ある日、シロが突然妙なことを言った。
「洋平とかミズシマとかって普段どんななんだろ?」
「普段?」
「えっと、こ、恋人の前だと…。」
「あぁ、なるほど…。」
まだ恋人っていう響きに照れがあるんだろうな。
元々僅かにピンク色の頬をちょっとだけ紅くして、出会ってもうすぐ一年も経つのに、その態度が新鮮で、相変わらず可愛い以外の何者でもない。
その顔、どんなんだか知ってんのか?お前は。
だけどそう言われてみれば俺も気になるっちゃあ気になるんだよな。
猫神とかシマがどんななのか。
別に人のところなんか今更どうでもいいかもしれないけど、そうシロに言われると気になって仕方なくなってきてしまった。
気になるな…。
「シロ、いいこと考えたぞ。」
「ホントか?」
なんというか、その時俺の中でひらめいてしまった。
シロ以外の相手達は、普段どんなんなのか、見てみたいという興味だけで。
俺たちは一日、もしくは半日でも、相手を入れ替えてみることにしたのだ。
またちょうどよく次の週、みんなが揃って休みの日があった。
洋平と水島は年上の俺に嫌と言うことができないっていうのもあるし、下らない大人の遊びに付き合うような感じで承諾してくれた。
猫神とシマには、離れてみてどれだけ相手を好きか感じられるとか、他の人の面を見ることで、実際付き合っている相手のいいところを再発見できるとか、なんかこう…つまりは適当なことを言ってうまく丸め込んだ。
***
当日の昼前になった。
玄関のインターフォンを鳴らすと、すぐにパタパタと走ってくる音が聞こえた。
「はいはーい、志摩です、どーぞ!!」
別にインターフォンがあるんだからわざわざ走って来る必要もなければ、そこで大声出す必要もないのに、相変わらずシマの行動は面白い。
「あっ、亮平くん、今ね、お昼ご飯作ってたの!食べる?食べる??」
「あ、あぁ、邪魔するぜ。」
「ハイっ、どうぞー!」
「………。」
げ、元気だよな…。
シロも元気なほうかもしれないけど、最初っから満面の笑みで大声出して。
俺でもちょっとビックリするぐらいだ。
水島の奴…、あいつこういうの俺よりダメそうなのに…。
そういや初めてシマを見た時、迷惑そうな顔してよな。
それが今じゃラブラブらしいから、人ってのはわからないもんだよな…。
まぁそれは俺も似たようなもんか。
「それでね、これね、昨日隼人にも作ったのー。」
「へぇ~。」
シマはご飯を食べながらもまだ喋り続けている。
ほぼ、というか95%は水島のことだけど。
そんなに好きなんだな、水島のこと。
それが伝わって来て、なんだか凄く可愛く思えてしまった。
逆に水島はこういう事実や感情をあからさまに出すことはしない。
でもきっと、だからこそ正反対のシマに惹かれたのかもしれない。
自分の持っていないところを、補うかのようにシマといるのかもしれない。
そう思うと、余計シマが一生懸命で可愛くなってきた。
もちろん、恋愛感情はまったく抜きにして。
だけど俺の悪い癖が出てしまって、可愛いって思っただけで止まればいいのに、そこでちょっとばかりからかってやりたくなってしまった。
話しながら、さっきから気になっていたシマの首筋を、含み笑いをしながら指差した。
「シマ…、これ、やらしいな~。」
「えっ?何?」
「こ・れ。やらしいことしたろ?水島と昨日の夜。」
「え!あ…、えへ、えへへ…。」
図星ってやつか。
薄っすらとシマの首筋に残った鬱血の跡を普通なら見逃すところかもしれない。
でもこいつらがくっついてから、下世話だけどどうもそっち方向のことが気になってしまって、常にというわけではないが俺はそういう証拠を探してしまっていた。
水島が慌てる顔も見たいっていうのもある。
俺が一番年上のクセして一番ガキみたいかもしれないけれど、そういうのが最近楽しい。
「そっか~、シマたんエッチだなぁ。」
「そんな…、恥ずかしいよー!」
「どんなだったか聞きてぇな~、俺。」
「え、え、でも、あ、あの、あのね…!」
まさかそれから延々3時間今度こそ100%水島の話だけされるとは思わなかったけど。
しかも、人んところの夜の話を中心に。
恥ずかしいとか言って、真っ赤になるぐらいならちょっとは遠慮しろよ。
聞いたのは俺だけど、俺のほうが恥ずかしくなるだろうが。
「あっ、俺お腹減っちゃったー、3時のおやつにしよー?」
「そ、そうだな…、うん…。」
その3時のおやつ、色んなお菓子を食いながらもシマは喋り続ける。
その後テレビのドラマ再放送を見ながらも喋り続け、
主人公に同情して半分泣くわ、ドラマについて熱く語るわ…。
挙句の果てに、喋り疲れて、ちょっと昼寝しよー、とか言って寝てしまった。
我儘っていうわけじゃない。
全然ムカついたりもしないし、こういうのが好きな奴にとっちゃあいい相手だと思う。
だけど…なんだ、なんなんだこれは…。
「今日は楽しかったー、ありがと!ありがとー!」
「俺も楽しかったよ…、はは…。」
「んじゃね、ばいばーい!」
「あぁ、隣だけどな。」
そうだ…!これって、子供と一日遊んで疲れた親父と同じじゃねぇか!!
いや、水島が実際親父なんだから、俺はさしずめ親戚のおじさん、ってところか??
この歳でおじさんってのはちょっと勘弁して欲しいところだけど。
シマと話していると子供だな、と思うことは時々あった。
素直さとか、無邪気さとか、歳のわりには背も小さいし。
それも可愛いし、喋っているのも苦じゃないけど、やっぱり俺はシロぐらいがいい。
そう思いながら、すぐ隣の自分の家の玄関のドアを開けた。
そこには俺の一番大好きなシロが待っている。