一方その頃、その奥さんはというと…。
「ったく、ロシュの奴迷子になんかなって。何やってんだよ。」
「リゼ殿、王子の携帯はどうですか?」
「さっきからかけてるけど出ねーんだよ!何やってんだよ!あのアホは!」
ホントに何やってんだ、ロシュ…。
出てくれよ、頼むから…。
お前それでも一応時期国王なんだぞ。
なんかあったらどうすんだよ。
嫌だ…、また、あんな思いするなんて。
俺は両親がいなくなった時を思い出してしまった。
もうあんなのは嫌だ、味わいたくない。
俺を置いてどっかに行くなんて、やめてくれ…。
「リゼ殿?具合でも悪いのですか?」
「いや、大丈夫だ、心配すんなファボルト。」
俺よりロシュの方が心配だ。
いくらあいつがあんな奴でも、日本はリーベヌ王国ほど平和じゃねぇんだ。
俺は悪い考えをなんとかして捨てようとしていた。
***
「お…誰だよこんな時に…。」
泣いてるロシュを慰めて、俺達は宴会を続けていた。
その時ポケットに入れていた俺の携帯が鳴った。
それは柴崎からのメールで、今日仕事のあいつからの、楽しんでるか?という内容だった。
ちなみに柴崎は夜、明美と花見に行くらしい。
あいつらもなんだかんだ言ってうまくいってるみたいだ。
「僕と同じだ、その電話。」
「は?携帯持ってんのか?」
ロシュが俺の手元を見ながら言った。
「うん、リゼとお揃いなんだよ~ホラ!日本の携帯は技術が凄いもんね~。」
自慢気に携帯を取り出して、俺達に見せてきた。
っつうか…。
「お前持ってんならこれで電話すりゃいいだろうが!しかも着信有りって…、リゼ、って出てるぞおい!」
リゼの後ろにハートマークまでつけて。
さすがに写真まで登録はしてなかったけど。
秒刻みでかけて来てるじゃねぇか…。
「え~、だって僕使い方知らないもん。」
「あー、オレも最近電話のかけ方覚えたんだ!」
「わぁ、一緒だね!」
レ、レベル同じかよ…元猫と。
いや、かけれるシロの方が上か?
携帯も使えないなんてどんな生活してんだ?
俺も洋平も、あの猫神までも呆れてしまっていた。
シロは相変わらず楽しそうにしてるけど。
「とにかく今電話してやる!」
俺はロシュから奪った電話で、リゼ(ハートマーク付き)、に電話して来てもらうよう伝えた。
ひ、人騒がせな奴…。
こんな奴の奥さんって…。
その奥さんは、すいませんと謝って、今ずぐ迎えに行くと言って、電話を切った。
「ロシュっ!このアホたれっ!!」
5分後、その奥さんが大声で怒鳴って、俺達の前に現れた。
汗を流して、息を乱して。
よっぽど心配だったんだろうな…いや、その前に…ちょっと待て…。
「うわーんリゼ~、会いたかったよ~!」
「20歳にもなって迷子になんかなるな!」
お、男…!!
小柄だけど、まぎれもなく、日本人の男。
そういや電話の声も女にしちゃ低かった。
俺達は呆然とその二人を見ていた。
「リゼ殿、まぁそう怒らず…。」
「ファボルトは黙ってろ!」
「そうだよ~そんなに怒ると身体によくないよ~。」
「誰のせいだと思ってんだ!」
すっげぇ迫力…。
奥さん強ぇな。
そんでこのピシッとしたおっさんと、なんかお笑いトリオみてぇだな。
ホントに何者なんだ?こいつらは。
それからその言い争いというか説教は1時間続き、ようやく落ち着いたところで、その3人も交えて花見の続きをした。
「あ、コレよかったら…。」
「あ、どうもすいません。」
俺はその奥さん、璃瀬という名前らしいが、そいつにビールを差し出した。
璃瀬は何度も俺達に迷惑をかけた、と謝って、そこまで迷惑と思っていなかった俺は逆に悪い気がした。
「あっ、リゼにお酒飲ませちゃ…。」
「え?何?もしかして未成年?」
しかしその時既に遅し、というやつで、璃瀬は缶ビールを飲み干していた。
「なんだよロシュ、なんか文句あるか?」
「や~ん恐いよぅ!シロ助けて~!」
へぇ、酒飲んで変わるのか。
って…なんでそこでシロに近付くんだよ。
油断も隙もねぇな。
シロもそんな触るなよ、正体もよくわからない奴に。
俺はまたしても嫉妬で胸がムカムカした。
「賑やかなのは、やはり楽しいな。」
「そうだなー、来てよかったよな。」
洋平と猫神のやつ…。
すっかり熟年夫婦みたいに落ち着きやがって。
恋の力は偉大だな、なんて考えちまうよな。
そういう点では俺もだけど。
昔の俺はこんな嫉妬なんかでムカついたり、んなガキくせぇことしなかったのにな。
全部シロに会ってからか。
そう思いながらふとシロを見た。
「亮平~眠い~…。」
とろん、とした瞳で、俺に寄って、凭れかかって来た。
頬が今日の桜みたいにピンク色に染まって、そのまま俺に向かって倒れ込んで来た。
「うわっ、お前酒飲んだろ?」
「ううん飲んでない…。」
酔っ払った人間はたいていこう言うんだよな。
酔ってない、とか飲んでない、とか。
あーあ、しかも寝ちゃったよ…。
「お前のために張り切っていたからな。シロは。」
「みたいだな。」
「愛されてんなー兄貴。」
「まぁな。」
「すっげー自信!」
「私はお前のそういうところがだな…。」
そう、俺は愛されてる。
猫神はなんだかブツブツ言ってるけど。
それを実感しながら、シロの髪を撫でた。
「お前だって愛されてんだろ。」
「う、うん、まぁなー、ははは。」
「恥ずかしいことを言うな。」
「あーいいな!リゼ~僕たちもいちゃいちゃしようよ~。」
「何言ってんだよ、バカ。」
桜の花びらがまた、風で舞って落ちてくる。
広げたシートに、時には食いもんの中に。
眠ってしまったシロの身体にも。
こんな穏やかな日が、ずっと続いて欲しい。
「ふふ、まさに春、恋の季節ですな。」
ファボルトというおっさんが、そんな台詞を呟いて、その似合わなさに、俺達全員が笑った。
***
夕方になり、まだ寝ているシロをおぶって、帰った。
空港まで行くのだ、と言って、ロシュ達とは公園で別れた。
結局何者だったのかはわからなかった…。
いや、翌日のテレビではっきりわかることになった。
「亮平!コレ昨日の!ロシュが映ってる!」
テレビに向かってシロは指差した。
そこには、『リーベヌ王国王子帰国』と題して特集が組まれて、あの、ロシュと璃瀬とファボルトが映っていたのだ。
「お、王子…?」
どうりで見たことあると思うわけだ。
日本と友好関係にある国って、結構テレビでやってたもんな。
まさかあんなアホだとは思わなかったけど。
「王子、日本の方に向けて一言どうぞ。」
「色々ありがとう、シロとその友達の皆さん!」
記者がロシュにマイクを向けた。
おい待て。俺はついでかよ。
シロだけ名指ししやがって。
俺が一番助けただろうがよ。
「また来年も来るからね☆」
テレビに向かってロシュはウインクして、後ろで璃瀬が呆れたように映っていた。
ついでに、ファボルトも。
「亮平、また来るって!」
「ん?そんな嬉しいのか?」
「うん、また花見行こうな!」
「そっか、そうだな。」
嬉しそうに笑うシロを後ろから抱き締めた。
俺と出掛けるのことがしたいんだな。
他の男と喋るぐらいならいいか。
シロが好きなのは、俺だけだってわかってるしな。
そう思いながら、自分の方にシロを振り向かせて、キスをしようとした時、洋平から電話がかかって来たのは、言うまでもなく。
ホント、お騒がせな王子だな、なんて思いながらも、また来年の桜が咲く季節が楽しみに思えた。
END.