「あぁっ、一夫っ、一夫…ぉ!!」
「梢介っ、くはぁ…っ!」
これだけずっとお互い片思いをしていたんだ。
キスだけで終わるはずがなかった。
俺も一夫も、何も言わなくてもその思いは通じ合っていた。
この人と一つになりたい、と。
「一夫っ、一夫のキュウリ凄い…っ、凄いよ…っ!」
「梢介も凄いぞ…っ、この桃みたいなお尻の中が…っ!サイコーだぜぇっ!!」
「バカぁっ、うちは八百屋だって…っ!」
「そうだな…っ、じゃあ何がい……くぅっ!!」
一夫のものは、思った以上だった。
俺が想像していたよりも随分大きくて立派で…。
キュウリなんてレベルじゃない、これはもうトウモロコシでも敵わない!
そんなものをこんなところに入れられたのは初めてで、最初こそ痛みで死んでしまいそうになった。
だけどそれも今は違う、快感でおかしくて死んでしまいそうだ。
こんなにも好きな人とするセックスが気持ちがいいとは思わなかった。
もっとも俺は、今までセックスの経験がないから比べようがないのだけれど。
「あっ、一夫っ!ダメもう…っ!!」
「よし梢介ぇっ、一緒に…っ、一緒にイくぞ…はぁっ!!…っく、そりゃあっ!!」
全身を激しく揺さ振られて、俺は一夫とのセックスに酔いしれた。
耳元で聞こえる荒い息遣いから、一夫も同じように気持ちがいいということがわかる。
俺はもう嬉しくて、気持ちがよくて、ボロボロと涙を流し続けた。
「あ────…っ!!」
「うっ、はあぁ───…!!」
程なくして快感の絶頂に達すると、俺達は共に床に崩れ落ちた。
2人の熱を分かち合うことが出来て満足だった。
本当に夢のようだと思った。
どうかこの夢がずっと続きますように。
裸のまま抱き合ってキスを交わしながら、俺は胸の中で祈った。
それからと言うものの、俺達は狂ったようにセックスに明け暮れた。
初めての時のように店が営業中で誰もいない家の中や風呂、もちろん一夫の家でも同じようにした。
我慢が出来なければ学校ですることもあったし、真夜中の公園にだって抜け出して行った。
それでも俺達が男同士で、許される仲ではないことぐらいはわかっていた。
だから念には念を入れて、誰にも見つからないようにする努力はしていたつもりだった。
「何をやっているんだお前達っ!!」
「か、一夫っ!お前は───…!!」
数年後のある日、いつものようにセックスに励んでいた俺達の後ろで大きな音が鳴った。
それは俺の部屋のドアが開く音で、そこには俺と一夫の父ちゃんが立っていたのだ。
「しょ、梢介っお前はっ!えぇい離れろっ!」
「一夫っ、お前父ちゃんに隠れて何てことを…!!」
よりによって見事に俺の中には一夫ががっちりと嵌っていた。
運が悪かったと言えばそうかもしれない。
言い訳も出来ない状況だということもわかっている。
悪いことをしたのは俺達だ。
それぐらいはわかっている。
それでも俺は…、俺は…一夫が…。
「嫌だっ、俺は一夫が好きなんだっ!」
「な、何をバカなことを言っとるっ!いいから離れんかいっ!!」
「何すんだクソオヤジ!!俺と梢介は愛し合ってるんだっ!」
「愛し合っているだと?!お前達は男同士じゃろうがっ!いいから早く抜かんかこのバカ息子!!」
そんなのはわかってる。
男同士だって、普通じゃないってことぐらい。
でも俺は一夫じゃなきゃダメなんだ…父ちゃん、わかってくれよ…!!
「人んちの息子に向かってバカとはなんじゃっ!このハゲオヤジ!!」
「うるさいっ!わしはハゲとらんっ!!」
顔を合わせれば親同士はこうだ。
親同士がこんなに仲が悪くなければ…何度そう思ったことか。
そしたら俺と一夫だって愛し合うのを止められなかったかもしれないのに…。
悔しい…、どうしてこんな家に生まれてしまったかと思うと悔しい。
「えぇい、いいから離れろお前達っ!!今後一切会うことも許さ───ん!!」
俺達は結局、親達に無理矢理離れさせられてしまった。
俺も一夫もまだ達していなかったからそれはもう後味の悪いものだった。
いや、それよりも今後一切会うな、だなんて…。
こんなに近くにいるのに会うなと言うのか…?
そんなの拷問だろ、死ねと言われたも同然だ。
俺達はまるで現代のロミオとジュリエットだ…。
愛してはいけない人を愛してしまった。
でもこれは運命と言うもの…。
あぁ一夫、あなたはなぜ一夫なの…。
「梢介っ、梢介っ。」
「一夫?!」
俺が暗い部屋で一人涙を流している時だった。
窓がコンコンと鳴って、そこには別れさせられたはずの一夫がいる。
ここは二階なのに…危険を冒してまで会いに来てくれたのか…?
「梢介、急げ。」
「え…?何…?」
「迎えに来た。一緒に逃げよう。駆け落ちするんだ、梢介。愛してるんだ。」
「一夫…!!」
俺は一夫の胸に思い切り飛び込んで、短い間その温もりを味わった。
急いで必要最低限の荷物だけまとめると、家族への書き置きだけして家を飛び出した。
一夫と一緒なら何でも出来る。
一夫と一緒なら恐くない。
一夫と一緒なら大丈夫。
それは若い2人の情熱的な恋そのものだと思った。
「梢介、ありがとう、ついて来てくれて。」
「そんな…当たり前だろ?」
俺達はどこへ行くかもわからないまま、電車に飛び乗った。
もう夜も遅いその電車はほとんど客もいなくて、窓の外の明かりも少なくなっていった。
2人で肩を並べて電車に揺られながら、俺はあぁこれでよかったのだと思った。
「実は自信がなかったんだよな。」
「一夫…。」
「家のこともあるし…。お前八百屋継ぐってはりきってたし。」
「そんな…。俺、一夫と会えなくなる方が嫌だ。八百屋なんかいらない。」
一夫さえいればいい。
八百屋なんか継がなくても、もうなくなってしまっても構わない。
俺の人生はこの恋に落ちた日から、一夫のものなんだ。
俺は一夫のために生きると決めたのだから。
俺の人生は一夫のため、この恋のためにあるんだ…。
「そうか…嬉しいよ梢介。少し寝た方がいいな。終点まではまだ時間がある。」
「うん…一夫…。」
俺は一夫の胸に身体を預けて、ゆっくりと瞳を閉じた。
一夫の服は新鮮な野菜の匂いがして、家のことを思うと少しだけ胸が痛んだ。
でも一夫がしてくれたキスには敵わなくて、すぐに俺は眠りに落ちていた。