■第一回・キングオブ脇役選手権にて1位を獲得した「ベジタブル・ラブバトル」の父カップルの話です。
ただの幼馴染みだったあいつを見る自分の目が違って来たのは、いつからだったのだろう。
幼い頃はそれこそ本当に幼馴染みとしか思っていなかった。
喧嘩も強くて頼りになる、幼馴染み。
そんな幼馴染みに憧れという感情を抱いていたことは否定はしない。
だけど今この胸の中にあるのはまぎれもなく恋愛感情だ。
俺はあいつに…同じ男である一夫に恋をしてしまっているのだ。
いつからなんてもう思い出せないぐらい、ずっと前から。
「よっ、梢介元気か?」
「あ…一夫…。」
学校から帰って俺が店番をしていると、その幼馴染みの一夫がやって来た。
一夫も店番をしていたらしく、客がいない間に俺を見つけて寄って来たのだ。
「うお、お前んとこのキュウリいい色してんなぁ~。」
「え…。そ、そうか…?」
一夫とは、家が向かい同士だ。
おまけに向かい同士で同じ八百屋を営んでいる。
そのせいでお互いの親のそのまた親も仲が悪い。
それでも一夫は、そういう家のことを抜きにして俺と付き合ってくれていた。
俺はそういう一夫のことを心から尊敬していた。
とにかく一夫は見た目も性格も男らしくて、格好がいい。
これで彼女の一人もいないと言うのだから世の中不思議だ。
「うん、艶もいいし。どっから仕入れたんだよ?」
「え…?それは多分いつもの…あっ、それは言えないな。」
いくら仲がよくても、商売においては一夫は敵だ。
じいちゃんも父ちゃんもいないからと言ってそういうことを軽々と話すわけにはいかない。
「何何ー?俺とお前の仲だろー?」
「な、何それ…っ?どういう…っ。」
一夫は気付いていない。
俺が一夫のことを幼馴染み以上に思っているだなんて。
そんな風に軽く言えるぐらいだ、絶対に気付いてはいない。
いや、むしろ気付かれない方がいいんだ。
男に好きだなんて言われたって、一夫は困ってしまうに決まっている。
「ちょっと一口ー♪」
「あっ、一夫…!ダメだっ!」
「なんだよんな怒るなよ~。後でうちのキュウリ一本やるからよ。味見味見♪」
「一夫…。」
そうじゃないんだ一夫…。
そうやってキュウリを勝手に食べることを責めているんじゃない。
そうじゃなくて俺は…。
「んー。やっぱうめぇ。梢介、これうめぇよ。」
まずいって!!
そんな風にキュウリを口の中に入れたり音を立てて食べたりされたら…。
キュウリの汁まで出てきているじゃないかっ!
「どうした?梢介?」
ダメなんだっ!!
一夫がそうやってキュウリだの何だのと食べているところを見るのが!
だって…だってどう見ても俺にはフ○ラしてるとしか見えないんだっ!!
あぁそのキュウリになりたい…。
一夫にしゃぶられたい…。
俺のあそこがそのキュウリだったなら…!!
俺のあそこよキュウリになれっ!!
そんな夢を見てしまうからダメなんだ────…!!!
「おっ、俺じいちゃんに用頼まれてたんだっ!」
「あっ、おい店は…。」
「一夫見ててくれっ!」
「え?おい梢介っ?!俺も店あんだけど!おいって…!」
俺は止める一夫を見向きもしないで、店の奥の家屋へと駆け込んだ。
もう無理だ…!
もう一夫の前には出られない…。
だって俺…、今のでしっかり勃起しちゃったんだよ───…!!
「ん…はぁっ、あ…っ。」
俺はじいちゃんに店番を頼んで、前屈みになりながら自分の部屋へ閉じこもった。
ズボンのチャックを下げて、膨らんだそれを解放してやる。
キュウリを食べる一夫を見ただけでこんなになるなんて…。
俺は勃ち上がったそれを手で包みながら、思い切り擦り上げた。
「あぁっ、一夫…っ、一夫ぉ…っ。」
一夫にこんなことが知れたら軽蔑されるだろう。
それでも俺の手も恋心も止まらなくて、一夫の名前を呼び続けた。
やがて透明な液体がキュウリの汁のように溢れ出して来ると、それすらも先程の一夫と重ねて見てしまっていた。
あぁ、本当に一夫にしゃぶられているみたいだ…。
「一夫…っ、一夫好きっ、好きだあぁっ!!」
最後は大きな声を上げ、一夫の名前を叫びながら絶頂に達した。
俺の掌にはべっとりと放出された白濁液が絡み付いている。
それを見た途端、俺の中で後悔の波が押し寄せていた。
押し寄せて、それに潰されそうになるぐらい苦しい。
どうすればいいんだ…一夫…、一夫…。
「梢介…?今の…。」
「……え?」
あまりにも一夫のことを考えていたせいだろうか。
俺の頭の中で一夫の幻が見えるなんて。
しかも一夫の声まで聞こえるなんて…。
「今の本当か…?」
「…か、一夫…っ!!」
ぎょえぇーーー!!
ほ、本物だったとは!!
どうりでやたらリアルだとは思ったけどよ!!
驚きのあまり何も言えなくなって口をパクパクさせている俺の後ろには、本物の一夫が立っていた。
「か、一夫っ、これはその…!暑くて脱いでいただけで!」
無理だ!誤魔化せない!!
だってもうすぐ冬だって言うのに。
しかも俺の部屋は暖房は入っていない。
苦しすぎる、苦しすぎるぞこれは。
俺はない頭で必死に一夫に対する言い訳を考えた。
「暑くて?嘘だろ?」
考えたけれど、もう言い訳なんか出来ない状況だということはわかっていた。
一夫からは後ろ姿しか見えなくても、俺が下半身を丸出しなのは一目瞭然だ。
おまけに振り向いた時に濡れた掌を見られてしまった。
もう終わりだ…。
俺は今まで15年間も続いてきたこの関係を断ち切らなければいけないんだ。
こんなことになるなら自慰なんてするんじゃなかった…。
もう幼馴染みにも戻れなくなるぐらいなら。
「梢介ぇ~一人でしてたんだよなぁ?」
「う…、一夫…。」
ニヤリと笑った一夫の視線が痛い。
もう俺のことを軽蔑して嫌っているんだ。
変態だって思ってるに違いない。
俺のバカ…なんで我慢出来なかったんだ…。
我慢して(多分できないけど)後から風呂ででもやればよかったじゃないか。
今頃自分を責めてももう遅い…。
「梢介が心配で来てみたらこーんなことになってるなんてな。」
「ごめん…!一夫ごめん!頼む!許してくれ!無理かもしれないけど忘れてくれ!」
「それは無理だなーフフン。」
「お願いだ!見なかったことに…!」
たとえばこれが逆の立場だったとしたら、俺だって忘れることは出来ないだろう。
不可能なことを言っているのはわかっていても、一夫を縁を切られるよりはよかった。
しかし俺のその願いは思ってもいないところで裏切られることになる。
「無理だ!好きな奴のそんなオイシイ姿忘れられるわけないだろ?!」
「オ…オイシイ…??」
「だって梢介がオナってんだぜ?俺をオカズによぉ!こんなすげぇことねぇだろ?!」
「あの、一夫…それより今好きな奴って…?」
「いいか。正直に言う。俺は梢介が好きだ!ずっと好きだったんだ!!」
「か、一夫っ?!」
「だからわざといやらしい音たててキュウリだの何だの食ったんだよっ。お前が欲情してくれたらと思ってな!」
「ええぇっ?!わ、わざとだったのかあれ?!」
一夫の口からは次々と信じられない言葉が飛び出した。
あのキュウリもわざとだったなんて…。
一夫が俺のことを好きだったなんて…!!
あぁっ、俺はなんて幸せなんだっ!!
「梢介…好きだ…。お前はどうなんだ?」
「か、一夫…。」
俺の手を取って見つめてくる一夫の目は真剣そのものだった。
この目は絶対に嘘なんかじゃない。
それに一夫は嘘を吐くのを嫌うような奴だ。
何よりズボン越しでもわかるぐらい、一夫の股間はもっこりとしているのだ!
一夫…信じていいのか…?
お前の気持ちと股間を、俺信じていいんだよな…?
「梢介…。言ってくれよ…。」
「一夫…、俺も好きなんだ…!一夫のことがずっと好きだった…!!」
「梢介…!嬉しいよ…!」
「うん、俺も…!一夫…っ!!」
俺達は気持ちを確かめ合うように、きつく抱き合った。
手がベトベトになっているのとか、下半身丸出しなことなんかはどうでもよかった。
ただ一夫の気持ちが嬉しくて、夢中でキスを繰り返した。