、隼人には言えないし、言っちゃいけない。
それに、帰って来た時の嬉しさが増えるからいいんだ。
でもこれがあればいつでも隼人と一緒にいれるのになぁ…。
「でも隼人こういうの嫌いそう…。」
「え~、でも頼んでみるだけでも…。」
「う、うん、言ってみようかな…。」
「オレも亮平に言う~。」
その時、俺たちの近くで見ているカップル?の男の人二人がいた。
携帯を握って見てる人と、携帯を指差して怒ってる人。
この人たちも買うのかなぁ…??
「ホ、ホントに出たのかこれ…!!」
「当たり前だ、俺は嘘は嫌いだ。」
「だからって俺の待ち受け(しかも寝起きショット)とか着声とか内臓するなよ!!」
「よく撮れてると思うけど…。あぁ、俺のも内臓すればよかったか…失敗したな…。」
「そうじゃねぇよ!!」
「それとも二人のショットにするべきだったか…。」
な、なんか喧嘩してるのかなぁこの人たち…。
俺とシロは顔を見合わせた後、暫くその様子を見てしまっていた。
歳は、隼人ぐらいかそれより下ぐらい。
携帯握ってる人はすごく綺麗なんだけど…。
「今夜あたり撮影しよう。」
「嫌だって!」
「どうしてだ…。名取は俺のことを愛してないのか?」
「そ、そういう問題じゃなくて!つーかこんなところで言えるかよ!」
「あ、あのー!」
言い争う二人に俺とシロは声を掛けた。
もしかしてこの携帯作った人なんじゃないかなぁ?
さっきから話を聞いてると多分そんな感じ。
「あぁ、君たちこれ買うのか?」
「あ、ハイっ!俺、志摩って言います、俺、欲しいです!!」
「オレも欲しい!」
その綺麗なほうの人が話しかけてくれた。
もう一人の人はなんだか青ざめて溜め息を吐いている。
やっぱり作った人で、カップルなのかなぁ?
「買ったほうがいい。そうだ、俺と名取のスペシャル待ち受け画像もあげよう。」
「え…、あの、えっと…。」
真剣な顔で近寄られて言われた。
迫力のある人だなぁ、でも言ってることがちょっと変わってておもしろいけど…。
名取っていうのはこの相手の人かな?
「これなんかどうだ?よく撮れている…。」
「うわあぁーーっ!やめろー!!か、帰るぞ遠野っ!!」
突然その人が叫んで、綺麗な人を連れて行ってしまった。
手をぐいぐい引っ張って、その場を逃げるようにして。
「買ったほうがいいぞ。」
「買わなくていいから!!」
大きな声で、そんな言葉を残して行ってしまった。
まるで台風が過ぎた後みたいに、俺とシロは呆然とそこに立っていた。
一体何者だったんだろ…?
喧嘩しながらも仲よさそうだったなぁ。
だってあの写真…。
「ねーねー、見た?さっきの…。」
「うん、オレ恥ずかしい…。」
二人で真っ赤になって、見本の携帯を握っていた。
ああいうのはできないけど、やっぱり欲しいな、これ。
隼人ともっとラブラブになりたいもん…。
「志摩自分の名前言ってた…。自己紹介?」
「えへ、なんとなく…??」
「志摩可愛い~。おもしろいし。」
「えー、シロも可愛いよー。じゃあ行こっかー。」
また手を引いてもらって、その後目的の買い物をして、隼人と亮平くんの働くコンビニに行った。
帰りにさっきの携帯の話をしてみようと思う。
END.