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キリバン小説、シーズン企画など

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「チェリー・ブロッサム」-1

「オレ、花見に行きたい!」

春になって、そろそろ桜も咲く時期というある日、シロが突然そんなことを言い出した。
瞳を輝かせて、興奮して言ってくるシロが可笑しい。
つくづくイベント好きの変な奴だな、と思う。
きっと、シロは人間になったらしたかったことをやってるんだろうな。
そうすることで、俺に近付きたいんだ。
そんなことしなくても、こんなに傍にいるのに。
でもその気持ちそのものが俺は嬉しくて、一緒になんでも付き合ってやりたい。
実際俺も結構、いや、かなり楽しい。


「洋平と猫神様も誘ったんだー。」

ホントは二人がよかったけど、まぁ、そういうのは人数多い方が楽しいしな…、我慢するか。
あいつらを見たいってのもあるし。
あの後、そう、猫神が洋平とうまくいったってことは、洋平から聞いて知ってたけど…あいつが洋平の前でどんな顔をすんのか、洋平も、そう、自分の弟がどんな恋愛してんのか、下世話かもしんねぇけど、気になるところだ。

前日相変わらず仕事だった俺は、明け方帰宅すると、シロに触れたいのを堪えて、花見に備えた。
俺の住むアパートの近くでも、どこからか桜の花びらが、舞って来て、まさに春を感じられた。


「…‥ん…?」

ガタガタという音で、目が覚めた。
台所…?ま、まさか…。
俺は眠い目を擦りながら、なんとか身体を起こすと、やっぱり隣に寝ているはずのシロの姿がない。
寝起きの一服を我慢して、ベッドから出て、嫌な予感がする台所へ向かった。


「シロ…‥。」

案の定無残な姿になった台所と、シロをこの目で確かめると、頭を抱えた。


「あ、亮平、おはよう!」
「おはようじゃなくてな…。」

どうすんだよこれ。
毎回だけど。
しかもこりゃまたいつもに増して張り切ってるな。
片付けんの俺なんだけど。
でも、そんな、面倒だな、と思う反面、張り切ったシロを見るのは好きなんだから、矛盾してるっちゃぁそうなんだよな。


「あの…、オレ、ごめん頑張ったらこうなっちゃって…。」

俺が溜め息を吐いたのを見たシロは、しゅんとなって、手に皿を持ったまま、俯いた。


「頑張ったならいいよ。それなんだ?」

皿に目線を向けて、聞くと、シロは嬉しそうに笑って、自慢気にそれを俺の前に差し出した。


「卵焼き。あ、あと唐揚げ。」
「何?お前唐揚げなんか作れんのか?」
「えっと…、冷凍のやつ。」
「なんだ冷凍かよ…でも、俺の好物覚えてたのか。」

これは嬉し過ぎるだろ。
俺が猫神の魔法で猫にされた時もだったけど、やっぱり嬉しいもんだな、自分のことを覚えてもらえているのは。
たとえレンジでチン、だけのことでも。


「ありがとう、シロ。」
「へへっ、オレ嬉しい。」

俺はまたしても触れたい衝動にかられながらも、シロに軽くキスするだけで、我慢した。
嬉しいけど、身体に悪ぃなこれは。


***


「しっかしわかんねぇなー。」

前にシロとデートしたことがある、大きな公園で、俺達と洋平達は落ち合った。
洋平と、隣にいる猫神をまじまじと見て、思ったことを口にしてしまった。


「こいつのどこがいいんだ?」

猫神のやつ、黙ってれば綺麗なのにな。
洋平は俺の二つ下の、実の弟だ。
自分のことを棚に置いてこんなことは言えないけど、昔から頭は悪かったし、特にいいところなんて…。


「お前には言われたくないな。私もシロの気持ちはわからない。」

いつも猫神は俺に対してだけ冷たい。
俺を認めてねぇんだろうけど。
仕方ないよな、昔人間に捨てられたらしいし。
洋平に会ってから、かなり丸くはなったと思うけど、まだ俺に対しては信用がないらしい。
すぐには変わらねぇよな。


「銀華も兄貴も喧嘩すんなよー。」

あ…、いいところ…。
そういやこいつは昔から平和主義だったっけ。


「よし!あそこにしようぜ!行こう、銀華。」

そんで、優しかった…か…。
なんだ、いいとこあるじゃねぇか。
つーか、いいとこだらけか?
俺は今まで気付かなかったけど。
猫神のお陰でなんだろうか。


「亮平?何笑ってんだ?」
「いや…、ちょっとな…。」
「なんか気持ち悪いぞ?」

俺、兄バカってやつなんだろうか。
なんかあいつがカッコよく見えてきたな。
洋平と猫神の後ろ姿を見ながら、笑みを零した俺を、シロが見上げた。
ん?ちょっと待て。


「お前今気持ち悪ぃっつったか?」
「あ、いや、言ってない!」
「好きな男に向かってそりゃねぇだろ。」
「あ、あ、ホラ、早く早く!」

慌てて俺の腕を引っ張って、誤魔化すシロに、もう一度、笑った。


「亮平ー、なんか買いに行って来ていいか?」

洋平が見付けた細くも太くもない桜の樹の下で、俺達四人は花見を始めた。
花びらが、広げたシートにひらひら舞い落ちている。
春の風が吹く度に、それが広がった。


「ん?あぁ。いいけど。変な人についてくなよ。」
「わかってるって。じゃ、行ってくる。」

ガキじゃねぇんだ、とは思いつつも、シロはなんにも知らないからな。
この世界の恐い部分とか、汚い部分とか。
俺は心配しつつも、シロを見送った。
一緒に行けばいいんだろうけど、まぁ近くだしな。

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