「亮平~…。」
「おぉ、なんだおせぇよ、お前何やって……ん??」
近くの売店まで行ったにしては時間がかかるな、と思って、
ちょっと見てくるか、と思い始めていた頃、シロが帰って来た。
…一人じゃなくて。
「だ、誰だそれ…?」
「なんか変な外人拾った…。」
「う…っ、う…。」
金髪の、長身の外人が、シロの後ろに立っていた。
しかもなんか泣いてるし。
な、なんだこいつ…。
「だから変な人についてくなって言ったろ?」
「う~、ごめん。」
「ひどーい!僕変じゃないもん!」
に、日本語…!
そいつが、顔を上げて、日本語で喋り出したもんだから、俺以外もびっくりしたように動きを止めた。
「あのね…、僕ね、リゼとはぐれちゃったの…。」
「リゼ?誰だ?つーかお前誰?」
「あのね、リゼは~僕の奥さんで~、すっごい可愛いんだよ!あ、写真見る?」
お、奥さん…?
既婚者かよ。
まだ若いよなこいつ…、俺と同じか下ぐらいだろ。
しかも頼りなさそうだし。
写真なんか持ち歩いてんのかよ。
でもどっかで見たような…気のせいか??
「亮平、これちょっと可哀想だな。」
「シロ…?」
俺の服の袖を引っ張って、シロが見上げる。
可哀想とか言ってるのに、これ、ってのがちょっと可笑しいけど。
まったく、こういうのにすぐ同情すんだからな。
そんな顔されたら俺だってそう思っちまうだろ。
「異国から来て迷うのも無理はない。探してやったらどうだ。」
「お、銀華、優しいなー。」
猫神と洋平までそんなこと言うなら仕方ねぇよな。
その奥さんとやら探してやるか。
変だけど悪い奴でもなさそうだし。
しっかし探すっつったってな…。
「ありがとう~!日本人っていい人ばっかりだね!リゼもそうなんだけど。」
「何?お前の奥さん日本人なのか?」
「うん、そうだよ~。」
話によると、そいつはロシュ、と言って、なんとか王国から来たらしい。
その名前もどっかで聞いた気がすんだけど。
そのリゼ、という名前の奥さんと、もう一人付き添いと、日本の桜を見に来たらしい。
まぁ海外旅行ってやつだな。
しかし…しかしな…!!
「あ、コレ食う?」
「えへへ~僕おなか空いてたんだよね~、ありがと、シロ。」
なんっで!
なんでシロとんな仲良くしてんだよ。
シロもシロだ、そんな親しくなるなよ。
俺はみっともない考えをしながら、それを見ていた。
だってそうだろ、こんなん、シロには見せたくねぇよ。
いい歳して、それぐらいで嫉妬だなんて。
シロにはそんな醜い心とか教えたくない。
「亮平、はいあーん。」
「…は?…‥んぐっ。」
ボケっとしていた俺の口に、唐揚げが突然突っ込まれた。
びっくりして喉に詰まりそうになる。
「お前イキナリ突っ込むなよ、殺す気かよ。」
「ご、ごめん、あ、卵焼き、オレ作ったやつ!」
ハイ、とシロはくるくるとした瞳で差し出す。
俺は迷わずそれを食おうとして、ふと視線に気付いた。
「まったく…、お前達は…。」
猫神が呆れたように呟いて、溜め息を落とした。
こいつは俺らが仲良くしてるとなんだかんだケチをつけてくる。
「なんだ銀華、ホラ。」
「な、な、なんだっ。」
「えー?やりたいのかなーと思ってさ。ホラあーん。」
「お、お前は馬鹿かっ。私はそういう意味でなくて…。」
なんだ、こいつら、すげぇラブラブじゃん。
あの無表情だった猫神がこんな顔するなんて。
洋平に食いもんを差し出された猫神は、真っ赤だった。
ちょっと可愛いなんて思うぐらい。
「美味い?亮平、オレ作ったやつ美味い?」
「うん、形はイマイチだけどな…あとすっげぇ甘過ぎるけど。」
「へへっ、砂糖いっぱい入れたから。」
「どんぐらいだよ?」
「うーんと、スプーンで10杯ぐらい?」
「はぁ?入れ過ぎだろ。」
そのスプーンが、いわゆる料理の時使う、大さじ、っつーのと同じぐらいの大きさってことは、台所を見てわかった。
これじゃ甘いハズだよな…。
「ごめんオレ、猫神様に特訓してもらって頑張ったんだけど…。」
うわ…。
特訓までしてたのかよ。
そういや最近どっか行ってたみたいだったけど。
俺のためか…。
なんだよ、嬉しいじゃねぇか。
こいつはホントにそういうことばっかすんだからな。
さっきのことなんて、頭から吹っ飛んだ。
「いや、美味いよ、シロ、ありがとう。」
「よかった~。」
俺はシロの柔らかい髪を撫でた。
シロは満面の笑みを浮かべて、俺の傍に寄って来た。
くっそ…これが家ん中だったらもう押し倒してるつぅの。
外なのが悔しいな…誰もいなきゃ外でも気にしないけど。
洋平と猫神もいるっつぅのもな。
「うーっ、うっ、う…っ。僕もリゼといちゃいちゃしたいよ~!」
しまった、こいつのこと忘れてた…。
ロシュがまた泣き出した。
俺よりでけぇクセして泣くなって感じだけど。
見た目は綺麗で男前なのになんか女っぽいな。
ホントに結婚してんのか?
一体どんな女だよ、その奥さんってのは。